大人のための歴史学

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エッセイ:脇役の日本史(5)源(土御門)通親(源頼朝を手玉にとった男)(3)

2017-03-13 10:03:43 | エッセイ
 一方の通親だが、若いころは実務官僚として職務に精励し評価を高めていたが、妻が後鳥羽天皇の乳母となり、立場がぐんと強化された。さらに、後白河法皇の寵姫で当時の政界で隠然たる影響力をふるっていた丹後局ともいつのまにか結びついている。その傍ら、その家柄や政治的地位に加え実務に詳しいということが幸いし、先ほどの「内閣」のメンバーにも滑り込んでいるのである。誠に巧みな処世ぶりである。そして大姫入内問題をめぐり兼実との関係が悪化した頼朝は、この通親に接近してその計画を推し進めようとした。一節によれば、そもそも大姫入内計画そのものが、通親と丹後局からの提案であった、との説もある。

 この頼朝の弱みを握って、巧みに画策する。まず兼実が好ましくないとしてつぶしてしまった、長講堂領という、まあ簡単に言えば皇室領荘園群の復活を、頼朝を通して兼実に要求させた。これはかつて、通親と丹後局が一生懸命こしらえた荘園群であった。兼実の渋面が目に浮かぶようである。そしてやがて兼実の娘(皇女を生んでいた)が宮中からの退出を命ぜられ、兼実自身も関白罷免、更に流罪をという声もあったがこれはさすがに後鳥羽天皇が止めた。また、弟で天台座主慈円(比叡山延暦寺のトップ、中世を代表する歴史書『愚管抄』の著者)もその地位を追われた。頼朝はこの一連の政変に防寒の態度だったが、都人の間にはこの背景には頼朝の意向が働いたのではないかとのうわさもあったという。

 こうして通親は、大姫入内を餌に、頼朝と兼実の分断を図り、その間に着々と自身の勢力拡大を図ったわけだが、その大姫が結局はなくなり、頼朝が描いた入内の夢は消える。かたや、通親が入内させた養女が逆に皇子を生んでいた。やがて、後鳥羽天皇はこの皇子に譲位して院政を復活することを望み、その結果通親の外孫の皇子が即位し、通親は天皇の外祖父となった。さらに内大臣に昇進すると、藤原摂関家内部でライバル関係にあった、近衛家と九条家の若い嫡男を左右大臣にそれぞれつける一方、何かとうるさいご老体藤原頼実を太政大臣(このころは名誉職で実権がない)にまつりあげた。これは藤原氏との衝突を避けつつ、また摂関家内で近衛・九条両家のバランスをとりつつも両者を均衡させ、自然にお互いをけん制させるという目論見であろう。そしてうるさいご老体から実権を奪い、実質的に内大臣通親が長老格として、あるいは政界の重鎮として主導権を握る、という政治環境を整えたということである。まさに我が世の春である。

 一方頼朝に対しては大姫入内問題に象徴されるように、兼実と違って、のらりくらりとやり過ごし、またどちらつかずの姿勢に終始した。もはや頼朝側には朝廷内部に、かつての兼実のような強靭な橋頭保を失い、結果朝廷に対する影響力は大いに後退した。その証拠に頼朝は後鳥羽の譲位に反対だったが、結局押し切られた。その際にも一応鎌倉には使いを送ったが、その返事を待たずにさっさと即位を強行してしまう。もはや頼朝はリモートコントロールするどころか、逆に振り回されたのである。やがて失意のうちに頼朝はなくなった。

 この時も通親の寝業が光る。通親は頼朝危篤の知らせを受け、通親は頼朝の息子頼家の昇進人事を急ぎ行った。実はこれには裏があり、頼家昇進で空いたポストを自分が手に入れることになっていたのである。しかし、頼朝死去という不吉な出来事が起こった場合、こうした昇進人事は一時ストップとなる。そこで頼朝死去の報が正式に朝廷に届く寸前に、強引にこの人事を強行し、その直後報告があるやいなや、今度は喪に服すとして邸に閉じこもってしまったのである。ほどなく、頼家に頼朝の後継者となるようにとの朝廷の命が鎌倉に伝えられたが、官界の慣例・序列でいえば、頼家はその前に一定の地位に昇進しておらねばならず、鎌倉はさっきの通親の荒業に感謝した。そして幕府からの支持を得る一方、自身もそれとワンセットになっていた重職の兼任ポストもしっかりと確保してしまったのである。しかしこうしたやり口は、同時代のみならず後世からも非難の的になった。(続く)
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