たわいもない話

かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ大和魂

駄 感

2017年02月21日 09時56分28秒 | 雲雀のさえずり

 ○ 荒海の 沖の御前に 春問わば


  われに希の 有や無しかも


       白 雲 善 恕
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駄 感

2017年02月15日 10時21分10秒 | 雲雀のさえずり
 
  ○ 雪きれし 青空のぞき 心晴れ

   足取り軽く 買い出しに行く



       白 雲 善 恕
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駄 感

2017年02月12日 11時55分53秒 | 雲雀のさえずり

 ○ ドカ雪に 途絶へし家の 道をかき

   老人(ひと)の心の 琴線に触れ

           
           白 雲 善 恕
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冷 戦

2017年02月12日 11時53分59秒 | 雲雀のさえずり

  昨夜から降り続く雪。

  今日は雪搔きしなくては。

  朝食をすませて外に出た。

  雪は60センチくらい積もっている。

  一月に降った雪より、はるかに多い。

  前回は、ハイペースで雪搔きをし、途中でダウンしてしまった。

  今日は、スローペースでしよう。

  心でつぶやいた。

  「こんなに降っちょう時にせんでも、止んでからしない・・・・・・」

  「私、よう、手伝わんけんなー」

  「うるさい! お前に手伝えなんて、一言も、いっちょうへんがな」

  作業は、9時から12時近くまで黙々と続いた。

  「ホットケーキ焼いたけど、食べる?」

  「いらん!」

  家内が、顔を見せたのは、この一度だけ。

  たわいもない、冷戦継続中。







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冷 戦

2017年02月10日 10時34分23秒 | 雲雀のさえずり

  テレビに某大臣の顔が映し出された。
 
 「この人にだけは、命を預けたくないなー」

 「もういいけん。その言葉、何度も聞いたわ!」

 「もう、お前とは話はせん。」

  そんな、たわいもない会話がもとで

  孤独な私と、多弁な家内の冷戦状態が続いている。


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駄 感

2017年02月10日 10時12分21秒 | 雲雀のさえずり


 ○  春雷の 海を引き裂く 閃光に

   この散歩道 避難場もなく


         白 雲 善 恕
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駄 感

2017年02月09日 16時56分54秒 | 雲雀のさえずり
 
 ○ 登りては 落ちくる水や 陽とともに

   巡り巡りし 人生一路

      
            白 雲 善 恕
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駄 感

2017年02月08日 09時43分34秒 | 雲雀のさえずり

 ○ 終活を 愛しき人に 裏切られ


 ○ 天敵は 古希を過ぎても 壁となり


白 雲 善 恕
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駄 感

2017年02月05日 11時59分00秒 | 雲雀のさえずり

  ○  三日月も 煌めく星も かすみくる
     
     脳裏を走る わらじ懐かし 


  ○  松明の ゆらじ炎や 深山雪

     奥宮めざす 行者らの波


         白 雲 善 恕
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天の浮橋 (1)

