不可解あってのユートピア

期待通りを喜べる一方で。

重松清「口笛吹いて」

2005年09月06日 | 読書
 私が最も好きな作家である重松清の「口笛吹いて」を読んだ。この本は5つの短編から構成されている。



 表題作「口笛吹いて」は26年前の親分と子分の再会を描いたストーリー。26年という年月がとてもシビアに描かれていた。シビアだけど、これが100人中99人が通る「現実」という物なんだろうとも思う。

 でも、そこから何とか前向きなオチに繋げてくれています。重松清のこういうところが好きです。初めから終わりまでネガティブ一色だったら、読書しても何も残らないと思うし。

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 「タンタン」は頼りない大人と、それを見つめる女子中学生の話。タンタンのキャラがまさに自分に当てはまっていて、こいつがどんな話を作っていくんだろうという気持ちで読んだ。

 タンタンは言われたことはちゃんとするけど、自分から相手に何かを話すことが出来ない。弱い大人だ。

 新しく何かを得ようとすると、それを完全に失ってしまう危険が伴う。だから諦める。でも、そんな淡々と生きる人生にだって、覚悟が必要なんだから、否定しちゃいけない。


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 「かたつむり疾走」も同様に弱い大人の話。真面目だけが武器では生きていくのには心もとない。けれど必死に生きている。誇りがある。その誇りだけは誰も傷つけちゃいけない。

 高校生の男が主人公。自分と年齢が近いと小説は俄然面白くなる。主人公がどうしようもないくらい嫌な奴だったら、最も嫌いな小説になるけど。

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 「春になれば」は冷めた子供の話。でも、本当は冷めているんじゃなくて、感情を表現するのが苦手なだけなのだ。

 無愛想な態度を取ってしまうのは、喜ばせる自信がないから。積極的になれないのは、受け入れてもらえないことを予感しているから。

 それすら気付かずに、ため息ついてる世の中ってどうなんだろう。

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 離婚の瀬戸際に立った夫婦の話が「グッド・ラック」。

 人と人の関係は時間とともに色褪せる。色褪せた物は醜いから切り捨てる。それでいいんだろうか。

 本来、人と人は多くの部分で違う。違いがあると、一緒にいられないんだろうか。

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1 コメント

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TBありがとうございました。 (のび太は受験生)
2005-09-09 01:27:35
「春になれば」、大いに共感しました。

小説を読んで感じたことをすごくうまく表現できていて、しかもストーリーの趣旨もしっかり理解できていて、自分も見習いたい限りです。