頭の中は魑魅魍魎

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『快挙』白石一文

2013-05-31 | books
付き合うとか付き合ってくれとか言うけれど、「付き合う」ってどういうことなのだろうか。

その人のことが好きで(好きの定義は…)その人も自分のことが好きで、お互いにそれを確認済みの状態のことを指す。

いや、それだと親友も付き合うと同じになってしまう。不倫も同じ。付き合っていると、「合コン行っちゃダメ」とか「あたしからの電話にはすぐに出ないとダメ」というようなことになるとすると、排他的互恵契約による人間関係を指す。

いや、親友の場合も、あたし以外と親しくするのはイヤだとなりかねないのでそれも違うか。親友にはないけれど恋人にはあるもの。じゃあ、性的興奮を含む排他的互恵契約による人間関係。これでどうだ?

いや、その場合、性行為をする以前の幼い恋や、性行為を卒業した老いたる恋が除外されてしまう。「付き合う」を定義することできない俺。アカンやんか…

なんてことを考えている今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。

「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」以来、ずっと「新刊が出たら読む」作家である白石一文の新刊は、ずばり「結婚」

主人公の私、山裏敏彦はホテルでバイトしながら写真家を目指している。偶然出会ったのは小料理屋と営むみすみ。出会ってすぐに結婚した。写真家の道を諦めた私は小説をかこうとする。みすみを幸福にしたいという願いは叶うのだろうか…

「結婚をテーマとした小説」とだけ言うと何かが足りない。しかしどう言えばいいか分からない。

暴力をふるうとかギャンブルに夢中になるようなタイプの人は決して出て来ない、そういうタイプとは違うタイプの苦悩を描く。うーん、うまく表現できない。

それからはひそひそ声で激しく言い合った。みすみも私も声を荒げたり、ヒステリックになったりするタイプではなかったが、それはいわば性格の外見で、内側には強い怒りを喚起する火種をいつもかかえていた。(39頁より引用)

主人公山裏と私自身の人生や考え方など重なる部分が多く、共感「的」なものは大いに感じる。しかし共感できること、イコール面白いということではないし、イコール読んでよかったということでもない。もしそうなら、共感を得よう得ようとする小説は傑作になる可能性があるけれど、実際はshitになってしまう。白石の小説には共感を拒絶しているようなところがあって、私はそれが好きだ。結局私が感じるのは共感「的」なものなんだけれど、共感とは違うと思う。それが何だかは私には説明できない。すまぬ。少なくとも「だよね~」とか「ですよね~」というようなものではないのだけれど。

私は小さな頃から何者かになりたかった。
自分は本当はすごいんだ、絶対にすごいんだと自らに言い聞かせてきた。
それは夢や希望といった明るいものではなく、むしろ身を焦がす焦燥感に近いものだった。
何者かにならなくては、生きている意味がない。生きる資格がない。
大学三年で写真雑誌の新人賞を受けてから、そうした思いはますます熾烈になった。(145頁より引用)

生活する目的じゃなくて、生きる目的は何なのか、もしかしてこれがそうなのではないかいかというものを私は割と最近それを見つけたような気がしているのだけれど、それは山裏の見つけたものと似ているような気がする。

では、また。

「快挙」白石一文 新潮社 2013年(初出yom yom 26,27号)

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「快挙」白石一文 (りゅうちゃん別館)
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