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Duke University - Fuqua School of Business(非公式)

Global Institute ~各国の歴史から学ぶリーダーシップ教育~

2017-05-17 01:43:07 | Leadership

こんにちは,Class of 2017のKoheiです.The Fuqua School of Businessは,世界が求めるリーダーシップを持った人材を輩出することを目的としています.二年間のFuqua生活を経験した中で,私が印象を受けたリーダーシップ教育プログラム『Global Institute』についてお話ししたいと思います.

Global Institute(以下 GI)は,本授業前の8月に4週間かけて一年生全員が集中的に参加するプログラムで,『Global Institutions and Environments』, 『Leadership, Ethics, and Organizations』, 『Consequential Leadership』の3つのコースで構成されています.Global Institutions and Environments(以下 GIE)は,各国の政治・経済制度(global institutions)と経済成長の因果関係を,歴史を辿ることによって理解しようというものです.複雑な世界の政治・経済環境を理解することで,グローバル化,国際法,社会規範,国際金融,コーポレートガバナンス,などリーダーとして備えるべき諸々の課題に対する基礎理解を固めます.Leadership, Ethics, and Organizations(以下 LEO)は,組織のリーダーが直接的に対峙する課題について議論します.例えば,組織制度とインセンティブ(=systems), 交渉と意思決定(=leadership skills), 倫理感と多様性(=challenges),などをテーマとして議論し,学生がお互いの経験を共有しながら,組織を率いるために身に着けるべき知識やスキルについて理解を深めます.Consequential Leadership(以下 C-LEAD)は,より実践的なプログラムで,5-6人のチームによる様々な活動や議論を通じて自身の強み・弱みを改めて理解し,リーダーシップの意味について考えます.具体的な活動内容として,過去経験の共有,地域ボランティア活動,Improv, PDP, などがあります.Fuquaのホームページで見ることのできる「壁を登る」写真は,C-LEADの中のTeam Challenge Dayと呼ばれる課外活動になります.実際に自分で経験してみるまでは,いったいなぜ壁登り写真が前面に押し出されているのだろう。。。と不思議に思っていました.

これらの中で,私が好きなGIEについて,もう少し詳しく紹介したいと思います.GIEを通じて学ぶ内容は,現在の複雑なグローバルビジネス環境を,各国の政治・経済制度の観点から多面的・包括的に理解することであり,ファイナンスや統計学のように,直接的にビジネスに役立つものではありません.しかし,世界経済の大局を読むことは今後のキャリアを通じて習得すべきリーダーの素養であり,組織トップにとってむしろ重要な項目と私は考えます.以下3点,私がGIEを通じて感じた点をまとめます.

 

 ①Institutionsと経済成長

GIEでは,ボツワナ,中国,メキシコなどを題材に,政治制度が経済成長に与えてきた影響の歴史を学びます.初期より民主政治を採用した米国や英国は,起業家や発明家の台頭を後押しして経済成長を遂げる一方,専制政治を主とした前述の国家は,技術革新が起こらず経済が停滞した例として挙げられています.グローバル企業のマネジメントに携わる場合,国によって異なる規制,金融制度,社会規範などのビジネス環境を理解した上で意思決定しなければならないため,その国の成り立ちや政策歴史の大枠がビジネスに与える影響を学ぶことは重要です.また一方で,国家レベルの歴史の教訓は企業経営にも当てはまると私は考えました.例えば,民主主義政策では個人の財産権を認めることで起業家や発明家にインセンティブを与え,技術革新による経済成長を遂げてきましたが,これは,企業が従業員個人の特許権,成功報酬や昇進を保証することで,技術革新による企業成長が促進されることと同じ現象であると思います.上層部が組織での既得権を守ろうとした場合,技術革新や優秀な人材の登用は行われず,企業としての成長は妨げられることになります.よって企業では,一部の人間が従業員搾取によって独占的利益を享受しないよう,組織・制度設計によって暴走に制限をかける必要があります.リーダー個人の力には限界があり,いくらリーダーが素晴らしい倫理観を持っていたとしても,個人の意思が組織に負けてしまうことがあります.企業を正しい方向に導くためには,組織制度のあるべき姿を理解し,設計することがリーダーの役割であると考えます.

