寓居人の独言

身の回りのことや日々の出来事の感想そして楽しかった思い出話

寺田正夫 高等学校へいく(178)    

2017年06月15日 01時23分32秒 | 寓話

 昼休み終了の予鈴が鳴ったので正夫と恵は図書館から教室

へ移動した。午後の授業は16時10分に終了した。掃除当番は

それぞれの担当場所の掃除に行った。それが終われば下校に

なる。正夫は通用門を出て大川駅に向かった。大川市内は踏

み固められた雪があったが自動車が走るところは路面が見え

ていた。遠くで正夫の名前を呼ぶ声が聞こえた。健樹が追い

かけてきたのだった。正夫は立ち止まって健樹が追いつくの

を待っていた。

「正夫、話をしようと思ったら教室を出た後だというので追

いかけてきた。急いでいるか」

「いやいつもと同じだけど」

「ちょっといつもの店に行こうか」

「いいね。行こう」

 といって、大学芋矢方へ向かった。歩きながら、健樹は噂話

を聞いたと言った。

「どんな噂話だい」

「ほらおれが付き合いだした子が諏訪村から来ている子が大変な

ことに巻き込まれていると言っていたんだ。だけど誰のことか

どんなことかわからないので、正夫に聞けたら聞いてきてくれ

と言うんだ。君は何か知っているのか」

「健樹も物好きだなあ。たとえ俺が知っていたとしてもそんなこ

とをしゃべると思うかい。たとえ親友の君が聞いてきてもだ俺

はそんなことをしゃべることはないぜ」

「そうだよな。それが男って言うもんだよな」

「それより勉強してるかい。健樹も大学受験するんだろう」

「そのことだけどな。親父は何をしようとお前の好きにするがい

いと入ってくれたんだ。しかし金はないぞと付け足したもんだ」

「君の親父さんは誠実な人だから、君が本気だ大学へ行きたいの

かどうかを聞きたかったんじゃないのか」

「いいや、味も素っ気も無い言い方だったな」

「それは、ニヤニヤしてそんなこと言えるわけ無いだろうが」

「そうかなあ。いざとなったら夜学でもいくさ。昼間は働いてな」

「その覚悟を親父さんに伝えたらどうだい」

「そうだな。俺の本気を話してみよう」

 正夫は、健樹は甘いなあと思った。今はそんなことで時間を

潰すのはもったいないと思う。

「正夫、お前年が明けたら何か変わったな」

「そんなことないだろう」

「何か自信がついたような物言いをするようになった」

「そりゃあ、一つ年をとったんだから少しは変わらないとな」

「そうだなや。俺も彼女ができたんだから少し大人にならないと

な」

「健樹はあのこと付き合いだしたんだ。で、うまくいってるの

かい」

「通学途中で自転車に乗せると俺の腹に両手を回してしがみつ

いてくるよ。初めは驚いたが、落ちないようにするにはあの方

法が一番なんだな」

 正夫は、あの忌まわしい問題が起きる前に正夫を小野路用に

自転車に乗せたことがあったのを思い出した。しかしそれも遠

い昔の話になってしまったと思った。 

 健樹は大学芋を食べながらひとしきりノロケ話をしていた。

正夫は健樹の話をほとんど聞いていなかった。明子はもう下校

しただろうか。明子のおじいさんは具合がよくなっただろうか。

おばあさんは何をしているだろうかと言うことしか頭の中には

なかった。

「正夫。そ言うわけでな俺はこの頃辟易しだしているんだ」

「え、どうしたって。ごめん。魂が飛んでいた」

「いやなに、女子校生でも女なんだと感心してしまったという

話さ」

「昔なら17歳の女子は結婚適齢期だし子供も産めるような状況

になっていただろうから、当然かもしれないな」

「そう言われてみればその通りだ」

「でも気をつけろよ。生物学的には当然の結果が起きることも

あるんだぜ」

「それってどういうことだ」

「つまり生殖活動をすれば結果が出ることがあるという意味さ。

そんな結果になったら自分の行動が自分だけじゃ決められな

くなると言うことさ」

「正夫は、そんなことまで考えているのか」

「そりゃそうさ。俺には夢があるからな、迂闊なことはしない

ようにしている」

 といってしまって正夫は、本当に明子のこともそういう意味

で付き合っているのかと自問した。もちろん自分はそれなりの

決心をしたし、只野夫妻がそれを認めてくれている。だが結婚

はヅーッと先の話だ。

「正夫はやはり変わったなあ。前はそんなことを言わなかった

し、女子高生のことなんか歯牙にもかけなかったのに、今の話

だと何か事件を経験したように感じるけどな」

「それは全くなかったわけじゃないさ。さっきも言ったように

そんな個人的な話をおおっぴらにするもんじゃ無いと思ってい

るだけさ」

「悪かったな。俺も正夫を見習わないとな」

「そんな必要ないさ。健樹とと俺では立場が違うから」

「どう違うんだい」

「それはうまく言えないけれど、健樹は食うに困ったという経験

が無いだろう。もちろん農家だからって食うに困ったことがな

いというのは言い過ぎかもしれない。しかし、カエルやザリガ

ニや蛇まで食べたことはないだろう」

「そうだなあ。でもイモが食事になったことはあるぜ」

「この話はもう止めようぜ。いつまでやったってしようのないこ

とだ」

「そうだな」

「俺たちは始業式で教頭が言っていたように卒業するときにどう

なっているかが問題なんだ。それまで頑張らなきゃならない」

「正夫はしゃべり出すと止まらなくなる癖があるな。だいがくい

もがさめてしまったぜ。少し食えよ」

 正夫は冷めてベトベトになったふやけイモを口にした。これ

でも美味しいと思うのだった。

 

ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 寺田正夫 高等学校へいく(1... | トップ | 寺田正夫 高等学校へいく(1... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。