寓居人の独言

身の回りのことや日々の出来事の感想そして楽しかった思い出話

寺田正夫 高等学校へいく(182)    

2017年06月20日 14時06分46秒 | 寓話

「アコは、おじいさんの趣味がなんだか知ってい

る」

「一つはクラシック音楽だったと思うけど、もう

一つは何か勝ったの負けたのと言っていたのを覚

えているわ。それと石がどうとか言っていたけど

よく分からないわ」

「なるほどね。少し分かった」

「何かヒントになったの」

「そう、僕はよく知らないけど、大川高校の用務員

室で昼休みとか放課後になると教師と生徒が単純な

ゲームをやっていた。友達が一度見に来いと言うん

で見に行ったことがあるんだ。そこでは、線がたく

さん描いてある板の上に白い石と黒い石を交互に並

べるゲームで、それが終了すると整理して白い石で

囲まれているバッテンの数と黒い石で囲まれたバッ

テンの数とどっちが多いか数えて、その数の多い方

が勝ちだと言っていた。確か囲碁という名前だった

と思う。きっとそれだね」

「それよ。松島町の人で同じくらいの強さという方

が時々いらしてたわ」

「僕も少し余裕ができたら、囲碁を習いたいな」

「マオさんの趣味は何なの」

「趣味って言えるかどうか分からないけど、星と雲を

みることかなあ」

「他にもあるでしょう」

「落語を聞くことかなあ」

「落語ってどんなものなの」

「何を落語家というのか分からないけど、噺家という

人が口だけで一人芝居をやるんだ。大人はそれを聞

いて笑っていたのを思い出した」

「何が面白いのかしら」

「僕が覚えているのは、もちろんうろ覚えだけどね」

「話して」

「粗筋しか分からないよ。それでもいい」

「もちろんよ」

 正夫は古今亭志ん生という落語家が演じた「火炎太

鼓」という話のあらすじを明子に話した。正夫はその

ときまでこの落語の面白いところは、女房がポンポン

夫をけなすところだと思っていたが、明子は違ってい

た。明子はすごく価値のあるものでも外見が汚れたり

して見栄えが悪いと誰も見向きもしないが、価値の分

かる人はそれを素早く発見してしまうところだった。

それは明子の感覚的なもので、音と言うことで理解が

違うのかと感心してしまった。

「僕の父親はね、寄席という所へ行くのが好きで時々

つれてってくれた。子供の僕には話の内容が分からな

くて全然面白くなかったけど、大人が笑うとまねをし

て笑っていた。それに子供がいると紙切りというのを

見せてくれた」

「紙切りってどうやるの」

「一枚の紙とハサミだけで、お客が出した題にそって

ハサミを紙から放さないように切っていき題に合った

絵を作るんだよ。それを黒い台紙の上に置くと絵が浮

かんでくるんだ」

「素敵ね。私見たくなったわ。仙台でやってないかしら」

「それは分からないけど東京には焼けた後に寄席をやる

ところが再建されたって父が言っていた」

「それで、マオさんは紙切りの絵をもらったことがある

の」

「うんあるよ。一度は加藤清正の絵だった」

「今も持っているの」

「残念だけど空襲で焼けてしまった」

「惜しかったわね」

「そうだね」

「父は、勝負事はやらなかったけど、趣味としては映画

を見ることと落語を聞くことだった。タバコを相当吸っ

ていたけど、お酒もほとんど飲まなかった」

「一度お会いしたいわ。マオさんのお父様とお母様は私

を気に入ってくれるかしら」

「もちろんさ。アコは少し話をすると分かるけど、僕の

父母だってアコを素晴らしい女性だと思うよ」

「そうお、マオさんのかいかぶりじゃないの」

「かいかぶりなんてとんでもないよ。僕は、アコと話をし

ている間にどんどん好きになってしまったんだから」

「ありがとう。その点は私も同じだわ」

「僕の父親は、どんなことでも義務教育を終えたら本人次

第だっていつも言っていた。母はいい家系に生まれなが

ら、父とともにたくさんの困難を乗り越えてきた人だか

ら人を見る目は確かだと思うよ。僕が好きになった人を

そのまま受け入れてくれるよ」

「でも私は、両親ともいないのよ」

「それは事実として受け入れてくれるし、アコという人

について何の障りにもならない。アコは自分をもっと信

じないといけないと思うんだよ」

「でもね、ふっと両親のことを思い出そうとするの。で

も両親の姿が見えないの。写真でもあればいいんだけど

ね」

「僕は、アコの両親はきっと素晴らしい人だったと思う

な」

「どうしてそう思うの」

「アコのおじいさまとおばあさまを見ればわかるよ」

「そうよね。私はおじいさまとおばあさまをとても尊敬

しているわ。もちろん私を育ててくれていることを感謝

しているわ」

「アコの両親の代わりは誰にもできないけれど、おじい

さんとおばあさんがアコを大切にしているんだ。その上

にアコを一生愛していきたいと決心した人がいる」

「それは正夫さんのことよね。私も正夫さんを一生愛し

ていきます」

「アコ、僕は君をきっと幸せにするよ」

「正夫さん、私もよ」   

 正夫は明子の両手を自分の手の中に優しく包み込み、

明子の目をのぞき込んだ。明子はしばらくそのままジー

ッとして正夫の目を見つめていた。

 おばあさんが階段を下りてくる静かな足音が聞こえた

正夫はまた後でというように明子の手を離した。手を離

した明子はキツチンの方へいった。それから正夫はラック

に入っていた新聞を手に取って一面を見た。大変な事件

の続報がでていた。マグロ漁船がアメリカ軍が行った水

素爆弾の爆発実験で発生した放射性降下物を大量に浴び

た事件だ。日本の国民が核爆弾によって被害を受けたの

はこれで3回目になる。乗組員に被害者がでなければい

いのだがと祈る気持ちだった。

   おばあさんはキッチンの方へいった。そこで明子と何

か話し合っていた。

 

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