2016年04月09日 10時07分41秒 | 山陰の民話
日本海をさえぎるように延びる島根半島は、岬と湾が交互に鋸歯する荒々しい岩肌が続き、岬の尖端には鳥居が建てられ遙配所も設けられている。
鳥居の正面に立って海を眺めると、遥か彼方には沖之御前と呼ばれる島が望め、眼下の深く落ち込んだ断崖の先には地之御前と呼ばれる島が浮かんでいる。
この二つの島には事代主神が鎮座され、古くから神の宿る島として地元の人々から崇拝され崇められてきた。
古のころ、この岬の断崖の岩場に、海運や漁業を業とする人の手によって、七体のお地蔵さんが祀られ、航海の安全や大漁を祈願したことから、いつしかこの岬を人々は地蔵御崎と呼ぶようになった。
また、この半島のふところに抱かれるように広がる、穏やかな内海は美保湾と呼ばれ、その一角にある袋状の天然の入江に関の港は開かれ、時化の日本海を航行する船舶や漁船の避難場所として重要な役割を担っている。
港から望む対岸には、美保湾から中海に通じる境水道を挟んで、弓ヶ浜半島の白い砂浜と松林が弧を描くように延び、霊峰大山の麓へと流れるように続いている。
うららかな小春日和ともなれば、深い藍色に染まる美保湾と、大山山麓のモミジ、カエデ、ナナカマド、ブナなどに彩られた、色彩豊かな眺望は絶景である。
そして、晩秋の頃には、大山山麓から霞が湧きあがり、雪におおわれた山頂から朝日が昇ると、まるで天女が天空で舞でも舞っているかのような神秘の世界にいざなわれ、我を忘れ吸い込まれるように立ちすくむこともある。
このような風光明美な地にある関の港町は、三日月形の狭あいな地にも関わらず、往時のころは廻船問屋、呉服問屋、米問屋、海鮮問屋、醸造所、旅館などがひしめくように軒を並べ、北前船も行き交う、出雲、伯耆の海の玄関口として大いに栄えていたという。
そんな港町の早朝の波止場に、廻船問屋を営む、坂江屋の主人 清左衛門と番頭の辰吉が立って穏やかな美保湾の沖合を眺めていた。
辺りがしだいに白み始めてくると、漁をする舟の漁火が靄に覆われて、かすかに見え隠れしている。
夜明けと共に輝きを失った月と、港に係留された船が墨絵のように海に浮かんで見える。
東の空が、柔らかなオレンジ色から銀色に変わり始めると、海にかかっていた靄はしだい晴れて、あたりは急に明るくなり霊峰大山が顔をのぞかせた。
太陽は眩しい光を放ち、空には雲ひとつない小春日和。
沖合から吹きつける風が、清左衛門の細身で華奢な体を小刻みに震わせた。
「旦那様、冬も近くなり風が冷たくなってまいりましたなぁ」
辰吉の言葉に、清左衛門は腕組みした両腕で身体を擦りながら頷いた。
「そうだなぁ、もうすぐに霜月になる。美保丸は、今、どのあたりを航行しているか知らせは入らぬか?」
清左衛門は沖合をみつめながら言った。
「蝦夷を長月の初めに発って、越後、加賀、若狭、の国々で荷積み済ませ、但馬の国を、三、四日前に出港するとの知らせがございました。今頃は因幡国の沖合を航行しているものと思います」
「そうか。それでは今日、遅くとも明日の朝の内には帰ってこよう」
清左衛門は、さも待ち遠しそうに頷いた。
清左衛門は坂江屋の当主で、父の彦左衛門から店を引き継いで数年が過ぎていた。
彦左衛門の背丈は低かったが、骨太で頑健な躯体の持ち主で、浪花節堅気の人情に厚い当主であったが、清左衛門が三十路を過ぎたばかりの頃に急な病に倒れて、当主の座を清左衛門に譲って隠居の身となって療養に努めていた。
しかし、彦左衛門の病は家族の献身的な看病の甲斐もなく、平癒するどころかしだいに悪化していった。
死を悟った彦左衛門は辰吉を枕元に呼び寄せて、清左衛門の後見役と坂江屋の将来を辰吉に託すと、静かに浄土へと旅立って行った。
辰吉の父の辰蔵は、この界隈では名の知れた漁師だったが、一人息子の辰吉が七歳の節句とき、鯉のぼりを買う金を稼ごうと荒海に舟を漕ぎだして、時化に遭い行方不明になってしまった。
あとに残された母親の峰は、消息の分からなくなった辰蔵の身を案じる日々が続くうちに、心労や疲労が重なり、辰蔵の後を追うように亡くなってしまった。
子供のなかった彦左衛門は、身寄りもなく独りになってしまった辰吉を哀れの思い、手元に引き取って我が子のように大切に育てた。
