寓居人の独言

身の回りのことや日々の出来事の感想そして楽しかった思い出話

寺田正夫 高等学校へいく(146)    

2017年05月12日 15時01分02秒 | 寓話

 薄く霞がかかっていた松島湾は冬の日差しを受けて今はすっ

かり晴れてどこまでも続く青い海が光っていた。正夫は今日

のこの松島湾の景色を心に刻んだ。正夫は、只野さんの第2

のお願いという言葉にさらにに緊張した。

「正夫君、大変申し訳ないのだが君の家のことを少しはして

くれないだろうか。細かいことはいいので大雑把なことだけ

でも知っておきたいと思ってね。そのことで第1にお願いし

たことを反故にして暮れなどと言うことは言いませんよ。明

子のことは正夫君と明子の万台ですから」

 正夫はどこまでどう話したらよいのか迷って返事に少しだ

け時間がかかった。

「話したくないというのであればそれでもいいですよ。それで

私たち夫婦の考えに影響することはありません。正夫君の家

の事情がどうあっても第2のお願いはするつもりです。それは

家内と決めたことでもありますからね」

 正夫はその言葉に自分のもしかしたら運命を委ねることに

なるかもしれないと考えた。自分から家のことを話せば、話

のどこかに粉飾される部分が出てしまうかもしれない。それ

は嘘というか真実を話さないことになってしまう。一度嘘を

つけば、それを覆うためにさらに嘘をつくことになるかもし

れない。それなら只野さんから何を聞きたいかを質問しても

らってそれに答える方が真実を話すことができるのじゃない

か。正夫はそう考えて明子のおじいさんにいった。

「お願いがあります。只野さんから僕に質問してください。僕

はそのことについて隠すことなくお話しします。その後でお

話しできなかったことを付け加えさせていただきたいのです

がどうでしょうか」

「うーむ」

 とおじいさんはうなってから、

「正夫君の今のお話しだけで十分な気もします。しかし妻には

理解できないかもしれません。それで幾つか質問させていた

だきましょう」

「はい、分かりました」

 こうして明子の祖父と正夫は正夫の家族のことについて一

問一答の形で話し合いが続けられた。

「正夫君。どうもありがとうございました。孫娘が可愛いばか

りに正夫国は言いにくいことまで話していただきました。実

は、ここからが本題なのです」

「はい。伺います」

「私達は東京市の目黒というところに少しばかりの地所を持ち、

そこに家を建てて住んでいました」

 目黒には正夫も住んでいたことがあった。狸を飼っている

家があってそこの横町を通り抜けるとき異様な匂いに悩まさ

れた記憶がよみがえってきた。近くには軍隊の練兵場があっ

て朝と夕方にはラッパの音が聞こえることがあった。兵舎の

わきに厩舎があってその付近を通ると馬のいななきがきこ

えることがあった。冬には馬の鼻息が白く見えることがあり、

正夫は親に馬がたばこを吸っていると言って笑われたことも

あった。

「その家も空襲で焼けてそのまま放置してあったのですが、

2年前にそこに家を新しく建てました。といっても私たちが

住む家ではなく建物を幾つかの部屋に区切って住むところに

困っている方達に一定の料金で貸しています。今の私たちは

そこから上がる収入で生活しています。住んでいる家族は20

世帯、約100人が暮らしています。その敷地内に管理人が住

む家を建ててあります。今はそこに私の弟夫婦が住んでいま

す」

 正夫は話の内容についていけなくなっていた。要するに只

野さんは目黒に結構広い敷地を所有し、そこに家作を作って

他人に貸していることだろうと考えた。

「私たち夫婦は、もう東京に住むことはありません。もし明子

が東京へ住みたいというのならそこに住むことも可能です。

正夫君が大学を出てしかるべきところに就職して、そのときも

明子のことを思っていてくれるなら明子のことを託したいと

思います。もちろん明子の意志も聞かなければなりませんが、

私たちは明子はもうすでに正夫君と共に生きていきたいと願

っていると確信しています。これが2つめのお願いです」

  正夫はあまりにも早い展開にかなり戸惑ってしまった。

「お話を伺って、僕は今混乱しています。もちろん明子さんと

これからずーっと友達でいたいと言うことには異存がありま

せんし僕自身がそう願っています。少しお時間をいただけな

いでしょうか」

「もちろんですよ。誰かに相談することも必要でしょうから

すぐにとは言いません。できたら次に我が家へ遊びに来てく

ださるときに正夫君の個人的な返事で結構ですよ。実際、私

の健康がどこまで保つのかという方も心配なのです」

「分かりました」

「それじゃこのことは明子にはまだ話さないでおきましょう。

正夫君が話すのはかまいません」

「分かりました」

「それでは、そろそろ家へ戻りましょうか。明子に叱られる

のはかないませんからな」

「はい」

 2人は来た道を戻った。正夫は只野が病魔に冒されている

ようには見えなかった。家に着くと明子が待ちかねたように

飛び出してきた。

「遅かったわね。どこまで行ったんですか」

「明子、悪かった。思わず話が弾んでしまってね。遅くなっ

てしまった」

「明子は外へ出たり家に入ったり大変だったんですよ」

「あらいやだ。正夫さんお帰りなさい」

「ただいま。おじいさんともっと話をしたかったんだけど明

子さんのことも気になったのでもどってきました」

「後でどんなお話をしたか教えてくださいね」

「はい分かりました」

「それではお昼ご飯にしましょうね。用意はできていますか

ら」

 テーブルの上にご馳走が待っていた。4人がテーブルにつ

くと、おじいさんがいただきますと言った。3人もそれに習

っていただきますと言って食事が始まった。

 

ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 寺田正夫 高等学校へ行く(1... | トップ | 寺田正夫 高等学校へいく(1... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。