ふるちんの「頭の中は魑魅魍魎」

右足にスニーカー左足に下駄を履いて歩くような違和感を感じるブログ

『まほろ駅前番外地』三浦しをん

2009-11-24 | books

「まほろ駅前番外地」三浦しをん 文藝春秋社 2009年(初出別冊文藝春秋)

あの多田便利軒が帰って来た。なんとあの腐女子の中の腐女子三浦しをんが直木賞なるモノを取ったのが、「まほろ駅前多田便利軒」で、その続編がこれ。直木賞が功労賞的側面が強いものになってしまってからは、受賞作=その作家のとりあえずの頂点 では全くなくなってしまったのに、これは例外的にすごくいい作品だった。

とかなんとか言いながら、前の話をよく覚えていなかった。しかし、ご安心あれ。自分の書いたレビューを読めばいいのだ。三浦しをん「まほろ駅前多田便利軒」で爆笑 と書いてありながら筋がさっぱり書いてありゃしない。なんのためのレビューだかよく分からない。

町田を連想させる(しをんは確か町田出身だったはず)まほろという街で細々と多田というおっさんがやっている便利屋。この便利屋に依頼してくる変な客と変な依頼。高校の友人、行天という大変人がなぜか居候することになり、多田の生活は面白おかしくなっていく、というような話だったと記憶している程度には私の脳は微弱に振動している。

本作は、語り手が便利屋の客になるものの、便利屋が出て来ることには変わらない。

<光る石>自分が婚約してティファニーの指輪を買ってもらったら、親友が同じティファニーのカラットの大きい指輪を買って貰ったのが許せない女が便利屋に頼んだ依頼とは・・・

<星良一の優雅な日常>ドラッグを売る危険な男、星。朝早く起きて走り、肉体の鍛錬をしてストイックな日常を過ごしているが、なぜか受験生の女の子と暮らしている。以前に便利屋と関わりのあったその子は便利屋に探して貰った猫を飼いたいと言う。それどころでない仕事に追われる星は・・・

<思い出の銀幕>ボケてしまったおばあちゃんは駅前の映画館のマドンナだった。彼女が語る昔の恋愛ばなしは意外な方向へ・・・

<岡夫人>前作にも出てきた、バスの間引き運転のチェックが生きがいのおじさん(町田に詳しい友人曰くは、それはカナチュウこと神奈川中央のことだそうで本当に間引いていたとか)がまた登場。今回はおじさんの奥さんの目線でこんな夫はいかがなものなのだろうかという彼女の心の揺れと、彼女から見た多田と行天評はいかなる・・・

<由良公は運が悪い>やはり前出の塾に忙しい小学生由良。今回は街をほっつき歩いていたら、行天に捕まってしまった。彼に振り回されたあげく・・・

<逃げる男>死んだ男の遺品整理を頼まれる。依頼者の女は事業家でレストランチェーンの社長だと分かる。死んだ男は誰なのか。全くミステリーぽくはなく話は進む・・・

<なごりの月>妻がインフルエンザ、夫は出張に行かねばならない。妻と2歳の娘の世話と頼まれた多田。自然食に拘る彼女に対する違和感、そして最後に出てきた行天の子供に対する感情・・・(からまだこの話は続くはずである)

てな感じ。相変わらずうまい。本当にうまい。日経新聞の読書欄で今月は意外に学のあるところ見せ付けているしをん師匠。単に腐女子という枠には入りきらない。


 ばあちゃんが話したことは、多田と行天のほかには見物客のない花火のように、黒い虚空に消えてしまった。
映画に似ている。暗闇のなか点滅する、一秒間に二十四回の光。光は温度となり、温度はドラマとなって、記憶の銀幕で像を結ぶ(135頁より引用)

「おまえは呑気だなあ。だからあの若僧になめられるんだ」
「あら、そうでしょうか」
「そうだよ」
なめられたとは、岡夫人はこれっぽっちも思わなかった。むしろ、もし誰かを見くびり、下に据えるような振る舞いができるのなら、多田も助手ももうちょっと生きやすかったかもしれないと思ったほどだ(166頁より引用)



なんていい文章を書くんだろうか。ずしっと腹の底に響いた。これだから三浦しをんはやめられない。



三浦しをん「風が強く吹いている」で妄想姫が描く箱根駅伝
「光」
宮崎駿も絶賛した「神去なあなあ日常」






まほろ駅前番外地
三浦 しをん
文藝春秋

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