それから数年が過ぎて清左衛門が生まれたが、彦左衛門は辰吉と清左衛門を差別することなく、歳の離れた兄弟のように、読み書き算盤から礼儀作法まで、分け隔てすることなく教えて、辰吉を坂江屋の大番頭が任せられる器にまでに育てたのだった。
カランコロン、カランコロン、静かな青石畳通りの敷石を、リズムでも奏でるようにわざとらしく弾く、下駄の音が近づいて清左衛門の着物の裾を揺らした。
「お父さま、お母さまが朝餉の準備ができましたよって」
清左衛門が振り向くと、七歳になる舞が、まん丸な大きな瞳を輝かせ、頬を赤く染めた五歳になったばかりの雛と手をつないで立っていた。
清左衛門は雛の手を取って両脇を抱えると、高々と持ち上げて肩にのせた、小さく柔らかな足首を、淡雪でも包み込むように優しく握った。
そして、清左衛門の腰のあたりまでしかない舞の体を、着物の裾に包むようにしながら、明るくなっていく美保湾を眺めていた。
天使のように無邪気にはしゃぐ雛の、爽やかな重さを肩に感じながら、清左衛門は銀線のような光が降り注ぎ、魚鱗のように輝く沖合に目をやり幸福感に慕っていった。
そんな清左衛門の姿を見つめる辰吉の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「旦那さま、もう、そろそろ店に帰りましょう」
清左衛門は辰吉に促されると、一瞬の夢から覚めたかのような表情で、雛を肩車したまま左右に揺らして歩き出した。
町の商店が軒を連ねる青石畳通りまで帰ってきたとき、清左衛門の下駄の歯が敷石の割れ目に挟まり、プッと鼻緒が切れた。
清左衛門はバランスを失い、雛を肩車したまま敷石にもんどりうって倒れそうになった。
「危ない!」
清左衛門が前のめりになって倒れそうになったわずかな隙間に、辰吉は仰向けになりながら咄嗟に身を投げ出した。
間一髪、清左衛門は、雛を肩車したまま辰吉の上に、おおいかぶさるように倒れ込んできた。
「旦那さま、旦那さま。お嬢さまに、お怪我は、お怪我はありませんか。」
辰吉は、清左衛門と雛の下敷きのなりながらも、わずかに首をもたげ、呻くように叫んだ。
舞も、咄嗟の出来事に、その場にしゃがみ込んでしまった。
「お父さま、お父さま、雛、雛、だいじょうぶ、だいじょうぶ!」
舞は、泣きじゃくりながら、震える声で叫んだ。
清左衛門が雛を抱えながら立ち上がると、辰吉も着物の裾について土を払って立ち、清左衛門の手から雛を受け取った。
辰吉に抱かれた雛は、あまりの出来事に声を出すこともできず、体をこわばらせ震えていたが、幸いなことにどこにも怪我は負ってはいなかった。
「辰吉、ありがとう。お前がいなかったら雛に大怪我を負わせるところだった」
「旦那さま、雛お嬢さまも、怪我がなくて本当に良かったですねぇ」
清左衛門は息を整えながら、辰吉の言葉に静かにうなずいた。
清左衛門は着物についた土を払うと、この出来事は店の者には無論のこと、妻の糸にも話さないようにと固く口止めをした。
清左衛門たちが店に帰ると、丁稚が竹箒で店の前の石畳を、手代たちは土間の格子戸や板敷の床の掃除をしいていた。
「お帰りなさいませ、お帰りなさいませ」
奉公人たちは清左衛門の姿を見ると元気な声で叫んだ。
「おはよう、おはよう」
清左衛門は、奉公人一人ひとりの顔色を確かめて店に入ると、いつものように帳場に座って売上帳に目を通した。
「旦那さま、奉公人たちが全員そろいました」と、辰吉が呼びに来た。
清左衛門が暖簾をくぐって台所の板の間に入ると、奉公人たちが、コの字に並べられた箱膳を前にして、当主の清左衛門と辰吉が席に着くのを待っていた。
この港町の大店では、丁稚が主人と朝食の膳を共にする習慣は殆どなかった。しかし、清左衛門が当主の座に着いた時、真っ先に、朝食の膳を奉公人と共にするよう改めたのだった。
清左衛門が席に着くと、奉公人たちは一斉に”おはようございます”と、口をそろえて朝の挨拶をした。
「おはよう、……」
清左衛門は、コの字に並んだ奉公人の顔色を、一人ひとり確かめると、今日も一日よろしく頼むと言った。
次に辰吉が立ち上がって、北国に商いに行っていた美保丸が今日か明日の昼の内には港に帰ってきそうだ。美保丸が帰港すると、荷揚から物資の仕分け、蔵への運び込みななどで戦場のような忙しさになると思う。いつ帰ってきてもいいように、昼前までには受け入れ体制を整えておくようにと、段取りの説明を事細かに行った。
美保丸が帰ってくる。
薄々は知らされていた奉公人たちも、辰吉の一言で色めき立った。
