寓居人の独言

身の回りのことや日々の出来事の感想そして楽しかった思い出話

寺田正夫 高等学校へいく(147)    

2017年05月13日 12時44分03秒 | 寓話

「今日の昼食はイタリア料理にしました。明子が中心になって

メニューをきめました。正夫さんお気に召すとよいのですが。

まずはスープから召し上がれ」

 スープは深い皿に入っていた。中身は黄色い細切りのもの

それにパンを嗅がしたものを小さく切ったものが撒かれてい

る。さらに緑色の粗い粉のようなものこれはどうやら葉物野

菜のようだった。それがスープに彩りを添えていた。 正夫

はどうやってスープを飲むのか分からなかったので明子のや

ることを見てまねをした。スープは音を立ててすってはいけ

ないのだと言うことを初めて知った。

「今日の食事も僕には初めて見るものばかりです。ああそうだ、

このうどんの細いのは一度食べたことがあるものと同じかも

しれません。えーと確かスパゲッチというものだったと思い

ます。もう5年ほど前のことです。その周りにねっとりしたも

のが絡めてあったと思います」

「そうよ。これはスパゲッチです。絡めてあるのがマヨネーズ

です。マヨネーズは 卵の黄身、食酢、サラダ油、食塩、胡椒、

砂糖などからつくりました。ついでに説明しますと、この太い

うどんの穴が空いているものはマカロニと言います。それか

らこちらの四角形のものはパイ生地のパンと思ってください。

肉は鶏肉を燻蒸したものです。貝はムール貝がないので松島

湾でとれた牡蠣を使いました。私が作ったので味は分かりま

せんが召し上がってください」

 明子は何事をやるのでも一所懸命だった。特に今日は正夫

に食べてもらいたいのでさらにがんばった。

「これは何というのですか」

 と正夫はスパゲッチとカキなどが混ざったものを指さした。

クリーム味だけど何かのピリッと言う味がとても美味しかっ

た。

「それはボンゴレと呼ばれるものです。スパイスは限られたも

のしかありませんでしたので本来のものと少し変わっている

と思います」

「秋子さんの家へ招かれてから毎日初めて食べるものばかりで、

僕のお腹はてんてこ舞いしています」

「はっはっは。正夫君は本当に面白いね。私も秋子のボンゴレ

は初めて食べるのですよ。正夫君じゃないけどよくできまし

た。美味しいよ、明子」

「ありがとう、おじいさま」

  明子の祖母は明子の方を見ながらニコニコしていた。

 正夫は少し太めで穴の空いたものに何かを絡めて皿ごと焼い

たものを食べてみた。これもとっても美味しかった。明子が正

夫の様子を察して、

「それはマカロニにチーズをのせて焼いたものでグラタンと言

います」

「なんだかカタカナの料理が多いですね」

「ごめんなさいと言っても私の製ではありませんが、外国の料理

で日本語には同じ名前の料理がないので原語を訳すとどうして

もカタカナになってしまいます」

「適切なご説明ありがとうございました」

 と正夫はおどけていった。そんな2人を明子の祖父母はニコ

ニコして眺めていた。昼食も和やかに進んだ。正夫は食事の

間中、只野との話のことを忘れていた。只野も素知らぬ顔を

して食事を楽しんでいた。只野夫妻は時々顔を見合わせては

肯いていた。

 食事が終わると明子はキッチンへ行きデザートとお茶を運

んできた。お茶は紅茶で深い色合いのいい香りがしていた。

スプーンの上にレモンの薄切りにしたものがのせてあった。

デザートは大きなイチゴが白いクリームに埋まるようにのせ

てあるケーキだった。それを配り終わった明子が席に着くと、

「アッサムの紅茶とショートケーキです。どうぞ召し上がれ」

 正夫は紅茶にレモンを搾って入れると紅茶の色が変わったの

を発見した。その様子を見ていた只野が正夫に言った。

「正夫君は面白い発見をしたようですね」

