寓居人の独言

身の回りのことや日々の出来事の感想そして楽しかった思い出話

寺田正夫 高等学校へいく(205)    

2017年07月31日 02時33分20秒 | 寓話

「マオさん」

「なんだい」

「私嬉しくてしょうがないの」

「二人でいるときはいつものことじゃない」

「それがね、今日は今までと全く違うのよ。私おかしくなってしまっ

たのかしら」

「分かった。それはきっとマオウ菌に感染したんだ」

「それってなによ」

「これはね、僕だけが持っている菌でね、しかも一人分しかもてない菌

なんだ。この菌は世界で一番愛する人にあげてしまうともう無くなって

しまう。しかしマオウ菌をもらった女性は身体の中でその菌をどんどん

増殖させてその女性を世界で一番幸せにしてしまうんだよ。それがはた

らきだしたんだよ。それでアコを今まで以上に幸せにする効果が出てき

たんだよ」

「その菌は、他の人にも感染するの」

「それはないよ。この菌は一人の女性にしか感染しないんだからね」

「その一人が私だったのね」

「そういうことになるね」

「私は幸せ者ね。あなたのたった一人愛することの出来る女性になれたん

ですものね」

「アコ菌というのはいないのかなあ」

「いるわよ。その菌はね、私だけを愛さなければいられなくする働きがあ

るの」

「やっぱりいたんだね」

「どういう意味なの」

「その菌はとても強くて、アコを愛さないでいられなくするらしいんだ」

「それで、マオさんがそれに感染したのね」

「そうだよ。だから、こうしなければいられないんだ」

 といいながら、正夫は明子を抱きしめた。

「ああ」

 といいながら、

「もう少し聞いて」

「このままでいいかい」

「いいわ。アコ菌は、マオウ菌とがったすると、もっといいことが起こ

るのよ」

「もっといい事ってどんなことなんだい」

「それは、マオさんがもっと私を愛してくれると分かるわ」

 といって明子は正夫を抱きしめた。

「明日に差し障りがでないかい」

「大丈夫よ。むしろよい音がでるようなると思うわ」

 正夫は明子のいうとおりにしようと決心した。もうこれ以上アコ菌を

さえておくことは出来なかった。

 朝、6時に目覚ましをかけておいたのに正夫はその前に目を覚ました。

正夫は明子の寝顔をジーッとみていた。正夫はこんな素敵な人が自分を

好きになってくれるとは思わなかった。本当にこれで明子が踊ったら竜

宮城へいる気分になってしまう。そう思ったら明子が乙姫様に見えてき

た。正夫は頭を振った。

 明子は乙姫様よりももっと神々しかった。

 そんなことを考えていたら、急に明子の顔に触れたくなった。時刻は5

時50分になっていた。正夫は明子を起こそうと思って手を伸ばしたとき、

明子が薄目を開けた。

「あら、マオさん。お早う。もう起きていたの」

「ほんの少し前だけどね。アコの姿があまりにも神々しかったのでみとれて

いたんだ」

「ふっふふ。ありがとう」

「そろそろ起きる時刻だよ」

「そうね、その前に、ね」

 正夫は思わず明子の顔に自分の顔を近づけた。優しく口づけをして布団

をめくった。そこには明子の身体が輝いていた。明子は、正夫を驚かそう

と思って布団の下で着ていたものを脱いでいたのだ。正夫は思わず明子に

身体を重ねた。

 二人は時刻のことを忘れたしまったように、愛を重ね終わた。

「もう時間がないよ。急がなければ、そうだホテルで朝食をとればそのまま

会場から戻る必要が無いわね」

「そうね、簡単な朝食を頼んでおきましょう」

 といって明子は受話器を取り上げた。

「ちょっとシャワーを浴びてくれわね」

明子はシャワーを浴びてタオルで身体を拭きながら浴室から出てきた。そ

のまま鏡の前に座って簡単にお化粧をした。正夫は素顔の方が好きだった

けど、うっすらと化粧をした明子も素敵だと思った。身支度をすると、着

がえなどを入れたバッグを持って普段着のまま食堂へ行った。

 トーストとミルクそれにサラダという簡単な食事を済ませて二人はホテル

を出た。会場はすっかり準備がすんでいた。ピアノ調律師も明子が来るのを

待っていた。明子は彼に挨拶をしテピアのの前に行き、イスに腰掛けた。深

呼吸を2回してピアノの上に両手を挙げた。明子は袖のところにいる正夫に

合図をしてピアノを弾き出した。それは静かな導入部から始まった。20分間

どすぎるとクライマックスを過ぎて再び静かな音色で消えるように聞こえ

なくなった。すると調律師やスタッフの人たちが盛大な拍手を送った。正夫

も思わず激しく拍手していた。明子は静かにイスから立ち上がり深々と頭を

下げた。明子は舞台で聞いていた女性と何事か話をしていた明子が、その女

性を正夫のところへ連れてきた。

「只野明子さんの演奏をお聴きになりましたね。今回は一段と素晴らしい演奏

を聴かせていただきました。あ、失礼しました。私は明子さんのピアノ教師

