禄郎が公吉を半分天上界に連れて来てからの続き……。
驚いていた公吉は、急に神妙な顔で黙り込みました。しばらくそのまま考えた後、禄郎に尋ねました。
「さっき腕を掴まれた時に、なんか急に色々な事が見えたんだけど?」
「あー、それ?多分俺の記憶が見えたんだよ。」
禄郎が答えました。
「え?記憶?」
「半分天上界の力が扱えるものしか、他のものの記憶を見る事は出来ない。記憶も全部が見える訳じゃない。力が発動しているものの、力が発動している間の記憶だけ。」
「あれ?でもなんか色々ありすぎてよく理解出来ないんだけど。」
「じゃあ、もう一度記憶を見せるから。」
そう言うと、禄郎は自分の指先で公吉の額に軽く触れました。公吉の頭の中に、景教の天使さんから始まった、禄郎の今までの記憶が流れ込んで来ました。
「……えっ!何それ!?て、言うか、そもそも何で『半分天上界』なんて適当な名前が?」
「本当に。もうちょっとマシな名前はなかったのかと。」
これには禄郎も賛同しました。
「普通に俺達の暮らしている地上界と、神々の世界の天上界。人間と神々が出会うのが半分天上界。
でも、ここも半分天上界の力が使えるものしか来る事は出来ない。」
公吉が尋ねました。
「愛知県には昔三ヶ根山と観覧車の公園に観光に来たの?」
禄郎が答えました。
「愛知県は昔父親の転勤で住んでいて…、え?観覧車?」
「なんか怖そうなおじさんが。」
「観覧車の記憶まで見えるのか。あー、アレ、日本の偉い神様。」
「スーツ着てたけど?」
「地上界に来る時は結構今の時代の普通の服だよ。景教の天使さんもそうだった。」
「で、俺がここに連れて来られたのは?なんで?」公吉が尋ねました。
「例の怖そうなおっさんに連れてこいと呼ばれたからだよ。」
そう言うと、禄郎は呼び掛けました。
「近くいるんだろ?彼連れて来たから。
約束を果たしたから、もう俺との契約は終わり。俺帰るから。」
ふいに日本神話に見る様な、髭を蓄え、古代の日本の装束を身に纏った男神が現れました。
「ご苦労さん。でもまだ帰るな。」
「は?何でだよ?」
「今、そいつと話してだろ?お前の記憶の話。」
「…例の観覧車か。」
禄郎はやれやれと言う顔で言いました。