寓居人の独言

身の回りのことや日々の出来事の感想そして楽しかった思い出話

寺田正男 高校学校へ行く(190)

2017年07月06日 23時13分39秒 | 寓話

 只野は目を潤ませているのを正夫は見た。

「おじいさま、明子さんは僕が必ず幸せにして見せます。

安心して下さい」

「正夫君、お願いしますよ。明子が信頼した正夫君には、

私たち二人はできるだけの援助をしますからね。勉強を

続けてほしいと思います。明子、明子は私たちに最後の

幸せを運んできてくれたね。ありがとうよ。正夫君は明

子が信頼を寄せたように私たちも信頼しているよ。必ず

正夫君と幸せになっておくれ」

「おじいさま。私は大丈夫よ。正夫さんは私の思っていた

人でしたから。私は正夫さんと必ず幸せになります。で

きたらおじいさまに私たちの赤ちゃんをお見せしたいと

思います」

「明子、嬉しいことをいってくれるね。でもね、それは

急がなくてもいいんだよ。今の君たちは、もっともっと

やっておかなければならないことが山ほどあるのだか

ね」

「はい」

 といって明子の目からきれいな雫がこぼれた。正夫は

ハンカチを出して明子にさしだした。明子は小さな声で

”ありがとう”といってハンカチを受けとった。

 只野は安心したものか静かな寝息になっていた。正夫

は明子の手をとって部屋から音を立てないようにドアを

開けてローカにでた。明子は正夫の肩に顔を埋めてその

まま立っていた。正夫は明子の肩を優しく抱いて階段を

下り始めた。食堂に入るとおばあさまがお手伝いの女性

と何事かを話していた。

「おじいさんは休みましたか、明子さん」

「はい、おばあさま。軽い寝息になりましたので静かに

部屋から出て参りました」

「正夫さんもいつもありがとうございます。さあ食事が

中断してしまいましたが召し上がって下さいな。明子さ

ん正夫さんのお相手をして下さいね」

「はい、おばあさま」

 正夫はできるだけ普通に振る舞おうとした。明子も

それに合わせて明るい顔をした。しかしその顔の裏に

は祖父のことが心配でしようが無いと書いてあった。

正夫はカルパッチョを全部食べてしまった。すると明

子が私のも食べて下さるといって皿を正夫の方に動か

した。しかし、さすがの正夫も手をつきかねていると

「正夫さん、残すともったいないから召し上がって下

さいな」

 とおばあさんが言った。それで正夫は明子の分も食

べてしまった。明子はそういう正夫を頼もしげに見て

いた。明子はムニエルだけ食べてデザートに移った。

正夫もデザートを食べ始めた。今日のデザートはこの

前おじいさんの手作りのチーズケーキと少し味が違う

のに気がついた。その様子を見ていたおばあさんが

「やはり正夫さんには分かりましたか。今日のチーズケ

ーキは明子が工夫して作ったものです。夫の作ったも

のより少し甘かったでしょう。明子の料理の才能がこ

んな所にも現れたものと私は喜んでいますのよ」

「おばあさまにはかないません。私の微妙な表情を読み

取ってそこまで分かってしまうんですね」

「それは年の功というものかもしれませんね」

「おばあさま、私悔しいわ。なんで私に分からなかった

のかしら」

「それはね今の明子はおじいさまのことが心配であり、

正夫さんのことが嬉しくてしようがないと思っている

からですよ」

「おばあさまったら。私の心の中までわかてしまうん

だから」

「ほっほっほ。明子さんの心の中のことはもっとわか

っていますよ」

 明子は顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。正夫

には何が何だか分からなかった。

「アコさん、大丈夫かい」

「あら、正夫さんは明子の小さい頃のおよび名を知っ

ていたんですか」

「いいえ、あの...」

 正夫は口ごもってしまった。

「正夫さんが私のことをアコさんと呼んでもいいかと

いうので、そう呼んでくださいってお願いしたので

す」

「明子はその呼び方が好きでしたからね。中学生にな

ってからはちゃんとした名前で呼ぶようにしました

けどね」

 明子の家は大体が静かな雰囲気だったが、正夫が

来るようになってから明子も明るくなったとおばあ

さんが話した。正夫は、明子の作ったチーズケーキ

が大好きになってしまった。それはチーズの香りを

抑えてあったからでもあった。

ほんのりと甘く、明子の唇のような感触の柔らかさ

はなんとも言えなかった。

  正夫は思わず明子の唇を眺めてしまった。明子が

それに気づいて口の周りをナプキンで拭った。明子

の仕草が正夫の心をかき立てた。この人を絶対幸せ

にすると。

 今日の食事の最後は日本茶だっただったが。素

敵な香りと少し甘い味がした。

「ごちそうさまでした」

 と、正夫は言ってテーブルからカウチに移った。

明子は後片付けを手伝っていたが、それも終わって

正夫のところへ来てカウチに座った。

「おじいさまは食事を少ししか食べなかったけど」

「おばあさまが何かを作っていたから大丈夫と思う

わ」

 お手伝いの女性が玄関のところでおばあさんと

話をしていたが、

「それでは明日また参ります」

 といって門の方へ歩いて行った。明子はキッチン

へ行っておばあさんと話をしていた。すぐ戻って

きて正夫に、

「マオさん、おばあさまがおじいさまは心配ないと

いっていたわ。それで今夜はどんな話をしてくださ

るの」

「今日はね、前にちょっと話したことがあるSFの話

をしたいんだけど」

「どんな話になるのかしら。楽しそうね」

「この前はSF小説の草創時代のことを少しだけ話し

たんだけど」

「思い出したわ。「タイムマシン」とか「透明人間」

という小説のことよね」

「その通りだよ。H.G. ウェルズとか、J.ヴェルヌと

う人たちがいた。しかしねSFという分野を確定し

のはもっと後になってからだといわれているんだ。

しかしこの話の前に少し星を見たいね」

「私もマオさんと同じで星を見るのが楽しみになっ

てしまったのよ。でも困ることもあるの」

「どうして困るの」

「それはね、星を見ているとマオさんの顔が一つの

星座のようになって他の星が見えなくなってしまう

の。それがどの星座を見ていても同じようになって

まうの」

 正夫は、こんな嬉しい話を始めて聞いた。明子の

心情が嬉しかった。

「それを困っているのかい」

「え、それはそうじゃなくて。実際は困っていない

のよね。逆に嬉しいのだけど、星が見えなくなって

しまうの」

「例えばね、ハクチョウ座を見たらアコと僕がハク

チョウに乗って天空を飛んでいると思ったらどうだ

ろう」

「あら素敵ね。これからはそう考えて星座を見てみ

るわ」

 正夫は明子にいろんなことを想像する方法を我知

らず教えていたのだった。明子は好奇心の強い高校

生だった。しかもよいと思ったことを実行する性格

でもあった。正夫はどこか自分に似ていると思った。

 

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