寓居人の独言

身の回りのことや日々の出来事の感想そして楽しかった思い出話

寺田正男 高等学校へ行く(104)

2017年03月07日 21時33分30秒 | 寓話

 小屋の中では新聞紙を敷いた上にみんながごろ寝をしてい

た。正男と雅子も新聞紙を敷いて横になった。正男は終戦後

の上野駅の通路のことを思い出した。あの頃は新聞紙はとて

も貴重品だった。何しろシャツと上着の間にまけばあたたか

く、寝るときは床に敷いたり身体に巻き付ければ温かくなっ

た。しかし正男が実際にそうした生活をしたわけではない。

誰かに聞いた話だ。正男と雅子は新聞紙を敷いて、その上に

並んで寝た。一晩中でも起きて星を見ていたいと言っていた

正男は、少し寒かったのでもぞもぞと動いた。雅子はその動

作を感じて正男の身体に身を寄せてきた。正男の身体が温か

くなり、2人はそのままの格好で寝てしまった。

 ひんやりした空気が小屋の中に入ってきたので、目を覚ま

した正男は雅子の身体を離して外へ出た。山小屋は靄に包ま

れていた。身震いをして離れたところへ行き小用を足した。

正男は空を見上げたが星は見えなかった。東の方が少し明る

くなっていたが日の出まではまだ時間がありそうだった。小

屋へ戻ろうとしたら雅子が外へ出てきた。続いて澄子も出て

きた。

「お早う」

 と互いにいって正男のそばへ寄ってきた。

「正男君、少し私たちの方を見ないでね」

 といって2人で離れていった。さいわい靄につつまれてい

たのですぐ姿が見えなくなってしまった。すると男子も起き

てきた。初めに小屋から出てきたのは強だった。

「正男、お早よう」

「お早う。もうじき日の出じゃないかと思ってな、目が覚めた

ので出てきたんだ」

「天気はどうだい」

「今日も晴れになるだろうな。太陽が昇ってくると靄が下から

上がってくるはずだ。それが晴れになる証拠さ」

「へー。そんなことまで分かるのかい」

「まあ...、受け売りだけどな」

「知識があるってすごいことだな」

「それほどのことじゃないけど、無いよりあった方が少しは役

に立つこともあるかもしれない」

「ところでな正男、お前誰か好きな女子がいるんじゃないのか。

例えば北の方の高校生とか」

「いきなりどうしたんだい」

「それを気にしているのがいるんだ。それで正男に聞いただけ

さ」

「前にもそんな話があったよ。そのとききちんと説明したんだ

けどな。それに俺は女子が気にするほどもてないぜ」

「それはとにかく心当たりがないのすか」

「というか、まるっきり心当たりが無いわけじゃない」

「聞かせてくれよ、正男」

「実はな」

「うん」

「高校の同級生の家へ泊まりに行ったことがある。その翌日渡

り鳥が来る有名な大きな池を見に行ったことがあった」

「それで誰かと知り合いになったとか」

「一部当たっている。そのとき弁当を食べるとき、飲み物がなく

てな一軒の農家によって水を飲ませてもらった」

「そこで知り合ったのか」

「まあそんなに急かせるなよ。その農家に女子高生がいた。多

分その女子高生だと思う」

「そのとき何か話をしたのか」

「いいや、同級生の方がいろんなことを話していた。ただお世

話になったので自分のことも少しだけしゃべった」

「それだけか」

「そうだ」

「女子高生でも女はしょうが無いなあ。たったそれでかで自分

の運命の人のように言うなんて」

「運命の人ってどういう意味だろう」

「それは謎だなあ」

 東の空に赤みが出てきた。

「ようやく日の出だ」

「みんなを起こそう」

 強は小用をして小屋へ戻っていった。そこへ雅子と澄子が

戻ってきた。澄子は何だか嬉しそうな顔をしていた。

「もうじき、ご来迎が始まるのね」

「そうだね。もうすぐだ」

「みんな出てくればいいのに」

「今、強が起こしに行った」

 そうしている間にも、東の空が赤みをましてきた。そこへ

小屋から強達が出てきたので全員でご来迎を迎えることが出

来た。

 真っ赤に燃えるような大きな太陽が顔を出した。そしてぐ

んぐん昇ってきた。正男はこんなに大きな太陽を見るのは初

めてだった。

 

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