2017年2月9日。
現在、レバノンを訪れる日本人などほとんどいない。
だから、調べても調べても、安宿の情報などほとんど出てこない。
そこで、むか~しの「地球の歩き方」に載っていた安宿にとりあえず向かってみた。
それがこの「Pension Home Valery」。
弾痕の残るベイルート市内を歩き、
途中でレバノン人やシリア人と交流を深め、
ようやく辿り着いた、宿の入り口。
「おお、なんか綺麗そうじゃないか!」
そう思って中に入っていくと、あれ?
なかなかに古くて汚いビルじゃないか・・・。
いいね、こういうの好きだぞ俺は!
こういう環境にすっかり慣れているし、ちょっとそれが快感でもある(笑)。
さて、いよいよレセプションに入ると・・・
いいね!この不思議な雰囲気のおっちゃん!
通された部屋は、おお!
いいね!久しぶりのかなりきったねぇ安宿だ!
シーツも毛布も枕カバーも取り替えた様子なんて一切ない。
それどころか、部屋の中がシーシャ(水たばこ)臭くて仕方ねぇ!
いいね、好きだぞ~こういうの!
さて、電気を点けるか・・・あれ?
いいね!こういうの!
インドのデリーで感電した時とかなり同じようなスイッチ。
いくらなんても飛び出すぎだろ!
さて、ちょっくらおしっこに行くか・・・
おお、いいね!きったねぇトイレ&シャワー!
燃えてくるんだよな~こういうの!
と、ここまではいいとして・・・。
僕はこの宿のおっちゃんとかなり色々話をした。
この宿では、格安でシーシャを提供してくれる。
しかも希望すればビールまで売ってくれるのだ。
本来であればイスラム教徒には禁止されているアルコール。
しかし実際には、お酒を飲むムスリムはかなり多い。
ということで、シーシャとビールという不思議な組み合わせを楽しみことができた!
このおっちゃんは僕のことを「モト!」と覚えてくれた(笑)。
突然部屋に入って来て、「モト!シーシャやるぞ!」と叫んできたり、
頼んでもいないのに「モト!ビール飲むぞ!」と叫びながら勝手に持ってきたり、
僕が宿に戻ってくると、「モト~!」と言って抱き着いてきたりと、
変わってはいるけど人懐っこくと面白いおっちゃんだった。
そしていつもビールを飲み続けているので(笑)、基本いつもフラフラしている。
それってただのアル中じゃねぇのか?って気もするけど、
まぁとにかく変なおっちゃんだった。
シーシャを準備してくれるおっちゃん。
僕はビールを飲みながら、その様子を見ていた。
おっちゃんは片言の英語しか話せないけど、それなりに意思の疎通は図ることができた。
「おっちゃんはレバノン出身なの?」
「いや、シリアだよ。ダマスカスから来たんだ。」
「そうなんだ・・・今シリアはどんな状況なの?」
「まさに戦争だよ。毎日爆弾が飛び交っている。だから俺は逃げてきたんだ。」
「そうだよね・・・家族はどうしてるの?」
「両親は戦争で死んだ。弟と妹はまだダマスカスにいるんだ。」
なんと、兄妹はシリア国内にいるというのだ。
「俺は兄妹が心配で仕方ない。だから毎日電話で話をして、無事を確認しているよ。」
「そうか、そうなんだね。でも、どうして兄妹はシリアに残っているの?こっちには来ないの?」
「ん?レバノンにか・・・?」
おっちゃんは、そのことには言葉では答えてくれなかった。
でも、目が答えていた。
そこには、光るものがあった。
そして・・・これはたぶんだけど・・・
ビザが取れないのか、あるいは政治的な圧力で動けないままでいるのか、
きっと、そういった事情があるのだと僕は察した。
平和な日本にいると、「難民」だとか「ビザが取れない」だとか、そういったことには無縁である。
だけど、世界には必ず、こういった事情で苦しんでいる人や家族が存在し続けている。
戦争で苦しみ続けている人々が、たくさんいるんだ。
ちょっと愉快なおっちゃんは、実は心に大きな傷を負ったシリア難民だった。
ベランダで外の景色を眺めながら、おっちゃんは言った。
「俺は幸運だよ。こうして宿の仕事ができているからね・・・。」
ベイルート市内の難民キャンプでは、もっと厳しい状況のシリア難民が何人もいた。
高層ビルと豪華なショッピングモールが立ち並び、砂漠の中でアイススケートを楽しめる中東、それもまた真実。
しかし、今を生きるために必死に逃げてきた難民が苦しんでいる中東、これもまた真実。
中東は、深い。
これが、この矛盾が、世界の真実でもあるのだ。
僕は毎晩、このおっちゃんと共にシーシャとビールを楽しみ、一緒に時間を過ごした。
色んな話をした。
「モト!モト!」と、いつも大きな声で呼んでくれた。
そんな愉快なおっちゃんの両親は、内戦で命を落としている。
兄妹は、未だに激戦地の中にいる。
おっちゃん、俺と話をしてくれてありがとう。
一緒に時間を過ごしてくれて、本当にありがとう。
最初は「なんか変なオヤジだな~」と思っていたけど、
おっちゃんの心には、深い深い傷があったんだね。
それなのに、俺に色んな話をしてくれて本当にありがとう。
俺は一生、「Pension Home Valery」を、そしておっちゃんを忘れない。
1日も早く、世界に誇れる素晴らしいシリアが戻ってきますように。
藤本正樹(ふじもん先生)
ふじもん先生ホームページ
http://fujimosensei.com/
著書『中学教師が行く、無計画世界紀行』
http://www.amazon.co.jp/dp/B00YO9OL3K/ref=cm_sw_r_tw_dp_9x5Bvb0HR324E
現在、レバノンを訪れる日本人などほとんどいない。
だから、調べても調べても、安宿の情報などほとんど出てこない。
そこで、むか~しの「地球の歩き方」に載っていた安宿にとりあえず向かってみた。
それがこの「Pension Home Valery」。
弾痕の残るベイルート市内を歩き、
途中でレバノン人やシリア人と交流を深め、
ようやく辿り着いた、宿の入り口。
「おお、なんか綺麗そうじゃないか!」
そう思って中に入っていくと、あれ?