奉公人たちは早々に朝食を切りあげると、達吉の指示の下、美保丸の帰港に備えた準備を始めた。
ようやく受け入れ準備も整い、奉公人たちがくつろいでいた昼過ぎのことだった。
突然、西の空から鉛色の雲が湧き出してきた。
鉛色の雲は、大粒の雨と雷鳴を轟かせながら、瞬く間に中海から弓ヶ浜半島、そして美保湾の上空に迫ると、関の港を、鉛の絨毯を敷きつめたような雲で覆い、突風とともに関の港町に襲いかかってきた。
ライオンが、鬣をなびかせて襲いかかってくるような大波が、沖合から港に押し寄せ、港を囲んだ防波堤の大岩で砕け散ると、仕掛け花火のように四方八方に飛び散って潮煙をあげながら港を覆った。
近くで漁をしていた漁船は、木の葉のように大波にもまれ、浮きしずみする船を漁師は必死で舟を操り、先を争うように港に入ってくる。
突風とともに降りつける大粒の雨は、坂江屋にも容赦なく襲いかかってきた。
「おぉぉい、急げ、急げ、急いで雨戸を下ろせ!」辰吉は奉公人に向かって叫んだ。
美保丸の受け入れ準備済ませてくつろいでいた奉公人たちは、一斉に外に飛び出すと、暴風雨にさらされながら必死で戸締りに取り掛かった。
雨戸が閉まると店の中は一瞬にして夕暮れのような暗がりになり、びしょ濡れになった奉公人たちはドブネズミのように土間に集まって震えていた。
吹きつける雨は容赦なく、小石のように雨戸を叩き、薄暗い店の中に不気味に鳴り響いて、奉公人の誰一人として口を開くものはいなくなってしまった。
辰吉は女中に蝋燭を早く灯すように命じた。
数本の燭台に蝋燭が灯ると、うす橙色の炎がユラユラと揺れ明かりが店の中に広がった。
夕闇のような中で、帳場に座って目を閉じて腕組みをして瞑想していた清左衛門が、蝋燭の灯かりに誘われるように立ち上がると、奉公人たちの視線は一斉に清左衛門に注がれた。
辰吉は清左衛門の傍らに近づくと、清左衛門の心中を斟酌したかのように「旦那さま、心配することはありません。美保丸はきっと無事に帰って来ますよ」と、奉公人達の不安も和らげるように力強く言った。
しかし、半時がたち、一時が過ぎても、雨戸をたたく雨音は一向に治まる気配はなく、それどころか雨音はさらに強くなるばかりだった。
奉公人たちは固く口を閉ざして、店の中は重い空気に包まれてまるで通夜のよう静まり返っていった。
清左衛門は奉公人たちを一瞥して土間に降りると、固く閉ざされた雨戸の突かい棒をはずして雨戸を開けた。
”ビュー”一瞬にして、凄まじい風雨が店に吹き込んできた。
彼は、雨戸にもたれかかるようにして体を支えると、僅かに開けた雨戸の隙間から港に目を向けた瞬間、砂嵐のような雨粒に襲われて目を閉じてしまった。
必死の形相で目をみひらいて港を見ると、防波堤で砕けた波はうねりとなって港に押し寄せて岸壁を越え、波止場から二十間ほど奥に建つ坂江屋の店先まで迫っていた。
晩秋の空は、厚い雲と風雨に遮られ夕闇のように暗くなっている中で、彼は、叩きつける風雨に耐え、荒海を凝視して大きな溜息を吐いた。
「 うーん・・・・・・」
彼の顔からはみるみる内に血の気が引き、着物がびしょ濡れになるのも忘れ呆然と沖合を見つめるだけだった。
彼は気を取り戻して雨戸を閉めると辰吉や奉公人には目もくれず、店の土間から母屋に通じる廊下を雨で濡らしながら中庭を抜けて母屋に帰って行った。
びしょ濡れになった清左衛門の着物姿を見て、妻の糸は慌てた様子で清左衛門に尋ねた。
「いったい、どうされたのです? そんなにびしょ濡れになられて、早く着替えてください」
清左衛門が糸の出した手拭いで、濡れた頭や顔そして手足などを拭いて着物を着替えると、糸は濡れた着物を持って部屋を出て行った。
清左衛門は糸の姿が見えなくなるのを確かめると、仏間へ入って焼香を済ませると、その場で瞑想したまま動かなくなった。
暫くして、静かに目をひらいた清左衛門は糸を呼んで彼の前に座らせた。
「糸お前も知っている通り、美保丸は今日か明日には帰ってくるはずになっていた。しかし、この大時化。どこかの港に避難していてくれればいいのだが、今も航行しているようだと難波しても不思議ではない。わしは、万一のことを考えると、ここでじっとしては居られない。そこで、今から地蔵崎まで海の様子を見に行こうと思う。辰吉や奉公人に言うと心配をかけるだけだから黙って行かせてくれないか」
