【ネット小説】FREISEIN(フライザイン)〜死に対して無碍

なぜ生きねばならないか分からない少女と、なぜ死なねばならぬか分からぬ少女が出会い、ニーチェのツァラトゥストラの謎を追う

(10)しあわせ-2

2009-02-07 | 小説
その日の帰りは勿論、さくらちゃんとフロイトについて
語りあいました。
そして、フロイト談義に花を咲かせつつ、学校からの坂道を下っていた時、
私は、ふと前から聞いてみたかったことが頭に浮かび、尋ねてみました。

「ねえ、さくらちゃん、人は何のために生きるのかって、考えたことある?」

さくらちゃんはピタッと足を止めました。
ジッと私の目を見て、しばらくが時間が流れました。
そして、何か重大な告白をするかのように「・・・あるわ」とだけ
湖水のような静かさで言いました。

何か会話がしづらくなり、黙って一緒に歩きました。
私たち二人は、話をしなくても一緒にいれる間柄です。
会話がないと間がもたないってことはないんです。
静かな時間の大切さを二人は知っています。
共にいるだけでもその時間は貴重っていうことも知ってます。
私たちはいつもよりも長く、何もしゃべらない時間を共有しました。

いつも見ている下校時の風景。
今一度、静かにその風景を眺めていました。
左右は桜並木になっています。
桜は春のイベントの為にとっているのでしょうか、
それ以外の季節にはピンク色一枚見せずにじっと黙っています。
そんな沈黙の茶色い並木の隙間からは、蒼い海が見えます。

空と海はお互いにその色を映しあう生きた鏡なのかなとか考えたことも
ありました。
空を見上げると昼にも顔を出す「白い月」がいました。
ああ、この大地や、海や、空や、宇宙を想うと、人は、私は、なんて
ちっぽけな存在なんだろうと感じる。

わたしは何のために生れてきたのだろう、生きているのだろう。

チラッとさくらちゃんを見る。
さくらちゃんは、私の何倍も深く、そのことを考えているように、
いえ、悩んでいるように感じました。

さらさらとした長い髪が静かにゆれながら、さくらちゃんは、ただ歩いて
います。
空には、一羽の鳥が飛んでいました。

「ああ、人はむかしむかし、鳥だったのかも知れないね
 こんなにもこんなにも、空が恋しい」
 
ふと中島みゆきさんの歌が頭の中で静かに流れました。 

私たちが感じている日常と鳥が感じている日常とは、きっと大きく違う
でしょう。
お互い思っている当たり前が全く違う。
じゃあ、私が人間に生れたのは当たり前のことだったのだろうか?
どうして鳥に生れなかったのだろう。
人間としての当たり前は、他の生き物にとっては決して当たり前のもの
ではないのではないだろうか。

では、人間と他の生き物との決定的な違いはどこにあるのだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、さくらちゃんは、突然(今までの長い
沈黙などなかったかのように)言いました。

「淳ちゃん、よかったら、今日、家に寄っていかない?
 最近、よく聞くCDがあるの」

「え、何て曲?」

マーラー大地の歌

「へー、さすが、さくらちゃん、選曲しぶいねー。
 曲名は聞いたことあるけど、どんな曲か分からないから聴かせてっ」



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● A song today

 この空を飛べたら by 中島みゆき

「ああ、人はむかしむかし、鳥だったのかも知れないね
 こんなにもこんなにも、空が恋しい」








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