感染予防 inch by inch

感染予防について勉強したこと、考えたこと

フィットテストは賛否両論のある手間のかかる対策

2017年06月15日 | 空気予防策(結核)
日本の感染対策本にはよく「N95マスクのフィットテストをすること」と書いてありますが、米国の感染対策ガイドラインにフィットテスト(fit-testing)をしなさいと書いてあるのは、それが米国労働安全衛生局(OSHA)の要求事項だからであって、フィットテストが職員の結核感染予防に有効であることを示す質の高いエビデンスがあるからではありません。

以下が米国の病院で一般的に実施されているフィットテストの内容です。

・まずはあの息苦しいN95マスクを着用しても身体的に問題がないかmedical clearanceを受ける
・N95着用可の職員は、年1回(新人は採用時)+20ポンド(約9キロ)以上痩せたときはフィットテストを受け、自分の顔かたちに合ったマスクを選ぶ
注1:N95が着用できないと判断された職員は代わりにPAPR(宇宙服のようなフード)を使用することになるのでPARR使用の講習を受ける
注2:N95マスクの邪魔になるヒゲのある職員はN95マスクを使えない
注3:フィットテストは1回20分ほどかかり、直前15分は飲み食い、ガムをかんだりするのは禁止といった面倒なルールもあるのでむしろPAPRを使いたいと言う職員もいる
注4:病院はいろいろなサイズ・形のN95マスクを準備していないといけない

このようにフィットテストは、「マスクのつけ方を勉強する会」に留まらない大変な労力を伴う作業ですが、結核感染予防に対するエビデンスが不十分であることから反対意見も多く、例えばAPICは長年フィットテストに反対の立場でした(今もそうかもしれませんが分かりません)。

反対派に多い意見は、フィットテストには再現性がないということです。
つまり、テストでは隙間なく上手に着用できても、N95を頻繁に使わないなら、次回(テストから3か月後とか、半年後とか)使用するときにテストの時と同じように着用できるとは限らないだろうということです。
やや小規模ながらこの立場を支持する研究↓もあります。

Respirator-fit testing: does it ensure the protection of healthcare workers against respirable particles carrying pathogens?  Infect Control Hosp Epidemiol. 2008;29(12):1149-56.

一方で、ユーザーシールチェックはフィットテストの代わりにはならないとする論文↓も出ています。

Health care workers and respiratory protection: is the user seal check a surrogate for respirator fit-testing?  J Occup Environ Hyg. 2011;8(5):267-70.

昨年夏には、国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が「人の顔のサイズは頻繁に変わるから今まで通りフィットテストは必要」とする研究結果↓を発表しました。なかなか面白いですが、再現性の乏しさを指摘する意見への答えにはなっていません。

https://blogs.cdc.gov/niosh-science-blog/2016/01/05/fit-testing/

フィットテストの意義を評価するには、職員の結核感染発生率を評価する必要があると思いますが、そもそも(地域差はありますが)結核罹患率がそれほど高くない米国では結核曝露の機会が少なく、難しいのかもしれません。
(なら、日本でやるといいのかもしれません)。

ということで、ガイドラインにさらっと書いてあるフィットテストを、ガイドラインが想定している方法でやろうと思うととても大変だということと、フィットテストは賛否両論あるControversialな結核対策(職業感染対策)であることを知ったうえで、各医療施設でフィットテストを行うのか検討したほうが良いということになります。
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