頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『愛犬家連続殺人』志麻永幸

2013-09-28 | books
映画「冷たい熱帯魚」は息を止めながら、まさか本当の話じゃないよな?フィクションだよな、と思いながら観た。映像と演技が作り出したある種のマジックだと思った。「あまちゃん」の漁労長を演じるでんでんの狂ったような演技、同じく「あまちゃん」の観光協会、吹越満の崖っぷちに立たされた男の演技。すごかった。

映画は舞台が熱帯魚屋になっていたが元になった事件は犬のブリーダーだと言う。その事件、埼玉愛犬家殺人事件がワイドショーをにぎわせていた頃は外国に住んでいたので(=国外退去を命じられていたので)全然知らなかった。阪神淡路大震災も地下鉄サリン事件も実はリアルタイムではほとんど知らない。だいぶ後になってから読んだり観たりして知った。その事件に関わった者(映画では吹越)が書いたノンフィクション・ノベルがあると言う。新潮社では山崎永幸名義で出た単行本、角川からは志麻永幸で出た文庫本、どちらも絶版になっている。アマゾンのマーケットプレイスでは定価よりも高い値段がついていた。映画ほど面白くはないだろうと思いつつ読んでみると…

海外から輸入した犬を高く売りつける詐欺師関根。トラブルになった客は殺す。遺体はバラバラにして、燃やす。川に捨てる。(詳細は割愛) 不幸なことに遺体の処理を手伝わされることになった山崎の目線で見た、関根の犯行の一部始終を描くというもの。

人間とはここまでやるのか!人間の極北を見てしまった。映画で観た世界と変わらないはずなのに、映画以上に背筋が凍ったのはなぜだろう。

絶版になったのは、不謹慎だとか公序良俗に反するとか模倣犯が出てくるのを防ぐとかというようなことではないと個人的には想像する。公序良俗なら映画の方で充分に反してるし。

映画では描かれなかった、山崎の逮捕以降の話が絶版と関係があるような気がする。そしてその箇所が面白いのだ。

関根の逮捕を急ぎすぎた埼玉県警の体たらく(桶川ストーカー事件でもそうだったけれど、ヒドイ)それ以上にヒドイのは、浦和地検熊谷支部の岩本という検事。Wikipediaにも山崎が岩本と交わした密約があったと書かれているけれど詳細は書いてない。この本にはその詳細が書かれている。それが本当だとすれば、呆れるし、こんな検事ばかりじゃないのだろうけれども、詳細が分かってしまうこの本は、検察から圧力がかかったから絶版になったのではないかと邪推してしまうぐらいなのだ。

歴史とは人間の所業について知ること。人間とはここまでやると知ること。それは人間である己について知ることでもある。直接自分はどういう人間なのか、どういう生き物なのか知ることは極めて難しい。しかしそれを他人を通してすることで可能になる。

私にも、貴方にも、関根が住みついているのかも知れない。

では、また。

LINK
コメント    この記事についてブログを書く
« 『赤頭巾ちゃん気をつけて』... | トップ | 『毒蛇の園』ジャック・カーリィ »

コメントを投稿