石仏散歩

現代人の多くに無視される石仏たち。その石仏を愛でる少数派の、これは独り言です。

125 シリーズ東京の寺町(9)谷中寺町-16(谷中6丁目のイ)

2016-10-15 05:45:08 | 寺町

前回で5丁目は終わり。

三崎坂へ戻り、観智院の前の信号を南に入る。(下の地図では、観智院は見えない。上方の野々村ビルの向いが観智院)

道の右が谷中4丁目、左が、今回の目的地、谷中6丁目。

すぐ西光寺が見えてくる。

寺の名前で西光寺は、最多ではなかろうか。

調べたわけでもなく、そう感じるだけだが。

58 新義真言宗仏到山無量寿院西光寺(谷中6-2-20)

もう57か寺も回ってきたが、谷中寺町は日蓮宗寺院が多いから、肝心の石造物は、寺の数の割には少ない。

西光寺は、真言宗だから、期待に違わず大ぶりの石仏が並んでいる。

寺の「売り物」は、韋駄天像。

「足病平癒」と山門前の石塔にその効能をうたい、更に韋駄天像脇の説明板では「当山の韋駄天・十一面観音像は太閤秀吉朝鮮入国の際、藤堂高虎候が朝鮮より請来、安置せしものなり」とある。(*2年前にはあったが、現在、説明板はない)

朝鮮側からすれば、請来ではなく、略奪と言うかもしれない。

『日本石仏図典』では、韋駄天の項で「文禄、慶長の役と呼ばれる朝鮮への侵略戦争の結果、我が国は強く朝鮮文化の影響を受けることとなった。多くの文物や技能者がもたらされ、近世文化の形成に与っているが、近世の信仰や石彫技術と朝鮮文化との関係については、まだ解明されるに至らず、今後の課題というべきであろう」と述べている。

藤堂高虎の名前が出たので、付け加えると、西光寺は慶長8年(1603)に藤堂高虎によって開山されているから、韋駄天像は朝鮮の石造物だった可能性は高そうだ。

その韋駄天の右は、これも朝鮮から持ってきたという十一面観音像。

さらに1基おいて、右端は地蔵立像がおわす。

また、韋駄天の左には、青面金剛庚申塔が。

谷中寺町58か寺目にして、やっとこれで2基の庚申塔に出会ったことになる。

そして、一番左には、極めて珍しい閻魔様。

珍しいというのは、立像だから。

座像閻魔ばかり見てきたので、何の仏像か分からず、寺の人に訊いてしまった。

亡者を裁くのだから、どっしりと座っていてほしい。

立像だと何か重みに欠けるような気が、私にはする。

 

59 真言宗豊山派瑠璃光山長久院薬師寺(谷中6-2-16)

薬師寺ではなく、長久院と呼ぶのは、なぜなのだろうか。

 寺号ではなく、院号で呼称する寺を見聞きするたびに疑問に思う。

この寺も、隣の西光寺と同じく、慶長年間に神田北寺町に開基し、慶安年間にこの地に移転してきた。

山門の左潜戸の穴は、戊辰戦争の時の銃痕。

逃げ惑う彰義隊に官軍が撃った弾だろうか。

西光寺と同じく閻魔がいらっしゃるが、こちらはいつもの座像。

両脇に司命(判決を言い渡す)、司禄(記録係)を従える執務中の閻魔さまです。

風変わりなのは、造立者が六十六部聖だということ。

そのこともあってか、この三体は、台東区有形文化財に指定されていて、山門にその説明板もある。

台座に刻まれた銘文によるとこの3躰は、六十六部聖の光誉円心という人が享保十一年(1716)に造立したものです。六十六部聖とは、法華経を六十六部書き写し、全国六十六か所の霊場に一部ずつ奉納した聖をいいます。江戸時代になると経典の奉納の他に石塔・石仏を造立するようになりました。これは生前の罪障を滅し、死後の往生に近づくこととされたためです」。(台東区教育委員会)

六十六部造立の石仏としては、地蔵が多く、閻魔は極めて稀だということも指定要因となったようだ。

境内には、他に銅像の大日如来が座し、

墓地におわすのは、持経観音か、それとも白衣観音だろうか。

境内に句碑がある。

「花のひらくごとく 冬日の射しにけ里 春一」

ネット検索したら、瀧春一という蛇笏賞受賞の俳人だった。

60 天台宗清林山和光院大泉寺(谷中6-2-13)

慶長年間に神田北寺町に創建され、寺地が幕府の用地となったため慶安年間に当地に移転してきたのは、長久院や西光寺と同じ。

長久院の山門には、戊辰戦争時の弾痕があるが、大泉寺の山門は焼け落ちて、平成になり、再建したばかり。

境内に石仏は少ない。

参道横の地蔵立像が目立つ。

「大乗妙典六十六部日本回国供養塔」もある。

気になるのは、本堂前に点在する石像群。

衣服から仏ではないようだ。

江戸時代の百姓か、武士。

面構えからすると武士のようでもあるが、まさか羅漢ではあるまい。

寺に電話してみた。

石像名も制作者も年代も分からない、のだそうだ。

「四十七士ではないか」という人もいるという。

近世の事ならば、かなりの事が記録されて残っているものだが、皆目不明というのだから、意外な感がする。

 *次回更新日は、10月20日です。

 

≪参考図書≫

 ◇台東区教委『台東区の歴史散歩』昭和55年

 ◇石田良介『谷根千百景』平成11年

 ◇和田信子『大江戸めぐりー御府内八十八ケ所』2002年

◇森まゆみ『谷中スケッチブック』1994年

 ◇木村春雄『谷中の今昔』昭和33年

 ◇会田範治『谷中叢話』昭和36年

 ◇工藤寛正『東京お墓散歩2002年』

 ◇酒井不二雄『東京路上細見3』1998年

 ◇望月真澄『江戸の法華信仰』平成27年

 ◇台東区教委『台東区の歴史散歩』昭和55年

▽猫のあしあとhttp://www.tesshow.jp/index.html

 

 


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