劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

若尾文子の「しとやかな獣」

2017-07-29 14:59:33 | 映画
衛星放送でやっていたので若尾文子の「しとやかな獣」を観る。1962年の大映映画で、キネマ旬報のベストテン6位だったから、それなりに評価を受けた映画だ。観て驚いたのは、前衛的ともいえる大胆な手法で作られた作品だということ。ほとんどの場面が団地の一室で展開されるので、舞台劇のように思える。音楽などもかなり大胆な入れ方。

クレジットを見ると台本は新藤兼人で、監督は川島雄三、音楽は池野成という、なかなか凄い顔ぶれだ。こうした一部屋の中だけで展開する芝居というのは、舞台劇の映画化では時たまある。例えば1948年に作られたヒッチコックの「ロープ」は舞台劇の映画化だったので、一部屋の中だけで話が進み、それをまるでワンカットで撮影したように編集している。

この「しとやかな獣」もまるで舞台劇の雰囲気だと思っていたら、この映画の後に舞台作品としても公演されている。台本としても結構面白いから、舞台作品としても楽しめそうだ。

ところで話は、団地に住む中年夫婦の話で、年頃になった娘は作家のお妾になり、息子は芸能プロに勤めているが会社の金を使い込んでいる。中年夫婦は、そうした子供たちの生き方を咎めるわけではなく、むしろ悪事を奨励してそそのかし、不正でもなんでも金を得て、家に入れろという態度だ。ここらの生き方は昔のイタリア映画でよく見られた「非道徳的家族主義」を思い起こさせる。悪事でもなんでも立派な稼業であり、その仕事をきちんとすることを求められるが、家庭内ではきちんと秩序を維持することを求められるのだ。

そうした悪事を働いているので、芸能プロの社長や、作家先生から金を返せととのクレームが来る。しかし、実は芸能プロの会計係をやっている若尾文子が一番の曲者で、自分では悪事に一切手を染めずに、女の魅力を使って一家の息子や、芸能プロの社長、そして税理士などに悪事を働かせて、金を貢がせていたことがわかる。結局は皆同じ穴のムジナなのだ。

若尾文子が「しとやかな獣」役で、主演なのだが、映画を見ていると中年夫婦役を演じる伊藤雄之助と山岡久乃が出ずっぱりで印象に残る演技をしている。本当はこの二人が主役なのだ。

1962年という東京オリンピック直前の時期に、当時の最先端の流行だった団地を舞台とした見事な作品だと思った。
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