「はい、紅茶にレモンを入れると紅茶の色が薄くなりました。

どうしてだろうと考えていました」

「やはりそうでしたか。それは次に会うときまでの宿題にしま

しょうか」

「おじいさまったら、お客様に宿題を出すなんてひどすぎます」

「明子、そうでもないようだよ。正夫君はさすがに化学クラブ

に入っているようですね」

「はい。かんがえてみます。明子さんも気兼ねなく」

「それじゃ、それはそういうことにしておきましょう」

 正夫は、ごちそうさまでした。それで食事はお開きになっ

た。

 明子は正夫を連れて自分の部屋へ行った。

「昨日の写真をおばあさまにお見せしようと思ったのだけど、

正夫さんの言うとおりおばあさまが悲しむかもしれないと思

ってやめました」

「いつかおばあさんの方からお話ししてくださると思うよ。そ

れまで待った方がいいね」

「正夫さんとおじいさんはどんなお話をしたの」

「それは今はおじいさんとの約束でいえないけどそのうち話す

よ。きっと明子さんも喜んでくれる話だと思うから。そろそ

ろお暇する時刻じゃないかと思うんだけど、列車の時刻表があ

る」

「ちょっと待っててね。見てくるから」

 といって明子は下へいった。すぐ戻ってきて

「あと47分ほどで東北本線の下りが来ます。駅まで10分だか

らそろそろ用意した方がいいかもしれないわね。私はもっと

お話ししたいのですけど」

僕はおじいさんにいつでもこの家に遊びに来て下しと言われ

ているんだよ。明子さんと会うのを楽しみに少し勉強もしな

ければね。僕は明子さんを大切にするとおじいさんに約束し

たんだ。それは明子さんとの約束でもある」

 明子は目を見張って正夫を見つめていたが、そのうち目を

潤ませて正夫に抱きついた。正夫もしっかりと明子を受け止

めた。そのままの状態でいると、

「明子さん、そろそろお出かけになった方がいいですよ」

 とおばあさんが下から呼びかけた。明子は身体を離して目

頭を拭いてにっこりした。

「正夫さんこの度は私のわがままを聞いてくださってありがと

うございました。私の家には電話があります。番号はこれこ

れです。郵便局からでもかけることができますから時々電話

してください。私いつでも待っていますから」

「今年中はもう無理だけど、冬休みの終わり頃にまた寄らせて

ください」

「お待ちしています」

 2人は1階へ下りていった。おばあさんが何かを風呂敷に包

んで待っていた。おじいさんはおばあさんと並んで2人を痔り

口のドアーのところまで送ってきた。

「正夫君明子のわがままを聞いてくれてありがとう。私も久し

ぶりに若返った気分です。必ずまた近いうちにおいでくださ

いね。3人で待っていますから」

「本当ですよ、正夫さん」

 とおばあさんも正夫をしっかり見つめながら言った。

「初めてお会いしたのに大変な歓待をいただきました。僕の

ほうこそありがとうございます。来年早々にまたご挨拶に

参りたいと思います。それまで主課題を考えておきます」

「明子さん駅までご案内してくださいね」

「はい。おばあさま」

「それじゃここで失礼させていただきます」

「私たちはここでお見送りしますね」

 正夫は頭を深く下げてお礼を言った。正夫と明子は国鉄の

駅に向かった。冬の太陽は、弱々しい光を投げていた。正夫

は西の山を見たが曇っていて何も見えなかった。正夫は駅の

ホームで列車が来るまで明子と話をしていた。やがて汽笛の

音がして列車が近づいてきた。列車が止まって正夫が車内に

入ろうとすると、明子が手を差し出した。正夫は明子の冷た

くなってしまった手を両手で柔らかく包み込んだ。ホームの

ベルが鳴りドアが閉まった。列車が発車しても明子はホーム

に立って正夫を見送っていた。

 

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