糸は顔をこわばらせて、清左衛門に擦り寄って言った。
「お前さん、なに言てるんです。この大時化の中を地蔵御崎に行くなんて命を捨てに行くようなものですよ!」
「今は美保丸が帰ってくるのを悠長に待っていられるような場合ではない。わしが地蔵埼に行って、沖之御前、地之御前に鎮座される事代主命に命を賭し、美保丸の無事をお祈りしてこそ願いが叶うというもの。わしのことは心配ない、何も言わずに行かせてくれないか」
糸は崩れるように膝を落とすと、彼を見上げて必死に思い止まらせようとすがりついた。
「糸、もういい。わしは坂江屋の当主だ。わしの命に代えても、船頭や舟子の命を守る責任がある。地蔵御崎に行く支度を頼む」
清左衛門は足に脚絆を巻き、菅笠に蓑を身に着けるとカンテラを手に、心配そうに見送る糸の視線を背に受けながら、裏木戸から荒れ狂う風雨の中を地蔵御崎に向かった。
日本海に沿うように横たわる島根半島が荒波を遮り、平素は穏やかな美保湾も、この日ばかりは様相が一変し、強風にあおられた小山のような波が次々と港に押し寄せていた。
首をすくめ、前屈みになって歩く清左衛門の身体には、波止場で砕け散った波しぶきが容赦なく襲いかり、彼は海沿いの道を避けて山手側の小路に入った。
風雨は商家と切り立った裏山に遮られて幾分弱まる中を、彼は半町ほど歩いて美保神社の鳥居の前に出た。
美保神社は、事代主神、美穂津姫命をご祭神とし、漁業、海運、商業、歌舞音曲にご利益のあるお宮として多くの参拝者を集めていた。
大社造りで、重厚な二重の本殿を備え、えびす様を祀る全国各地の三千三百八十五社の総本社でもある。
彼は鳥居の前に立つと、目を閉じ深々と頭を下げ、二礼、二柏手、一礼すると、本殿に向かって美保丸の無事を祈願した。
関の港町は、三日月形の狭隘な土地のすぐ裏に切り立った山が迫り、その僅かな土地と海との間に二本の道があったが、岸壁に沿って延びる海沿いの道は激しい波しぶきに覆われていたため、彼は商家や旅館などがひしめくように軒を並べ、道幅の狭い青石を敷きつめた青石畳通りに入った。
普段は多くの人で賑わうこの青石畳通りも、この日ばかりは家々が固く雨戸を閉ざし、通りには人影はおろか猫一匹の姿も見当たらなかった。
彼が青石畳通りから仏谷寺に上る道を過ぎて、町はずれの海沿いの砂利道まで来た時、突然の強風に蓑や菅笠があおられ、咄嗟に菅笠を両手でつかみ、美保湾に目をやった。
沖合から次々に押し寄せる波は、地底から湧き出す、地獄のマグマのように清左衛門の不安を一層かきたてた。
彼はその場でしばらく立ち止まり、菅笠の紐を固く結び直して改めて身支度を整えると、大国主命が祀られている客人神社(まろうど)神社の鳥居をくぐった。
客人神社に登る石段は、天然石で造られ周りを松や杉の古木が覆い、カンテラの灯りが五段先の石段にもとどかないほど暗くなっていた。
彼が雨に濡れて滑りやすくなった石段を、足元を確かめながら一歩また一歩と、百数十段の石段を登ってようやく踊り場に着いた。
古木に覆われた隙間から、暗闇の迫る美保湾の海面を眺めると、黒い海面は不気味に広がっていたが、波の谷間から一瞬かすかな灯りが見えた。
「美保丸の灯りか?」
清左衛門は黒い海面を凝視したが、その灯りは一瞬で見えなくなってしまった。
「気のせいか?」
彼は息を弾ませながら、急いで客人神社の境内まで駆け上って、灯りの見えた海の方向を見たが、黒い海面からはゴーゴーと、海鳴りが響いているだけだった。
彼は気を取り直して、客人神社の本殿の裏から、海岸沿いの地蔵埼に通じる急な坂を下りていった。
地蔵崎に通じる道は、クロマツ、ヤブニッケ、ヤブツバキなどの木々で覆われて、これらの木々が防風林の役目を果たし、美保湾から吹きつける風雨を和らげてくれた。
しかし、狭く険しい道は、シダやクマザサなどで覆われて、鋭く突き出した岩を隠し、その上、晩秋の短い陽は落ち闇夜が迫っていた。
彼はシダやクマザサ、鋭く突き出した岩に足をすくわれながらも、カンテラの灯りを頼りに一里余の道を無我夢中で進んでいった。
地蔵崎の尖端に近づくにつれ、防風林の役目を果たしていた木や、シダ、笹竹クマザサは姿を消し、凸凹の激しい岩場のような道が続いた。
風雨は一層強くなってくる中を、彼は命綱ともいうべきカンテラの灯りを消さないように、体で隠すように歩いていると、菅笠は風であおられ蓑からは雨が流れるように滴り落ちた。


