寓居人の独言

身の回りのことや日々の出来事の感想そして楽しかった思い出話

寺田正夫 高等学校へいく(152)

2017年05月20日 00時08分52秒 | 寓話

 夕方になって隆と新子が2人で家へやってきた。しかし翌

日も仕事があると言って挨拶だけして戻っていった。姉が

「何しに来たのかしらね、あの2人」

 というと、長兄が

「郷に入らば郷に従えと言うことさ」

「隆兄さんは嫁の家に入ってしまったから、嫁の言うことを聞

かないわけにいかないのかもしれない」

「まあそんな言い方はよしたがいい。人には立場が変われば考

え方も変わることがあるだろう」

 と父親が言ってその話は打ち切りになった。母親は少し困

ったような顔をしていた。そのとき正夫が

「風呂が沸いたよ。お父さんからどうぞ」

「お父さん先に入ったら」

 母親が言った。

「そうだな。布団を敷いておいてくれ。風呂から出たら少し休

みたい」

「わかっていますよ」

 正夫は、父と母の間には今でも以心伝心が生きているんだ

と思った。生意気なようだけどと前提を付けて”素敵な両親”

だと思った。両親は結婚して東京に住み始めて関東大震災と

東京大空襲という災難に遭い二度も全財産を失ってしまった。

しかし、その苦労を乗り越えて、たくさんの子供達を育て上げ

た。だからというわけではないが正夫は両親に感謝している。

その気持ちは明子も同じだと思った。明子も両親を戦争で失

い祖父母に育てられた。明子は祖父母に対して甘えることが

なかったのかもしれない。現実を受け止めるのにきっと必死

で生きてきたのだろうと思った。正夫ははっとした。そして

気づいた。正夫は明子を本気で好きになってしまったという

ことを。

 まだ四回しか会っていないのに、こんなに明子に惹かれる

のはどうしてなのだろうか。この気持ちは心から本気だと誓

える。正夫は明子に早く会いたいと思った。

 弘と長兄はどうやら畑のことを話し合っていた。畑の耕作

面積を少し縮小したらどうかと言うことだった。それと縮小

した分を田んぼにして稲作と麦を交代でやるという技術的な

話もしていた。

 畑の話が一段落したとき、弘が隆兄に結婚を勧められてい

ると長兄に話した。正夫はこれは大変なことになってきたぞ

と思った。弘兄にお嫁さんが来れば、正夫はどういう立場を

とればいいのだろうか考えなければならないだろう。その上

に、その女性は正夫の中学までの同級生の姉さんというのだ

から驚きだ。そいつは中川勝彦という名前だった。家は進の

家の巣kし大新田寄りの大きな家だ。庭にはイガのない栗がな

る木があると言っていた。勝彦は正夫にとってイヤな思い出

があった。その勝彦と親戚付き合いをするなんて真っ平ごめ

んだと思った。しかし実際は弘のことだといっても、正夫と

は直接関係ないといってしまえば済むことじゃないだろうし

困ったことになった。しかし、くよくよしても仕方ないこと

だし、逆に弘にお祝いを言わなければならないことだと考え

直した。話がはっきり決まったらお祝いを言おう。

 そのとき姉が、弘に言った。

「お前は、その話があってからその女性に会ったことがあるの」

「まだ会ってないよ。だってどうだという話があっただけだか

ら」

「そう、まだ話を持ってきただけなのね。よく考えなさいよ」

「そんなこと当たり前だよ」

「隆は何で親に相談しなかったのかなあ」

「そこがちょっとひっかるわね」

 正夫は困ったことになったと思った。折角両親や兄姉が東京

から帰ってきて家族が集まったのにどうしたらいいのかわから

なくなってしまった。そのとき父親が風呂から出て部屋へ戻っ

てきた。母親が台所の方へそっとくるように手招きした。父親

は不思議そうな顔をして母親のところへ行った。

「隆がね、弘に演壇を持ってきたんだって、一番上がまだだし、

女の子がまだだって言うのに。それで上の2人が弘に何か言っ

てるのよ」

「弘はどういっているんだ」

「それはわからないけど、そ言う話があったと言うだけだと言っ

ているの。上の2人は隆が親に相談もしないで弘に直接話して

しまったことにも困ったって言っているの」

「そのうち隆から我々に話があるだろうさ」

「そうね。新子さんの考えたことかもしれませんね」

「隆は正月にはゆっくり来るんだろう。そのとき話をするんじゃ

ないのか。それまでほっときなさい」

 こんな話が正夫の耳にも入ってしまった。正夫はこれで当分

明子のことを親兄弟に話せないなと思った。それはそれでよか

ったのかもしれないとも正夫は考えた。

 夕飯は母が作ってくれることになった。母親の作ってくれる

ものは何故か同じようにやっているのに旨いのだ。正夫はこれ

はよく観察して何が違うかを見ておこうと思った。食事が済む

と次々に風呂に入って出るとすぐ奥の部屋に行って寝てしまっ

た。

 

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