アルバム「Black Moon」の最終ミキシングの時、プロデューサーのマーク・マンシーナがコントロール・ルームのノブをあれこれいじってたんで、僕はスタジオに入ってピアノを弾き始めた。夜中の12時ごろだったと思う。マークが出てきて僕のプレイを聴き「そういうのが出来ればと思ってたんだよ。きみのピアノをロンドンのアビー・ロード・スタジオ1に持っていって、ちゃんとレコーディングしよう」と言ったんだ。翌日、思いっきり弾いてやるぞ、とやる気満々でアビー・ロードへ行った。録音スタッフがマイクを設定し、僕のピアノにピアノ・チューナーを取り付けている間に、トイレに行った。上着を脱ぐと、「カーン、ポチャン」という音がするじゃないか。真っ青になったね。これから用を足そうとしていた陶器の水溜りの中に電子手帳が浮かんでる。電話番号は全部あの中だったし、バックアップも取ってなかったからもう全滅。がっくりだよ。トイレから出て腰を下ろして、なんとか気を取り直そうとした。A Blade Of Grass(歯の長い草)を1本手にしてしばらく考えたのち、スタジオ1に戻り、これをレコーディングしたんだ。
emerson plays emersonライナーノーツより抜粋