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オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

文楽「加賀見山旧錦絵」を観る

2017-05-26 10:30:31 | 文楽
25日夜の部で、国立小劇場の「加賀見山旧錦絵」を観る。7~8割の入りで、空席が目立つ。昼の部は襲名披露で満席だが、夜の部は演目が良いにも関わらず空席が出るのはちょっと残念。この演目は歌舞伎でもよく上演されるので、歌舞伎では見ているが文楽では初めて観る。普通、文楽からそのまま歌舞伎に移された演目は丸本歌舞伎と呼ばれて、殆んど同じ構成をとることが多いが、今回の「加賀見山」は結構、歌舞伎と文楽で違っているので驚いた。

家に帰って調べてみると、最初は歌舞伎で上演された題材を、文楽で上演して、それをさらに歌舞伎化するなど複雑な経緯をたどっているようだ。さらに、悪役の岩藤を題材とした黙阿弥作品などを一部取り入れた形で、現在の上演版が完成しているらしい。いろいろと本で調べたが、あまりにも改作が多く出ていて、途中で面倒になって調べるのを断念した。

さて、この作品の外題からもわかる通りに、「加賀」藩という大藩のお家騒動を題材にしている。ちょうど「先代萩」が仙台のお家騒動を題材にしているのと同じだ。しかし、調べてみると、加賀藩のお家騒動は取り入れてはいるが、題材としては松平周防守家で起きた、草履の履き間違え事件をとりあげているらしい。これは中老の「みち」が、草履をはき間違えたのをお局の「沢野」が責めて、「みち」が自害したのを、下女「さつ」(芝居ではお初となっている)が沢野に対して敵討ちをした事件だ。一説によると、中老「みち」はお手付きだったらしい。

この周防守の事件に加賀藩のお家騒動を絡ませて描いたのか「加賀見山」なので、現在よく上演される草履打ちを中心とする場面だけで見ると、どこが「加賀」なのかはっきりしないが、今回はその前段に「筑摩川」と「又助住家」が入り、なんとなく「加賀」の話というのが判る。しかし、「又助住家」も後から付け加えられたものなので、オリジナルとは随分と異なるようだ。

歌舞伎との最大の違いは、歌舞伎では預かっていたお家の宝「蘭奢待」に代わって「草履」が箱から出てきて、屋敷内で草履打ちがあったような気がするが、文楽では鶴岡八幡宮の境内での出来事となっている点だろう。お初と岩藤の試合も文楽にはない。

今回の公演では副題として「女忠臣蔵」とついているが、確かにそういう観点で見ると歌舞伎よりも鮮明に忠臣蔵との類似性が伺える。というよりも、忠臣蔵のパロディとして見た方が良いのかも知れない。まず、最初の「筑摩川」とそれに続く「又助住家」は、忠臣蔵の「山崎街道」と「勘平切腹」に対応している。「筑摩川」では殺した相手が間違っていたことに気付かないし、「又助住家」女房は夫を助けるために廓に奉公にでて、夫は殺した相手が誰だかを知り自害する。全く同じだ。

「草履打ち」の場面は忠臣蔵の大序のパロディで、場所も同じで有名な銀杏の神木まで出てくる。この場の虐めというか折檻の場面は忠臣蔵の「鮒侍」の場面を彷彿とさせる。それに続く「長局」では、お初が中老の尾上を「忠臣蔵」に例えて諫めるが、この場面は忠臣蔵の2段目に相当、尾上が自害したのを見て、その遺品の草履を持って敵討ちを誓うあたりは、忠臣蔵で大星由良助が切腹に使われた九寸五分の短刀を持って敵討ちを決心する場面のパロディだ。

歌舞伎では気付かなかったこうしたことに気付くのも、文楽を見る楽しみの一つだ。

さて、人形は岩藤に玉男、尾上に和生、そしてお初に勘十郎という豪華な顔合わせ。太夫の方は又助住家の中が咲甫太夫で、奥が呂勢太夫という若手の人気太夫が二人並んだ。実力は拮抗しているが、咲甫太夫は声が腹からではなく喉から出るようで、ちょっと上滑りな感じがして、今回は呂勢太夫に軍配が上がる。三味線は中の清志郎も見事に弾いたが、奥の宗助の力強さが印象に残る。

草履打ちの三味線は寛治で、ずいぶんと年をとって一回り小さくなったような印象だが、演奏は味のあるもの。なんだか生仏を見るようで、演奏を聴いているうちに思わず手を合わせて拝みたくなった。

廊下の段では再び咲甫太夫が三味線の團七と組んでいるが、こちらの方が又助住家よりもずっと良かった。

長局の段は千歳太夫と三味線は富助。千歳太夫はいつも熱演で、逆に言うとしっとりとした情感に弱い印象を持っていたが、今回は前半を落ち着いたムードで語り、後半は熱演となり、たいへん優れた語りだった。トレードマークの坊主頭で熱演する様子を見ていたら、スティーヴン・ソンドハイムのミュージカル「太平洋序曲」で初演したマコ岩松の顔がなんとなく浮かんできた。坊主頭が似ているからだろう。

この長局から、最後の奥庭までの人形が素晴らしい。特に勘十郎の遣うお初にしびれてしまった。

せっかくの名舞台なのに、観客の注目が昼間の呂太夫襲名披露に集まり、夜の部の入りが悪いのはちょっと残念だ。

帰りに雨が降って来たので、近所にあるスペイン・バルで夕食を済ませる。トルティージャ、ハモン、アヒージョ、パエージャで満腹。家に帰ってさらにシェリーを飲んで寝た。
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