清左衛門がようやく地蔵崎にたどり着いた時には、外海は油煙墨で塗りつぶされたような闇に包まれ、沖之御前も地之御前も全く見えなくなっていた。
それでも清左衛門は、カンテラの明かりだけを頼りに、沖の御前と地の御前に向かって建てられた鳥居の前に立った。
闇の深まりに比例するように、温度はしだいに低くなって、降り続けていた雨は霙から粉雪に変わっていった。
不気味に響く海鳴りは、雷鳴のように轟き、沖合から押し寄せる波は、大蛇がとぐろを巻いて、襲いかかってくるように岩で砕けて清左衛門の不安を一層かきたてた。
彼は、懐から一分銀を出して遙配所の賽銭箱に入れると、吹きつける粉雪にさらされながら、一心に美保丸の無事を祈った。
吹きつける吹雪は、彼の体を白く覆って体力を奪い、彼は意識がもうろうと薄れながらも、気力を振り絞って地蔵崎を後にして、地蔵埼から海沿いの急な坂を下って行った。
そして、舎人神社に登る坂の下までたどり着いた時には、すでに体力は限界に達して夢遊病者のような姿になっていた。
それでも彼は、わずかに残った体力を振り縛って、雪で滑りやすくなった急な坂を登って客人神社に向かった。
「うぅー・・・・・・」
呻くような声と共に、彼の体は崩れて横転し、手にしていたカンテラは吹雪の中に舞った。
雪の中に崩れ落ちるように倒れ込んだ清左衛門には、もう立ち上がる気力も体力も残っておらず、彼はしだいに意識が薄れていった。
「旦那さま― 旦那さまー」
吹雪にかき消されそうな声で、彼を呼び続けるに声はしだいに大きくなってきたが、彼にはそれにこたえるだけの気力も体力も残っていなかった。
坂江屋の母屋の寝所で、死んだように眠り続けた清左衛門が意識を取り戻したのは、次の日の夕方近くで、すでに夕闇が迫っていた。