をしていた安森紗栄子と申します。これからもよろしくお願いしますね」

「はい、お初にお目にかかります。僕は寺田正夫といいます。僕の方こそよろ

しくお願いします」

「明子さん。この方があなたの大切な人ですね」

「はい、先生」

「明子さんのピアノの音色に艶が加わったのがこれで理解できました」

「先生ったら。正夫さんは、私を最も理解してくれている、世界で一番大切な

です」

「あら、まあ。羨ましいことですわね。明子さんこれからも頑張って下さいね。

それでは後でまたよろしくお願いしますね」

「かしこまりました」

 安森さんが係の女性に何か指示していた。その女性はどこかに消えてすぐ

一枚の紙を持って源って戻ってきた。それを2列目の中央付近のイスに貼り付

けた。そこには寺田正夫様と書いてあった。正夫は大変なことになったと思っ

た。

  発表会の開始時刻に近づくと、きれいな服を着た親子ずれがたくさん入って

きてイスに腰掛けた。会場が少しざわついてきた。

 発表会開始10分前のベルが鳴った。スピーカーからあと10分で発表会を開

始すると放送があった。

 いよいよ発表会が始まった。初めに先ほどの安森女史の挨拶があり、続いて

昨年度優勝者の演奏が始まった。続いて次々と発表者が演奏した。11時を過

ぎた頃、

「ここで特別演奏を只野明子様にお願いします曲目は....です。只野明子様

は、....」

 と紹介があり、明子がピアノの前に立ち客席に向かってお辞儀をした。そして

イスに腰掛けて、ピアノの鍵盤の上に両手を置いた。正夫は手を上げるのを忘

れてしまった。それほど明子の姿は素晴らしかった。鍵盤上の手が静かに動き

出した。正夫は目を閉じてピアノの音を聞くことに集中した。正夫はこれが高

校生が弾くピアノの音色かと驚いてしまった。先ほどの練習演奏といい、今弾

いている演奏といい、正夫の想像を遙かに超えていた。やはり明子は天女だと

思った。やがて演奏が終局した。会場から盛大な拍手が鳴り響いた。明子は立

ち上がって、深々と頭を下げた。数秒間そのままでいてから頭をあげた。それ

でも拍手は止まなかった。スピカーから女性の声が聞こえてようやく拍手が止ん

だ。明子は再び頭を下げた。それから軽やかに左の袖に消えた。

 正夫はこんな演奏を聴かされた後では、子供達は緊張してしまうのじゃない

かと心配になった。しかしそんな心配は無用だった。その後の子供達は、きっ

と明子を目指して頑張ったのだろう。こうして午後1時頃には発表会が終了し

た。その後懇親会が開かれた。たくさんの人が明子に挨拶に来た。その人達に

明子は丁寧に優しさを込めて挨拶を返していた。正夫は少し離れたところでそ

の様子を見ていた。こんな姿の明子はすっかり大人の女性に見えた。正夫は少

し自信を失いかけた。そのとき明子が正夫に近づいてきた。

「マオさん大丈夫。先ほどから少し変よ」

「ううん、明子が少しまぶしくてまともに見ることが出来なくなってしまった」

「マオさんは私の大切な人に変わりは無いわよ。少しお腹が空いたのかもしれ

ないわね。ここには子供用の食べ物中心だからお口に合わないかもしれないけ

ど、一緒に食べましょう」

「アコはやはり僕のアコだね」

「もちろんよ。誰にいっても自慢のマオさんです」

「ありがとう元気が出てきたよ。まだいろんな人とお話があるんだろう。いっ

ておいで」

「何かあったらすぐ合図してね。すぐ飛んでくるから」

「ありがとう」

 正夫は明子に肩身の狭い思いをさせないように気をつけた。明子は安森さん

と話をしていた。明子が時々周囲を見るように正夫の方を見て片目を瞑った。

正夫も手を上げて答えた。やがて懇親会がお開きになった。明子はすぐさま正

夫のところへ来て、

「寂しかった」

 といたずらっぽく聞いた。

「うん、でもアコの姿がいつも僕に見えるところにいたから安心した。ピアノ

発表会の予定はこれで全部すんだのかい」

「それがね、安森先生がマオさんも一緒に食事をしたいといっているのよ。ど

うしましょうか。いやだったら断ってもいいのよ」

「でも、それはアコのためになら無いと思うよ。だから、食事に行こう」

「ありがとう。きっと安田先生は、マオさんの大きさを見たかったのね」

「なるほどね」

「でも私のマオさんは素敵ね。いい旦那様になるわねって先生が言っていたわ

よ」

「期待に添えるように頑張るよ」

「それじゃそういってくるわね」

 といって明子は、安森先生の方へいった。正夫は気がついたことがあった。

明子は、祖父母の元でいつの間にか正夫の知らない社会に溶け込んでいるのだ

と。そして今度は正夫が明子と同じ社会に入っていくように動き出したことを

気がついた。

 

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