妄想記

2005年12月12日 21時49分06秒 | Weblog
ある新興住宅地に時を同じくして2件の家が引っ越してきました。
その家には、それぞれ同年代の男の子がいました。
彼らは同じ学校に通うことになり、転校先の学校でも同じクラスになりました。
ほぼ同時期に転校してきたと言う事で、彼らは何かと同じように行動するよう
自然にまわりからも仕向けられましたし、彼ら自身もそんな理由から
じきに自ら一緒に行動するようになりました。
また、クラスメイトや先輩、後輩も、彼らをいつしかユニットでみるようになりました。
実際TくんもKくんも仲良くなり、いつも仲良く遊んだり勉強していました。
彼らはとてもシャイで可愛らしい少年だったので、あっという間に校内でも
また近所でも評判の人気者になっていきました。
しかし、そんなに長い月日がたたないうちに、少年たちに変化が現れてきました。
正確に言うとTくんの心に・・・。
TくんとKくんは、まるで兄弟のように勉強の成績も運動も同じくらいのできでした。
でも時期にTくんは気づいてしまったのです。Kくんの秘められた、それも誰も想像もできないくらいの大きな才能に・・・。
いえ、Tくんだから気づけたのだと言ってもいいかもしれません。
だって誰より一番Kくんの傍にいて、誰より一番Kくんの様子をつぶさに観察できたからです。
Tくんは焦りました。今は、今でこそ自分の方が人気がある。
ちょっとシャイがすぎて引っ込みじあんなKくんより、笑いのセンスも、歌も運動も自分の方が勝っている。Tくんはそれが密かな自慢でもあったのです。
しかしKくんは若干地味ではあるけれど、物凄い頑張り屋さんだったのです。
どんなことにも、決して自分から手を伸ばして行き、目立とうとはしないKくんですが、その頑張りと根性には、同じ男の子として脅威に感じるものがあったのです。
「こいつは今にあっという間にオレを追い越して、スゴイでかい人間になる。」
そうTくんは確信しました。と同時に不安になりました。
その差がみるみる間に開いて、やがて人々がKくんばかりを注目するようになって
自分は見向きもされなくなるんではないかと・・・。
それだけは嫌でした。Tくんは実はとっても目立ちたがりで、自分が常に注目されていないと気がすまない面があったからです。そうでないと自分を保つこともできないし、プライドも許しませんでした。
幸いKくんはバカがつくほどお人よしで正直で人を疑うことを知らず、素直で真っ直ぐで優しかったのでした。
だからTくんはKくんのそんな性格を利用するが如く、色々画策し始めました。
実際、KくんはTくんが何をしても黙って受け入れてくれて、知らないふりをして自分をかばってさえくれたのです。
Tくんは味をしめました。Kくんを利用し、落とし込んでも、Kくんは何も言いません。世間も自分がそんなことを考えているとは気づいてないようでした。
ですから、事実Kくんは世間から誤解され、非難されることも度々ありました。
「やった。こうしていれば、これからもオレの方がずっと人気者でいられるし、
世間受けもいい。オレが二人を引っ張っているように皆、誰もが思ってる。
オレの作戦勝ちだ。もし何かあってもKの責任にできるし、世間もKを悪く思う。これでオレはいつも安泰だ。」苦労するKくんの後ろでTくんはニヤリと笑いました。でもTくんは大事なことに気づいていなかったのです。忘れていたのです。
これが、Kくんをより大きく成長させることになるということに。
それでなくてもKくんは、計り知れない才能を持ちながら、常に努力と進歩を忘れない人間であるということに。

あれから10年の月日が経ちました。
Kくんは世界的にも認められるような、大きな人間に成長しました。
Tくんは・・・。就職先の社長も、使い道に困るような成長しか遂げることができませんでした。

今ではTくんはまともにKくんを見ることすら出来なくなってしまいました。Kくんが内外面ともあまりに大きくなりすぎて。そして自分のしてきたことが、チョッピリ後ろめたくて。でも今までの行動を改めることもできないTくんなのでした。

そしてTくんはいまだに気づいていません。いえ、気づいているからこそ、余計にそんな行動に拍車がかかってしまっているのかもしれません。そうしないと自分がもう維持できなくなっているのかも知れません。

もうあと10年後、ふたりはどんなになっているのでしょうか。