寓居人の独言

身の回りのことや日々の出来事の感想そして楽しかった思い出話

寺田正夫 高等学校へいく(210)    

2017年08月05日 19時21分44秒 | 寓話

 固めの乾杯が済むと祖父はかなり疲れた様子だったので、正夫

と明子は部屋から退室した。明子の部屋へ行き松島の見える窓辺

により手をつないで海を見た。明子はまだ目に涙をためていた。

「アコ、とても悲しい話だったけど”生物は生命を受けたときから

生命消滅に向かって進んでいる”と、僕が集団学童疎開で行った

お寺の住職さんが説教で教えてくれた」

「それでも私の大事な祖父よ。まだ還暦を過ぎて間もないのよ。

そんなに若くてどうして.....」

「どう言ったらよいか判らないけど、僕に出来ることがあったら

言ってほしいんだけど」

「今はこうして、静かにしていたいの。マオさんごめんなさいね」

「謝ることなんかないよ。僕だってとっても悔しいんだから」

「ほんと。今はマオさんがいて下さるからとっても心強いわ。今

おっしゃった悔しいってどういうことなの」

「お祖父様の病気を治せない医学の遅れが悔しいんだよ。将来は

もっと早く病気の原因を発見できる社会になっていると思うう

んだ。そうすればそれを除去可能だと思うんだよ」

「マオさんはそういうことを考えているのね。やっぱりおじい

まのいったとおりだわ」

「お祖父様はどういっていたの」

「”正夫君は現在問題になっていないが必要とされていることを

考え出す能力があるようだ”って言っていたのよ。それから”そ

の考えが可能になれば社会が大きく変化するようになる。この

能力は大変貴重なものだ”って。今のことがそれなのかもしれな

いわね。それでおじいさまは、私が正夫さんと付き合うのを認め

たらしいの。それだけじゃなくて私が本当に正夫さんを好きなら

将来結婚してもよいとも言ってくれたの」

「お祖父様は怖いくらいすごい人なんだねえ」

「それが、おじいさまの病気が思ったよりも早く進行したらしい

のね。それでおじいさまが元気な内に私たちのことを決めたかっ

たのね。それで、正夫さんに不愉快な思いをさせないように大変

気を遣ったわ」

「もういいよ。こういうときは僕の胸に飛び込んでおいで、そし

て泣きたかったら僕の胸で泣いていいんだよ。僕はアコと一緒に

将来を歩いて行くことに決めたんだから」

「ありがとう、マオさん。マオさんを試すようなことをした祖父

母のことを許してあげてね」

「僕は明子の祖父母の元で勉強できることを誇りに思っているん

だ。それに毎日アコと一緒に高等学校へ行けるしね。こんな嬉し

いことはないんだよ」

「私もおじいさまにはとっても感謝しているのよ。だってマオさ

んと私を応援してくれんですものね。それにおばあさまも賛成し

てくれて、私って考えてみると幸せ者よね」

「そうだよ。だから現実の問題は受け入れなければならないんだ

よ。それがお祖父様を励ますことにもなるんじゃないかと思う

んだ。悲しんでいるとお祖父さんの意志が崩れてしまうかもし

れない。まあ、そんなことは無いと思うけどね」

「わかったわ。私は今までと同じように明るく振る舞うわ。わた

しは正夫さんの明るくて朗らかな花嫁さんだからね」

「それでいいんだよ。アコが喜んでいる姿を見せればお祖父様も

安心するだろう。それが病気に負けない生きる力になると思う

な」

「はい、正夫さん。それじゃ私を抱きしめて下さい」

「その調子だよ。僕の花嫁さんは将来に希望を待たなければなら

ないんだよ」

「そうね。将来のためにこれからもっともっと勉強しなければ

ね」

「お祖父様のことは当分近くで見まもることにして、お祖母様

の健康も考えなけらばいけないね。最も気を張って頑張ってい

るのがお祖母様だからね。すべてをアコ一人で見まもるのは無

理だから、僕も協力するよ」

「ありがとう、正夫さん。それじゃ正夫さんはこの家から高校

へ通学してくれるのね」

「そうだよ。夜は一緒に勉強できるし、学校へも一緒に通学でき

るよ」

「うれしいわ。私はマオさんをもっともっと大事にするからね」

