劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

「アメリカ・ミュージカルの秘密の生活」を読む

2017-05-03 20:06:11 | 読書
ジャック・フィーアタル(ヴィーアテルと読むのかも知れない)の書いた「アメリカ・ミュージカルの秘密の生活」を読んだ。半年ぐらい前に、アマゾンで検索した時に勧められて、ニューヨーク・タイムズの書評に「ためになって面白い」という、小学館の宣伝文句のような言葉が出ていたので、興味を持った本だ。昨年はハードカバーしかなくて高かったので、ペイパーバックの安いのが出たら買うと注文して、それきり忘れていたが、今年になってペイパーバック本が出て送られてきたので、読んだわけだ。

題名はジェイムス・サーバーの書いた「ウォルター・ミティの秘密の生活」のもじりだろう。副題には『ブロードウェイのショウは、いかに作られるのか』とある。19章300ページの本で、各章は有名なミュージカルの歌の題名や、有名な台詞からとられている。

作者のフィーアタルは、5つの劇場をブロードウェイに持つエージェントの副社長で、いろいろなミュージカル作品の製作も手伝ったりしている人物でもあり、ニューヨーク大学でミュージカルの講義を持っていたと書いてある。

前書きによると、題名をブロードウェイ・ミュージカルとせずにアメリカのミュージカルとしたのは、近年流行しているロンドン発のミュージカルを除いたからだという。また、ミュージカルの歴史を書くのではなく、その製作方法を考察したとしている。ここらはマニアというよりも、大学の講義調だ。

扱っている範囲は、1943年の「オクラホマ!」に始まり1965年頃まで続いた、いわゆるプロットのある台本ミュージカルが中心で、それよりも前の作品は1927年の「ショー・ボート」以降であり、1965年以降では2016年の「ハミルトン」までを扱っている。

まあ、「オクラホマ!」以前の作品はおおむねプロットと音楽の結びつきはルーズだったし、65年以降はロック音楽の影響や、優秀な作者が不在となったことから、かなり作品の質が変化したのは事実だろう。

結局、ブロードウェイ・ミュージカルの黄金時代というのは1943年から65年までの間ということになる。その時代に確立したスタイルは、実はその後もほとんど変わっていないというのが作者の考えだろう。実際、使われている音楽は21世紀に入ってからはロック音楽が主流になったし、「ハミルトン」ではラップ音楽が使われているのだが、ショーとしての構造はほとんど変わっていないとする。プロットのある作品では、確かに変わっていない。しかし、プロットのない作品も出てきているが、そこらについては、作者はあまり触れてはいない。

全体19章は、使用される楽曲のプロットという観点から語られている。幕開きの音楽、ショーの主題を示すナンバー、主人公の願望を表明する曲、恋人同士のデュエットなどが論じられていく。一つひとつについては、それほど新しい考え方が示されているわけではないが、良くまとめて示されている。例えば、恋人たちのデュエットについては「条件法の恋歌」みたいに書いてある。『もし~ならば、恋人のように見える』というような曲だ。これは、僕は「仮定法の恋歌」と思っていたが、「条件法」と書いている。接続法も、条件法も、仮定法も僕の中ではあまり違わないから、まあ、そんなもんだろうと思う。

この条件法の恋歌というのは、「ショー・ボート」の中に出てくるので、作詞をしたオスカー・ハマースタインの発明だと思っていたのだが、この作者によると、古くはヨーロッパやアメリカのオペレッタにも出てくるとしている。そうかなあと考えたが、事例が思い浮かばない。本の中でも具体的な事例は示していないので、ほんとかなあ、と思いながら読む。

途中の賑やかな曲や、一幕の終わり方、二幕の始め方、フィナーレの盛り上げ、最終的な終わり方などが示される。その中で具体的な事例が示されるが、「回転木馬」「野郎どもと女たち」「王様と私」「マイ・フェア・レディ」などの有名作品での曲の入れ方と台本の関係が示されるが、それらの作品を知らない人は読んでもイメージはわかないだろう。

こうした有名どころの作品はまだよいが、「一番幸せな農夫」「シー・ラブズ・ミー」「ミュージック・マン」「ジプシー」など、超有名作品でない普通の秀作もどんどんと出てくるので、かなり作品を知っている人でないと読めないかも知れない。台本と曲の関係に詳しいが、曲も聞いたことがないと、説明は詳しくしてあるが、何を言いたいかわからないかも知れない。

そのため、巻末に本編で取り上げられた作品のレコード(今ではCDか)案内が付いている。おおむね初演時のオリジナル・キャストを聞けと書いてあるが、オリジナル・キャストの録音が始まったのはアメリカでは「オクラホマ!」以降なので、それ以前の作品は困る。この作者はできるだけ初演当時の編曲を使った録音が良いとしている。そうした点では、リンカーン・センターの再演時の録音が安心して聴ける。

1940年代の録音はSP盤で音質が良くないから、僕なども「回転木馬」などは初演盤よりも、バーバラ・クックの歌うリンカーン・センター盤の方が良いと感じる。

ということで、まあ、確かに、ためになって面白い本ではあった。
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« ヴィスコンティ監督の「夏の嵐」 | トップ | 笈田ヨシの「蝶々夫人」 »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 30日以上前の記事に対するトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。