今、半分空の上にいるから

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今、半分空の上にいるから 廃墟

2017-07-26 18:49:15 | 今、半分空の上にいるから①(完結)

 翌二月、三ヶ根山、夜十時。

「夜は嫌だったのに…。結局、こんな時間に三ヶ根山なんて。寒いし。」
公吉は文句を言いました。

 「しょうがないだろ。時間が合わないんだから。お前、明け方前から仕事だし。その前にさっさと確かめるぞ。」
禄郎が言いました。

 「狐だ。」
 ふいに禄郎達の目の前に狐が一匹現れました。
 「三ヶ根山って狐いるんだ。」

 「聞いた事ないけど?初めて見た。」

 狐は禄郎達の方を見ると、ぴょんと飛んで闇に消えました。

 「消えた。やっぱり本物の狐じゃない?」
 禄郎が狐の消えた方へ近づくと、また離れた場所に現れ、こちらの様子を見ています。

 「付いてこいって事かな?」

 禄郎と公吉は狐の後を追いました。

 狐は禄郎と公吉を廃業したホテルの建物の前に連れて行きました。
 その時、突然、廃墟になったホテルから火の手が上がりました。

 「中に誰かいる。」
 
 「放火だ!…?なんだこれ?」

 公吉は自分の体から、霧の様な、ガスの様なものが湧いてるのに気付きました。霧は三ヶ根山の辺り一面に広がり、廃墟の中に流れ込むと、廃墟の周りを取り囲み、上空まで伸びた巨大な雲の塊になりました。

 突然の雷鳴と共に、廃墟のホテルに豪雨が降り注ぎました。

 「わー!!なんだなんだ!?」
中から男が四人飛び出して来て、そのまま外の車に飛び乗り、逃げました。

 逃げる車を狐達が何匹も追いかけて行きました。

 「あれ、お稲荷さん達みたい。ここに来る前にも、何かお稲荷さんを怒らせる事をやらかして来たらしい。」
霧からお稲荷さん達の記憶の見えた公吉が言いました。

 「あいつら、放火だけじゃなく、お稲荷さんも怒らせたのか?」
禄郎が呆れました。

 霧の中に大量の黒い亡霊達が蠢いているのが分かりましたが、霧が消えると共に黒い亡霊達も消え去りました。

 「白い龍の鱗を封印してからおかしな事ばかりでさあ。」
公吉がため息を付きました。
「昨日は何か朝のバラエティー番組の再現ドラマで、いきなり温泉旅館の話をやったと思ったら、お嫁さんをいじめる腹黒い女将さんの名前がうちの母親の名前で。
 そうしたら今日のホテルの放火だろ?
 家の周囲をうろうろする大量の黒い亡霊と言い、一体何がどうなっているんだか。」

 「俺も初めて半分天上界に行ってから、東京でも大学でもずっとそんな感じだよ。」

 禄郎は公吉に、今まで他人にあまり話した事のない自分の事を打ち明けました。

 「記憶の封印が少し解けてからは、神様も妖怪も黒い亡霊の姿もはっきり見えるし。
 まあだから、強い力を使うとあまり良くないって言われても、力を使って、黒い亡霊を浄化したり、妖怪を封印したりしてしまうんだけど。」

 「そうか…。半分天上界の力に関わるとそんなんなのかもな…。」
公吉は禄郎の話を聞いて言いました。

 「でも、今の騒ぎでこの辺りの黒い亡霊の気配はしなくなったみたいだ。」
 禄郎は周囲を見回しました。
 「多分新しい黒い亡霊が来るまで、しばらくは大丈夫かな。とりあえず今日は帰るか。やっぱり明るい時間にまた来よう。」

 「そうだな。」
公吉も背伸びをしながら言いました。





廃墟(完)





※『今、半分空の上にいるから』の注意事項

この物語はフィクションであり、実在する人物、団体、事件等とは一切関係ございません。

『今、半分空の上にいるから』は、二次創作ではなく、最初からオリジナル作品であり、他の作品とは無関係です。

作者の許可なく作品を複製、転載、使用する事を禁止します。


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