感染予防 inch by inch

感染予防について勉強したこと、考えたこと

※4/7追記あり--無症状の調理担当者に対する定期的なノロウイルス迅速・PCR検査の有用性

2017年04月04日 | 施設設備
感染対策担当者にはおなじみの「大量調理施設衛生管理マニュアル」

改正案に関するパブコメが募集されています。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495160494&Mode=0

きざみのりによるノロウイルス集団感染が影響したと思われ、改正案には無症状の人を対象に、流行期にはノロウイルスのスクリーニング検査を実施することが盛り込まれています。


<以下、改定案抜粋>

調理従事者等は臨時職員も含め、定期的な健康診断及び月に1回以上の検便を受けること。検便検査には、腸管出血性大腸菌の検査を含めることとし、10月から3月の間には月に1回以上のノロウイルスの検便検査に努めること

ノロウイルスの無症状病原体保有者であることが判明した調理従事者等は、検便検査においてノロウイルスを保有していないことが確認されるまでの間、食品に直接触れる調理作業を控えるなど適切な措置をとることが望ましいこと。

注7:ノロウイルスの検査にあたっては、下痢又は嘔吐等の症状がある場合にはリアルタイムPCR法等の高感度の検査方法を用いることとし、症状がない場合には簡易検査法を用いて差し支えないこと

<以上、抜粋終了>


調理担当者の定期的な便検査の有用性については、WHOは「no value(有用性なし)」と言い切っています。
また、米国、英国では1960年代以降、無症状の調理担当者に対する定期的な便検査は実施されていません。

調理担当者の健康管理に関する様々な文献(下記参照)を読むと、食中毒防止における定期的な便検査が推奨されない理由を知ることができます。

○ 定期検査で把握できる症例が極めて少ない 

- 迅速診断検査の感度は低い(特に無症状者に実施した場合)
- 定期検査期間以外に発生する症例を把握できない

○ PCRは高額である。 仮にPCRを実施して、無症状のウイルス保有者を発見できた場合でも、その人物がノロウイルスの食品汚染に関与する程度は明確ではなく、陰性化するまで長期間就業停止とすることの科学的根拠が薄弱である

○ 以上の理由で、定期的な便検査には費用対効果が見込めない

○ さらに、検査が陰性であれば大丈夫という誤った感覚を抱かせる原因となり、手指衛生などのより重要かつ効果的な対策の実践がおろそかになる可能性がある


※4/7追記

国内で発生した大規模食中毒事例には、無症状のウイルス保有者が感染源となったと報告しているものがありますが、無症状だったというのはあくまでも本人の自己申告に基づく情報であり、申告した場合に長期の就業停止となったり、給与や雇用継続の保障が無い場合などは申告しづらい状況もあり得ます。罹病期間が短く、重症化しにくい感染症なので、申告せずに就業を継続したり、数日の休暇でやり過ごすことは可能です。もちろん、申告の通り、無症状であった可能性もあります。言いたいのは、自己申告に基づく情報のみで無症候性保菌者が感染源となったと断定することはできないということです。

また、自己申告しづらい状況があると想定されることから、発症した調理担当者が自己申告しやすい体制づくりが食中毒予防には重要であると思います。給与の保障あるいは、就業停止期間を長期化させず、感染性期間(発症後48時間まで)に限ることなどを検討する必要があります。そのようなことを勧告している下記文献<5>のイギリスのガイドラインが参考になります。

CDCが作成しているような調理担当者向けの啓発資料<6>もとても有益だと思います。
むしろ、こういうものが必要であるし、効果的であると思います。



以下は出典です。

<1>
WHO Safe food handling : a training guide for managers in food service establishments
http://www.who.int/foodsafety/publications/safe-food-handing/en/

Health surveillance
It has been concluded that routine medical and laboratory screening of food handlers is of no value, as such examinations only reveal the health status of the worker at the time of examination and cannot take into account subsequent bouts of diarrhoea or other infectious conditions. Medical examinations are also unreliable in the detection of carriers of pathogens who, in most cases (with the possible exception of those excreting Salmonella typhi), are unlikely to transmit gastrointestinal organisms. Food handlers should, however, be encouraged to report immediately if they are ill.

<2>
NHS Plus, Royal College of Physicians, Faculty of Occupational Medicine. Infected food handlers: occupational aspects of management. A national guideline. London: RCP, 2008.

Routine analysis of food handlers’ stool samples by public health laboratories in the UK and USA ceased by the 1960s, on the grounds that the number of positive isolates was too low to justify continued surveillance.20

<3>
Updated Norovirus Outbreak Management and Disease Prevention Guidelines
https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr6003a1.htm

Furthermore, up to 30% of norovirus infections are asymptomatic, and asymptomatic persons can shed virus, albeit at lower titers than symptomatic persons (26--28). The role of asymptomatic infection in transmission and outbreaks of norovirus remains unclear.

<4>

病院調理従事者におけるノロウイルス対策 -迅速抗原検査とリアルタイムPCR検査の比較- 環境感染誌 2015;30(6):418-21.

病院調理従事者のべ370便検体について、イムノクロマト法による迅速抗原検査を実施した。またその1か月以内に本人で嘔吐下痢症状のあった職員および陽性者はリアルタイムPCRで測定した。迅速抗原検査の陽性者はいなかったが、リアルタイムPCR法で2/44名が陽性であり、陰性化するまで1か月以上かかった。迅速抗原検査は簡便であるが、無症状の健康成人に対するスクリーニング検査では漏れのある可能性を示した。スクリーニングよりも現場での手指衛生の教育や徹底が重要である。

<5> Food Standards Agency. Fitness to Work. Regulatory Guidance and Best Practice Advice for Food Business Operators 2009. https://www.food.gov.uk/sites/default/files/multimedia/pdfs/publication/fitnesstoworkguide09v3.pdf

<6> The Centers for Disease Control and Prevention. Norovirus: Facts for Food Workers. https://www.cdc.gov/norovirus/downloads/foodhandlers.pdf
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 新採用者にとって感染対策の... | トップ | 効果的で効率的なサーベイランス »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む