寓居人の独言

身の回りのことや日々の出来事の感想そして楽しかった思い出話

寺田正夫 高等学校へ行く(137)

2017年05月03日 12時28分08秒 | 寓話

 大川高等学校では二学期の中間試験が始まった。その結果は翌週発表された。正夫の成績は5人ほど抜いて1組に入れる結果になった。そこで学校から通知があった。もし来年度日本史を選択する意思があるならそのことを担任の教師に申し出るようにと言うことだった。その上で二学期の期末試験で現状維持の成績を維持できたら、三年次になるときに組替えが行われる際に1組に入れると言うことだった。三年次のクラス分けは1組から4組までは、理科で物理を、数学は解析IIを、そして社会で日本史を選択することが決まっていた。そして5組は理科の物理の代わりに地学を選択することになる。社会は日本史か人文地理学を選択できるようになっている。6組は社会で人文地理を選択し、数学は解析IIを、理科は物理を選択するクラスになっているという。正夫は日本史を選択する気は無かったので、自動的に5組か6組になる。だけど人文地理を選択したいので結果として6組に入ることにな

るのだった。だから1組に入る希望は全くなかった。それで

正夫はそのことを担任の教師に申し出た。

「そうか寺田はそう決心したんだな。私としては少し惜しい気

もするがそれも仕方が無いだろう」

「先生お認めくださりありがとうございます。これからも頑張

りますのでよろしくご指導ください」

「分かった。3年次の担任は替わるだろうが、そのことを話し

ておこう」

 11月もその週で終わりになったとき只野明子から手紙が届

いた。そこには冬休みになったら是非一度会いたいと書かれ

ていた。正夫はあの弁当の味が口いっぱい広がるのを感じた。

それは自分自身でも情けない気がしてしまうほどだった。そ

れと来年になるともう会う機会はこないかもしれない、そう

すると弁当の容器を返すことができなくなってしまうとも考

えた。

  正夫は手紙で返事を書くことにした。そのときの正夫の心の

内には雅子のことが何も浮かんでこなかった。正夫の頭の中

には何か分からないが微妙に変化が起きていた。

 明子と会うのを二学期の終業式の日にしたかった。そのこ

とを手紙に書いた。それに加えて、今は夏目漱石の本を読ん

でいるとか、3年生になると受験勉強で今より忙しくなるか

もしれないとかとりとめの無いことを書いた。読み直してみ

ると、自分の書いた文字がこんなに下手なのかと恥ずかしくな

る正夫だった。それでも一生懸命書いたものなので、明子の

くれた封筒の裏に書いてあった住所を書いて手紙を郵便局へ

持って行き切手を貼って赤いポストに入れた。

 手紙が何時明子の手元に着くのか楽しみであり心配でもあ

った。

そして二学期の期末試験が行われた。期末試験が終わって終

業式の前までの3日間は教科担当の教師の採点や成績付けが

忙しく自習時間が多かった。そんな中、明子の返事が届いた。

明子と会うのは12月23日が都合よいと書いてあり、場所は

陸羽東線と東北本線が交差する北上駅の1番線ホームでとい

うことだった。それでよかったら返事はいらないと書いてあ

った。少し気になったが、手紙では間に合わないかもしれな

いからだと考えて返事を出すのをやめた。

 二学期の期末試験の結果が発表された。正夫の成績は中間

試験のときと同じだった。これで正夫は3年次で日本史を選

択すれば1組には入れる条件ができた。しかし、担任教師に

話したとおり人文地理学を勉強したいと思っていたので自動

的に6組になるのだった。そして12月21日二学期の終業式が

すんだ。

 正夫は弘に二学期が無事終了したことを報告した。

「成績も頑張っているな。第一目表の初めの段階を通過できた

と言うことだな。両親と兄貴にしらせておくことだな」

「うん、そうするよ。それで一つお願いがあるんだけど」

「なんだい。言ってみろよ」

「23日に友達の家へ行きたいんだけどいいかしら」

「若いときには、友達と夜を徹して話し合うことはいいこと

だ。いってきな。それに畑は今やることはないから心配し

なくてもいい」

「ありがとう」

 正夫は、明子と会うことを話さなかったことに後ろめたさ

を感じた。しかしいつかは打ち明けるときが来るだろうと

思っていた。

  23日はいつもの時間に起きて出かけた。中新田駅前の新

聞店に自転車を預けて軽便列車に乗った。客車には、4,5

人の大人が乗っていた。大人達はみんな新聞を読んでいた。

 正夫は陸羽東線に乗り換えて北上駅に向かった。途中、

大川駅を通過したが高校生は一人もいなかった。北上駅に

は9時25分頃到着した。正夫は列車から降りた。ホームを

見渡すと正夫の下りたホームは3番線だったので明子の姿が

なかった。すると隣のホームから明子の声が聞こえた。正

夫は跨線橋を渡って明子の入り1番線へ急いだ。帰庫は階

段の下で手を振って待っていた。

「お早う、明子さん」

「お早う。本当に来てくれたんですね」

 そこえ東北線の上り列車が入ってきた。明子は正夫を促

してその列車に乗った。

「これからどこへ行くの」

 と正夫は明子に聞いた。

「私の家へいくの。私は両親が亡くなっていて、今は祖父母

の家で暮らしているの。この前会ったとき料理は母に教え

てもらったと言ったけど、あれは違うのごめんなさいね。

本当は祖母が教えてくれたの」

「そんなことで明子さんへの考えが変わることはないさ」

「そう言ってくれると嬉しいわ。正夫さんて優しいのね」

「僕は親から友達を大切にしない人間にだけはなるなと言

われて育てられた」

「いいご両親ね。あら、もうすぐ降りる駅に着くわ」

 列車の車内放送で「次は西松島」と放送していた。

 正夫は、松島と言えば、中学のときの遠足で一度だけ来

たことがあるのを思い出した。

 

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