「ありがとう。僕も明子を大事にするよ。でもあんまり気張ら

ないで普通にしていこうね」

 明子は正夫に抱きついて目を潤ませた、しかしそれはうれし

涙だった。

「少し散歩に行きましょうか。外の空気も変わっているかもし

れないわよ」

「そうだね。この辺はいつ頃桜が咲くのかなあ」

「そうね、いつもの年だと4月10日過ぎ頃だったと思うわ」

「東京じゃ、もうそろそろ桜が咲くころだね。僕はお花見に行っ

た記憶は無いけれど賑やかだって聞いたことがあるよ」

「この辺にはあまり桜の木が無いわね。そうだ瑞巌寺の参道に

あったわ。見に行きましょうよ」

 正夫と明子はお祖母様に声をかけて散歩に出かけた。坂を

下る道筋の両側は松林で覆われていることに初めて気がつい

た。松林の中に点在する広葉樹も桜ではなかった。瑞巌寺の

方へいく山側の道には細い灌木が生えていた。瑞巌寺につい

て参道を見ると、両側に桜の古木がほぼ10メートル間隔で植

えられていた。桜の木は傷みが酷く根元に近い部分の木の枝

に母もまだ付いていなかった。所々大きな穴が空いていた。

これは手入れをしないと木が枯れてしまうと思った。でもど

うしたらよいか判らなかった。高校へ行ったら調べることに

した。

「桜の木は少ないね。諏訪村には天皇陛下が皇太子殿下の頃に

行幸(巡行)があり、愛香山で桜のお手植えがあったというの

でその山の県道側はたくさんの桜が植わっているんだ。その

他にも山林の所々に山桜が生えていて花が咲くと木のあるこ

とが判るんだよ」

「お手植えの桜と山桜は何が違うのかしら」

「お手植えの桜の種類は判らないけれど比較的うすい色の花が

咲くんだけど、山桜は白い花が咲いている。それが作と山に

こんなに桜の木があったのかと改めて判るんだよ」

「そうだ。仙台駅でずんだ餅を買ってきたのを忘れていたわ。

お昼にぼた餅を食べたから、すっかり忘れてしまったわ」

「天皇陛下がお代わりをするくらい美味しいと言うことだか

らね」

「もう少し加工の方までいってみましょうよ」

「いいよ。でもアコは疲れていないかい」

「大丈夫よ。だって筋骨たくましいマオさんが一緒なんです

もの」

 瑞巌寺から高木川までは約1.5kmほどの距離だった。川

幅はそれほどでもなかったが橋の上から川面を見ると水量は

豊富だった。

「アコさん、橋の上は風があるから寒いんじゃない。無理しち

ゃダメだよ」

「そうね少し寒くなってきたわ。マオさんの服のポケットに

手を入れてもいいかしら」

「どうぞ、手を出して」

 正夫の服のポケットが膨らんだ。明子はどうやらこれが好

きになったようだ。

明子は正夫の肩に頭を乗せて目を閉じて歩いていた。正夫は

明子が歩くところを選びながらゆっくり歩いた。

「そろそろ帰ろうか。今日はアコさんも疲れてるんだろう」

「そうね、かえりましょう。マオさん、おんぶしてくれます

か」

「いいよ」

 といって、正夫はしゃがんで明子が背中に捉まるのを待っ

た。明子はもじもじしていたが、

「やっぱり歩くわ」

 といってポケットに手を入れた。

「大丈夫かい」

「うん、大丈夫よ。少し甘えてみたかったの」

「突然だけどね、アコは何人くらい子供をほしい」

「え、マオさんったら。たくさんほしいわね。1人や2人じゃ

遊べないものね。

私は一人でつまらなかったわ」

「でもね僕みたいに常時5人もいると大変らしいよ。母はあま

り子供を叱ったことはなかったけれど、食事のときなんかい

つも大騒ぎだった」

「私はそういうのもいいと思うわよ」

 坂を登ると明子の家の屋根が見えてきた。すると明子がま

た、

「マオさん,やはりおんぶして下さる」

「いいよ、我慢しちゃダメだよ。僕もダメなときはダメって

言うからね」

 といいながら、しゃがんで背中を向けた。明子は正夫に背

負われると腕を正夫のくびに巻き付けた。正夫は明子が可愛

くてしょうが無かった。

 

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