『幻影の星』白石一文

2012-02-08 | books
私は、ずっと前からこの世界は作り物じゃないのかと思っていた。地球の裏側ではとか、コソボではとか報じられていても、実はコソボなるものは存在せず、それ以前に地球すら存在しない。目の前に見えているこの世界は、誰かが作った巧妙な映画だかCGなんではないかと思っていた。


「幻影の星」白石一文 文藝春秋社 2012年(初出オール讀物2011年8月号〜11月号)

いきなり初っ端から引き込まれる。主人公の母が長崎から電話で、お前の名前の入ったバーバリーの青いレインコートが届けられたと言う。確かに青いバーバリーのレインコートを買った。自分の名前も刺繍してもらった。しかしそれは神楽坂の自分の部屋にある。全く同じものがこの世に二つ存在する?なに?

最初にその謎が提示され、一応それが解かれている様がメインテーマになる。しかし白石一文だからいわゆるミステリーでもなく、いつものように、物語なのに特にこれと言ったストーリーがあるわけでもない。いつものように、理屈っぽい

それがいいのだ。バツイチの女性と不思議な恋愛をする25歳男性(専門学校卒、色々あって今は東京で会社員)と色々あって諫早で会社員をしながら夜はスナックで働きながら社長と不倫関係にある25歳女性の話が一応ストーリーではある。

それとは別で、今回の白石理屈は、この世はイリュージョンではないのかというもの。これがまた私自身が抱えていた冒頭に書いた疑惑とぴったりフィットしてしまったので、やめられないとまらないえびせん状態になった。


「たとえばさ、フランスって国だって、私がフランスに行ったときにだけ存在すればいいし、私が本を読んだり、テレビや映画を観たりするときにだけあればいいわけでしょう。それは逆に言えば、私が感じないときのフランスという国は、私にとってないのと一緒とってことなの(24頁より引用)



若干普通ではないセックスが出てきたりして、エロと哲学の融合、これがまさに白石一文の真骨頂なんだろうと思う。


僕たちの意識は、始まりと終わり-よく言うところの因果律にいつも拘束されているわけではない。(中略)心には因果がない。恋愛感情などはその代表選手のようなものだ。僕たちは人を恋するとき、その理由を求めない。理由があって誰かを好きになることもあるが、ほとんどはそうではない。最初に誰かを好きになり、それから僕たちはおいおいその理由を探り始めるのだ。男女の存在自体にも理由はない。男女は繁殖のために与えられた二種類の役割だと説かれればいかにもそれらしく思うが、繁殖のために雌雄が必要だという明確な根拠はない。それより何より、なぜ繁殖が必要なのかという大本の理由もない(190頁より引用)


こういう理屈は、普通はあまり小説に書かないだろう。こういう理屈が嫌いな人には決して薦めない。しかし嫌いじゃない人にはぜひ薦めたい。

では、また。




幻影の星
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2 コメント

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Unknown (パール)
2012-02-10 17:38:57
>私は、ずっと前からこの世界は作り物じゃないのかと思っていた。
>こういう理屈が嫌いな人には決して薦めない。しかし嫌いじゃない人にはぜひ薦めたい。
なんという魅惑的なお言葉。

私も思っていました。目に見えている世界、見えていると思っている世界は、ほんとは作り物じゃないか って。
理屈っぽくて、大人の受けの良くない子どもでした。
引用された文章は「好み」です。

ふるさんの文章を読むと、この本読みたいなあと思い、私にもこの本を読むことができるのではないかと、勘違いしてしまいます。
いつか、白石一文さんの作品が読めるといいのですが。
こんにちは (ふる)
2012-02-11 12:27:37
★パールさん、

白石一文作品は、一見とっつきにくく思われるかも知れませんが、読み始めてしまえば、思ったよりも読みやすいのではないかと想像致します。

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