 

 ②Institutionsの初期設計と偶発的発展

現在の各国の政治・経済制度は,地域ごとの歴史上の出来事に影響を受け,分岐しながら発展してきました.つまり,長い歴史の積み重ねと,各国の社会構造や社会規範と複雑に絡みながら成り立っているので,リーダーの意思で直ちに変更したり,簡単に他国を模倣できるものではありません.各国のトップは,自国の政治・経済制度の歴史と構造を鑑みつつ,その時代の周辺環境に合わせて戦略を練り,政策意思決定を行います.これも企業の経営判断の類推であり,リーダーが学ぶべき示唆があると私は考えました.例えば,トヨタはトヨタ,日産は日産,ホンダはホンダの歴史に基づく企業文化や組織構造があるため,トップは簡単にビジネス形態を変更することは簡単ではありません.他社が簡単に『トヨタ生産方式』を真似できないので,日産やホンダは独自の生産方式を持つことで競争力を維持していることと同じように思います.この企業文化と組織構造は,一人のリーダーが簡単に変えられるものではなく,初期の制度設計と後世の環境変化によって偶発的に変化していくものであり,リーダー個人が容易に扱えるものではないように思います.起業家であれば,後世の環境変化による影響を考慮しつつ初期制度設計を行うことが,企業の生死の境を分けることを理解せねばなりません.大企業のトップであれば,出来上がった現在の組織構造と,地域・時代ごとの環境を理解しつつ,現在の組織の範疇で変えられる方向を模索するしかない.要するに,リーダーには出来ることと出来ないことがあるため,各国の歴史から教訓を学び,素養を身に着けることが必要であるという,リーダーである者の心構えを学んだ機会でした.

 

 ③世界が直面する課題

経済成長を遂げる中で,各国のリーダーは不安定な環境の中で,難しい問題に直面してきました.例えば,AIDS特効薬を開発する製薬会社の利益,進展国の経済発展,病気に苦しむ貧困層の患者を救うこと,これらはどれを優先すべきか正しい答えはありません.排出取引は地球規模で温暖化ガスを削減するために設計された制度でありながら,規制の穴をくぐって金儲けをする者がいたり,本当に環境に良いのか疑問のある取引が促進されています.倫理的問題(どちらを選択しても社会に負の影響を与えてしまう問題)に対しては,経営者は正解のない問題に向き合い,組織の立場から戦略を明確にした上で意思決定する覚悟が必要です.ルールが頻繁に変更される排出取引のような問題に対しても,不透明な環境の中,自社のポジションを明確にしたうえで長期戦略を立て,実行を推し進めなければなりません.

 

GIEで学ぶ内容自体は,国際政治や経済学を専攻していた人にとっては,決して深いものではないかもしれません.しかし,専門外の人間が集まって歴史を学び,大局的な観点から考察・議論することで,お互いに新たな発見をし,リーダーとしての素養を身に着けることができるのではないでしょうか.例えば,私自身もメーカーの製品開発担当として,環境保護を正義としてビジネスを推進することの正当性に疑問を持った経験がありますが,この経験を世界中の様々なバックグラウンドを持ったクラスメートと共有し,自分たちが経営者として企業利益と社会正義の間で板挟みになった場合,どのように意思決定しなければならないのか,深く議論することは非常に有用であると思いました.また,一見合理的でない経営判断のように思えても,組織構造,企業文化,環境変化などに基づいた意思決定だったのであろうと,自分の社会人経験を振り返る良い機会にもなりました.8月にGIEで学んだことは,Finance, Accounting, Marketing, Strategyなどの一般的なビジネススクールの授業を受ける上での重要な下地になったように思います.Fuquaは設立1969年と歴史が新しいためか,リーダーを育てるための多くの新しい試みを実施しています.そういった意味で,Global InstituteはFuquaがリーダーシップ教育において他MBA校と差別化されるための傑出したプログラムであると考えます.

Section 1 卒業バーベキューにて。Global Instituteで知り合うことになるセクションメートは二年経っても仲良し

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