前日の大荒れが嘘のように治まって寝所は静寂に包まれ、薄闇に残された彼は、荒海をひとり浮遊するような不思議な感覚に襲われた。

夢から覚め、霞のかかったような頭のなかで、自分がどうしてここにいるのかを思い出そうとしたが、思考停止した脳みそはすぐには動かなかった。

「旦那さま、気が付きましたか?」

枕元で囁くように呼ぶ糸の声で瞼を開き、心配そうに覗き込んでいる舞と雛の顔を、不思議な者でも眺めるようにぼんやりと見つめた。

しばらく無言の時間が続いてから、彼は急に布団をはねのけて立ち上がろうとしたが、足が自分の思い通りにならない様子で、崩れるように布団に倒れ込んでしまった。

「旦那さま、無理をなさらないでください」

糸の悲鳴にも聞こえる声に、彼は立ち上がるのをあきらめ、糸に肩を支えられて上半身を布団に起こすと、腕を組んで静かに目を閉じた。

「辰吉を呼んでくれ!」清左衛門は弱々しい声で糸に言った。

糸に辰吉を呼んでくるようにと言われた舞が部屋を出ていくと、入れ違うように寝所の襖が開いて、辰吉が糸の様子を窺うように部屋に入って、清左衛門の枕元に坐った。

「美保丸は、無事に帰ったか?」

「旦那さま、美保丸はまだ帰ってまいりませんが、きっと、どこかの港に避難しているものと思います」と、辰吉は明るく元気な声で答えた。

「それなら、良いのだが!」

清左衛門は辰吉の心に奥を見透かしたように弱々しい声で言った。

「旦那さま、店のことは私にお任せください。旦那様はゆっくり休養して一日も早く元通りの体を取り戻してください」と言って、辰吉は部屋を出て行った。

清左衛門は、薄目を開けてぼんやり天井を眺めていたが、糸と舞と雛に見守られながら再び深い眠りに落ちていった。




辰吉は店に戻ると、店の者や近在の漁師たちの協力を求めて美保丸の捜索に当たったが、美保丸の消息は洋としてつかめないまま時間ばかりが無常に過ぎていった。

それから数日たったある日のこと、その日は、突き抜けるような青空が広がり、日本海の沖合に浮かぶ隠岐諸島もくっきりと見えるほどの小春日和であった。

しかし、懸命な捜索にも拘らず美保丸の行方は洋として分からず、美保丸の行方を案ずる奉公人たちにも苦悩の色が濃くなり、店は重苦しい空気に包まれていた。

“ゴーン、ゴーン” 巳の刻(午前9時)を知らせる仏谷寺の打つ鐘が鳴った。

その時、夜明け前から捜索の指揮を執っていた辰吉が息を弾ませて店に飛び込み、三和土で草履を脱ぎ捨てるのももどかしげに清左衛門の寝所に駆け込んでいった。

「旦那さま、美保丸の、美保丸の舟子が、弓ヶ浜の砂浜に打ち上げられました」

その声に、清左衛門は布団から咄嗟に身を起こした。

「なに、 何人だ!」

「三人です」

「助かった者はいないのか?」

「今は、まだ分かりません」

息せきを切らせながらそれだけを清左衛門に伝えると、辰吉は慌ただしく部屋を出て行った。

清左衛門は布団の上に正座して、しばらく腕を組んだまま瞑想していたが、ここ数日間ですっかりやつれて、一回りも二回りも小さくなった体に坂江屋の半纏を羽織った。
清左衛門が店に姿を現すと、奉公人たちは一斉に清左衛門を見つめたが、彼は奉公人たちを一瞥しただけで早足に港に向かった。
岸壁に立った彼の眼前には紺色に染まった美保湾が広がり、晩秋の日差しが鋭く降り注ぐ海面には、捜索をつづける大小の船が浮かんでいた。
午の刻(午前11時頃)弓ヶ浜の砂浜に打ち上げられた三人の遺体が、地元の漁師たちの手によって戸板に乗せられて運び込まれた。
遺体は辰吉によって一人ひとり確認されると、奉公人たちによって母屋の設けられた安置所に運ばれた。
清左衛門は後を追うように安置所に入ると、血の気を失い、海水でふやけて蒼白く、蝋人形のように無表情になった舟子の顔を見つめた。
彼は、舟子の一人ひとりに深々と首を下げて弔意を表すと、急いで店に引き返して奉公人を集めて、沈痛な面持ちで言った。
「みんな、この度の惨事は、坂江屋はじまって以来の一大事である。まだ行方の分からない者も多くいる、我が子、我が兄弟、我が親と思って、命を賭して捜索にあたってもらいたい」
清左衛門の憔悴しきった姿から発せられる言葉に、奉公人たちはうつむいたまま固く拳を握りしめた。
その日も松明の明かりを頼りに、夜遅くまで捜索が続けられたが一人の乗組員も発見することができなかった。
それからの数日間、美保丸からの連絡はなく、懸命な捜索を続けたが、乗組員はおろか美保丸の残骸の一つも発見することが出来ないまま時間だけが無常に過ぎていった。
捜索も五日目に入ると、漁師や地元人たちの間には、絶望感とともに疲労の色が濃くなり、清左衛門は、
もう、これ以上地元の人たちに迷惑をかけることは出来ないと、断腸の思いで捜索の打ち切ること決決めた。
連日の捜索の疲れで、奉公人たちは死んだように眠りに就き、憔悴しきった辰吉は帳場に座って、今後の店の行末を考えながら帳簿をめくっていた。
「番頭さん、旦那さまが仏間でお待ちです」
と、仲働きの琴が声をかけた。
辰吉は坂江屋にきて四十年近くなっていたが、仏間に呼ばれたのは、先代の当主、彦左衛門が亡くなったとき以来のことだった。

