寓居人の独言

身の回りのことや日々の出来事の感想そして楽しかった思い出話

寺田正男 高校学校へ行く(113)

2017年03月20日 23時13分27秒 | 寓話
正男たちは実験を週2日、3週間かけて予定したすべての実験を終了した。

夏休みもあと少しになったので、データの整理は夏休みが明けてからやるこ

とにした。

 正男はこれらの実験を通して大事なことを学ぶことが出来た。それは健樹

という一所懸命に一緒に実験してくれた友達がいたからだ。正男の往々にし

て深く考えてしまう性格によって遅々として進まない実験を、健樹はテキパ

キと実験を進めていった。そんな健樹を見て、正男は自分に不足しているこ

とを学んだのだ。深く考えることも必要だが、計画を進めることも大事なこ

とだとおもった。

 正男の生活は日常の畑作業を中心としたものに戻った。朝早く野菜の収穫

に畑へ行き、その野菜を大新田町へ売りにいく。町の人たちの評判はよく、

いつも野菜は残ることがなかった。そのために魚や肉を時々買うことができ

たし、弘から小遣いを少しもらえたので参考書を買うことができるようにな

った。

 そんなある日、強がふながたやま登山に行ったものは集まるようにと英一

を通じて連絡があった。正男は連絡を受けて正子のことを思い出してしまっ

た。正子にはとっても会いたいと思う心と会えば深みにはまってしまいそう

だという不安があった。正男は誰かに相談したかったが、高校生の自分の立

場を考えるとそうもいかないのだった。そんなとき一人の大人がいることに

気がついた。大新田町の農業高校へ勤めている駒形先生のことを久しぶりに

思い出した。駒形先生はいつの頃か大原台の旧兵舎からいなくなってしまっ

たが、大新田農業高校に努めていることは確実だった。明日野菜を売りに行

ったとき、帰りに高校へ行って予定を聞いくことにした。それで正男は少し

穏やかな気持ちになれた。

 相変わらず午後は参考書を見て問題を解いたり、近頃は英語の小説を読み

始めた。正男の家の西の防風林に来ていたアメリカ兵のヤスダコックから記

念にもらったものだ。この本の著者はアーネスト・ヘミングウェイ、小説の

題名は「The Sun Also Rises」という。はじめはわからない単語が羅列

している感じで次々に辞書で日本語の意味を調べなければならない状態だっ

た。少し進むと内容が理解できるようになって辞書の出番が少なくなってい

った。

 翌日、野菜を牛車に積んで大新田町へ行った。野菜はすぐ売り切れたので、

正男は、弘に断って農業高校へ行った。駒形先生は運良くいるとのことでお

会いしたいと受付の事務員に言うと事務員が職員室の方へ歩いて行った。

 駒形先生は今ならちょうど時間があるから会いましょうと受付のところへ

出てきた。正男はしばらくぶりの再会をうれしくなった。駒形は、

「やあ、正男君か。しばらく会わなかったらずいぶん大きくなったね」

「先生、ご無沙汰していました。先生もお元気の様子で安心しました。今日は

突然おたずねしたのにお会いできてうれしいです」

「今日はわざわざ来てくれたのですか」

「先生に少し相談したいことがありましてご迷惑も考えず来てしまいました」

「正男君は、大川高等学校へ進学したんだったね。もう2年生になったのかな」

「はい。2年生になりました」

「高校へは自転車で通学しているのかな。どのくらい時間がかかるのかなあ」

「はい。大新田町経由で約70分から90分かかります」

「畑はまだ皆さんでやっているのかな」

「今は両親と長兄が東京へ行ってしまったので、すぐ上の兄が一人でがんば

っています。今日はその兄と野菜を売りに来ました。この町の人たちには喜

んでいただいています」

「ほう。朝収穫して売りに来るのかね。それは頑張っているね」

「町の皆様のおかげで時々魚や肉を食べることができるようになりました」

「それはよかった。これからも頑張ってほしいな。ところで今日寄ってくれた

のは何か話したいことがあったのかい」

「はい。実は、こんな話をすると先生に怒られるか笑われるわかりませんが」

「まあ。せっかく来てくれたんだから話してみなさい」

「実は、僕はある女生徒から好きだといわれて、手をつないで歩いたり、最近

では恥ずかしいんですがまだ2回ですが口を合わせたりするようになってし

まいました。僕は初め、からかわれているのだろうと思っていましたが、彼

女の真剣な様子がわかってきて戸惑っているのです。自分としてはこれ以上

進む気がないのに、付き合うのは気が引けるのですが会えばお互いに近くに

よっていってしまうのです。こんなことは誰にも話せないで苦しかったので

すが、昨日フト先生のことを思い出して思い切ってきてしまいました。ご迷

惑でしょうが何は助言していただきたいのですが」

 駒形は、しばらく言葉なく考え込んでいた。正男はこんなことを他人に話

すべきじゃなかったもしれないと思い始めた。

「正男君、君はたくさん本を読んでいたね。今でも読んでいるのかな」

「はい少し本の種類が変わりましたが、まだ読んでいます」

「今はどんな本を読んでいるのかね」

「最近は哲学の本を中心に読んでいますが、回読んだだけでは理解できないの

で、繰り返し読んでいます」

「ほう、哲学の本を読むようになったか。それはよかった。哲学は人間の英知

を言葉に表したものと言われている。君はこの数年でずいぶん成長したんだ

なあ。これからも頑張ってくれたまえ。それで君の話だけど、これは戦争中に

青春時代を過ごした私たちの年代のものにとってはうらやましいことだと思う。

君たちの年頃はいろんなことに好奇心を持つものだ。特に君はな」

 駒形は一度話をとぎらせて、窓から校庭の方を見た。校庭には生徒の影もな

く、ただ夏の強い光が突き刺さるように輝いていた。
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