なかなかに古くて汚いビルじゃないか・・・。
いいね、こういうの好きだぞ俺は!
こういう環境にすっかり慣れているし、ちょっとそれが快感でもある(笑)。
さて、いよいよレセプションに入ると・・・
いいね!この不思議な雰囲気のおっちゃん!
通された部屋は、おお!
いいね!久しぶりのかなりきったねぇ安宿だ!
シーツも毛布も枕カバーも取り替えた様子なんて一切ない。
それどころか、部屋の中がシーシャ(水たばこ)臭くて仕方ねぇ!
いいね、好きだぞ~こういうの!
さて、電気を点けるか・・・あれ?
いいね!こういうの!
インドのデリーで感電した時とかなり同じようなスイッチ。
いくらなんても飛び出すぎだろ!
さて、ちょっくらおしっこに行くか・・・
おお、いいね!きったねぇトイレ&シャワー!
燃えてくるんだよな~こういうの!
と、ここまではいいとして・・・。
僕はこの宿のおっちゃんとかなり色々話をした。
この宿では、格安でシーシャを提供してくれる。
しかも希望すればビールまで売ってくれるのだ。
本来であればイスラム教徒には禁止されているアルコール。
しかし実際には、お酒を飲むムスリムはかなり多い。
ということで、シーシャとビールという不思議な組み合わせを楽しみことができた!
このおっちゃんは僕のことを「モト!」と覚えてくれた(笑)。
突然部屋に入って来て、「モト!シーシャやるぞ!」と叫んできたり、
頼んでもいないのに「モト!ビール飲むぞ!」と叫びながら勝手に持ってきたり、
僕が宿に戻ってくると、「モト~!」と言って抱き着いてきたりと、
変わってはいるけど人懐っこくと面白いおっちゃんだった。
そしていつもビールを飲み続けているので(笑)、基本いつもフラフラしている。
それってただのアル中じゃねぇのか?って気もするけど、
まぁとにかく変なおっちゃんだった。
シーシャを準備してくれるおっちゃん。
僕はビールを飲みながら、その様子を見ていた。
おっちゃんは片言の英語しか話せないけど、それなりに意思の疎通は図ることができた。
「おっちゃんはレバノン出身なの?」
「いや、シリアだよ。ダマスカスから来たんだ。」
「そうなんだ・・・今シリアはどんな状況なの?」
「まさに戦争だよ。毎日爆弾が飛び交っている。だから俺は逃げてきたんだ。」
「そうだよね・・・家族はどうしてるの?」
「両親は戦争で死んだ。弟と妹はまだダマスカスにいるんだ。」
なんと、兄妹はシリア国内にいるというのだ。
「俺は兄妹が心配で仕方ない。だから毎日電話で話をして、無事を確認しているよ。」
「そうか、そうなんだね。でも、どうして兄妹はシリアに残っているの?こっちには来ないの?」
「ん?レバノンにか・・・?」
おっちゃんは、そのことには言葉では答えてくれなかった。
でも、目が答えていた。
そこには、光るものがあった。
そして・・・これはたぶんだけど・・・
ビザが取れないのか、あるいは政治的な圧力で動けないままでいるのか、
きっと、そういった事情があるのだと僕は察した。
平和な日本にいると、「難民」だとか「ビザが取れない」だとか、そういったことには無縁である。
だけど、世界には必ず、こういった事情で苦しんでいる人や家族が存在し続けている。
戦争で苦しみ続けている人々が、たくさんいるんだ。
ちょっと愉快なおっちゃんは、実は心に大きな傷を負ったシリア難民だった。
ベランダで外の景色を眺めながら、おっちゃんは言った。
「俺は幸運だよ。こうして宿の仕事ができているからね・・・。」
ベイルート市内の難民キャンプでは、もっと厳しい状況のシリア難民が何人もいた。
高層ビルと豪華なショッピングモールが立ち並び、砂漠の中でアイススケートを楽しめる中東、それもまた真実。
しかし、今を生きるために必死に逃げてきた難民が苦しんでいる中東、これもまた真実。
中東は、深い。
これが、この矛盾が、世界の真実でもあるのだ。
僕は毎晩、このおっちゃんと共にシーシャとビールを楽しみ、一緒に時間を過ごした。
色んな話をした。
「モト!モト!」と、いつも大きな声で呼んでくれた。
そんな愉快なおっちゃんの両親は、内戦で命を落としている。
兄妹は、未だに激戦地の中にいる。
おっちゃん、俺と話をしてくれてありがとう。
一緒に時間を過ごしてくれて、本当にありがとう。
最初は「なんか変なオヤジだな~」と思っていたけど、
おっちゃんの心には、深い深い傷があったんだね。
それなのに、俺に色んな話をしてくれて本当にありがとう。
俺は一生、「Pension Home Valery」を、そしておっちゃんを忘れない。
1日も早く、世界に誇れる素晴らしいシリアが戻ってきますように。
藤本正樹(ふじもん先生)
ふじもん先生ホームページ
http://fujimosensei.com/
著書『中学教師が行く、無計画世界紀行』
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