琴は、糸が坂江屋に嫁入りするときに実家から送り込まれた女中で、奥向きの仕事や、清左衛門一家の私事を一切を取り仕切っていた。

辰吉が琴の後について、中庭から母屋に向かいながら空を見上げると、寒々とした夜空には無数の星が、明日の天候を暗示するかのように輝いていた。

母屋の長い廊下を抜けて仏間につくと、琴は襖の前に座って声を掛けた。

「旦那さま、番頭さんがおいでになりました」

仏間から清左衛門の声がした。

「辰吉に入ってもらってくれ」

琴が襖を静かに開けると、清左衛門が仏壇を背にして正座し、清左衛門の正面に、糸と舞、そして雛が並んで座っていた。

辰吉が仏間に入って雛の横に下座に座ると、清左衛門は位牌に向き直って合掌すると、居住まいを正して辰吉の方に向き直った。

そして、辰吉を近くに寄るように促すと、自らにも言い聞かせるように、神妙な口調で静かに話し始めた。

「辰吉、この度の惨事では大変苦労をかけてすまぬ。体は大丈夫か?」

「旦那さま、私の事は心配いなさらないでください。それより、旦那さまこそ心労でお疲れではないかと心配でなりません」

先の大時化から、すっかり精気を失って、白髪が目立ち、体が一回りも二回りも小さくなって見える、清左衛門を目の当たりにして、辰吉は自分の裁量のなさと不甲斐なさに、つい、清左衛門から目を逸らし俯いてしまった。
「辰吉、わしのことを心配してくれることはありがたいが、今は美保丸の安否を第一に考えなくてはなるまい。美保丸からはいまだに連絡もなく懸命の捜索でも発見できない。もう、すでに沈没してしまったものと考えざるを得ないかもしれない。
そうなれば、お前にも坂江屋の行末はあらかた察しがつくと思うが、代々続いたこの坂江屋も、遅かれ早かれ破産は免れないだろう」

そこまで話し終えた清左衛門は、舞と雛の様子をかわるがわる窺うように眺めると、意を決したように口を開いた。

「辰吉、わしの一生一代の願いだ。聞いてはくれまいか」

清左衛門は辰吉に深々と頭を下げた。

「旦那さま、お手を上げください。私でお役に立てる事なら何なりとお申しつけ下さい」

清左衛門の言葉に辰吉の体は震え、それを悟られないように畳に平伏して次の言葉を待った。

「この度の惨事が、世間に広く知られるのも時間の問題だろう。そうなれば、乗組員の遺族や荷主、そして債権者などが大挙して押し寄せ、店は大混乱になるだろう。そうなれば、まだ幼い舞や雛にも、いつ災いが降りかからないとも限らない」

そこで話を中断した清左衛門は、懐から一通の手紙を出して辰吉に渡した。

「この手紙は大山の麓の村、一軒茶屋という所に住む黒見権兵衛いう方に宛てて、お前たちを安寧にかくまってもらえるようにしたためたものだ。
大山の山麓の十九ケ村は天領となっていて、人々が平穏に暮らす桃源郷のようなところと聞いている。この手紙を黒見様に読んでいただけば、お前たちをきっと安全にかくまってくれるはずだ。
わしは一日も早く店を再建して、きっと、お前たちを迎えに行く。その日が来るまで、舞と雛を彼の地で育ててはくれまいか」

「無理な願いだとは、重々承知の上で頼む。辰吉!」

俯いたまま話を聞いていた糸も、涙でぬれた顔をもたげて、辰吉をすがるような眼差しで見つめて頭を下げた。

「旦那さま、女将さん。私ごとき者にそんなに頭を下げないでください。舞お嬢さまと雛お嬢さまは、私の命に代えても、きっとお守りいたします。ご安心ください」

部屋は寂しく重苦しい空気に包まれ、舞と雛を抱きしめ、すすり泣く糸の声に、辰吉の目から溢れた涙は、陽炎のように畳の上に広がっていった。






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