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オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

メトの「リゴレット」を観る

2017-06-18 10:10:54 | オペラ
以前に録画しておいた、メトロポリタン歌劇場の「リゴレット」を観る。2013年の上演で、1960年代のラス・ベガスに場所を移した読み替え上演。リゴレット役はゼリコ・ルチック、ジルダ役はディアナ・ダムロウ、公爵はピョートル・ベクツァラといった布陣。新演出はマイケル・メイヤー。ラス・ベガスに移すアイディアはメイヤーのものだ。もともとはブロードウェイの演出家で、オペラの演出は初めてだとインタビューで答えていた。

メイヤーは調べてみると、1999年に「冬のライオン」を演出、ミュージカルの「モダン・ミリー」でトニー賞のノミネートを受けるが、受賞は逃す。その後、2006年の「春の目覚め」の演出でトニー賞をとったのが注目されて、メトから声がかかったのだ。メトの製作サイドとしては、読み替えで構わないが、台本を変えない(つまり役柄をうまくあてはまるようにする)こと、というのが条件だったらしい。

結局、主な役柄はシナトラ一家に置き換わっている。1950年代まではシナトラは自信のなさげな青二才役が多かったが、1960年代になると貫録をつけて子分たちをたくさん集めて「シナトラ一家」と呼ばれる仲間を集めた。英語ではラット・パック、すなわちバカ仲間というような言い方だったが、日本では「シナトラ一家」と呼んでいた。代表的なメンバーは、ディーン・マーティン、サミー・デイヴィス・ジュニア、シャーリー・マクレーン、アンジー・ディッキンソンらだったと思うが、シナトラはそうした仲間たちを集めて、何本か映画を撮った。代表作は「オーシャンと11人の仲間」だ。

今回の「リゴレット」の新演出は、その「オーシャンと11人の仲間」の「世界」を使っている。そう、歌舞伎でいう所の「世界」という言葉がぴったりと来る。時代や場所の背景を言う。幕府の規制を避けるため、江戸時代の事件でも室町時代に移したり、太平記の世界に移したりして芝居を書いたのだが、それと同じように、時代と場所を移してしまった。

1960年代のマントア公爵は、シナトラのイメージで、自分のカジノを中心に悪戯仲間(貴族たち)を集めて、女あさりに夢中になっている。貴族たちは退屈しのぎに、いつも悪ふざけばかりしている。ここはうまく嵌っているのだが、肝心のリゴレットの役柄がはっきりとしない。宮廷の道化師の役柄だが、ここではシナトラの太鼓持ちのような役柄となっている。なかなか難しいが、まあ、許容範囲。殺し屋なども、ラス・ベガスにいかにもいそうなタイプなので、全体としてはうまくいっているように感じた。

美術や衣装も1960年代のラス・ベガス風で、背景にはネオン・サインが多用されて、いかにも賭博の町といった雰囲気を盛り上げる。そうした意味では、ひとまず新演出は成功といっても良いかも知れない。しかし、こうした奇をてらった演出は何のためにやっているのだろう。まあ、話題性があるので、一度ぐらいは見ても良いが、何度も見るような代物とも思えない。歌舞伎だって、「寺子屋」を現代に移して上演したりするのを観たくはない。

蜷川幸雄が「マクベス」を日本の時代劇の世界に置き換えたのは、なかなか面白かったが、そう何度も使える手ではないだろう。

メイヤーはインタービューに答えて、ブロードウェイとメトの違いについて、役柄の解釈については歌手は過去に何十回と経験していて、すでに完成している点が大きく異なる、と答えている。そう、オペラは歌舞伎と同じで、定番の作品はいくつかの型があっても、役者は得意の型で演じるので、それほど演出家を必要としないのだ。だから、結局、新演出で張り切ると、へんてこな読み替えをやったりする。

こういう舞台を観ると、2002年にバズ・ラーマンがブロードウェイで演出した「ラ・ボエーム」の方が、よっぽど正当だという気がしてきた。いつも、伝統的な重いソースのフレンチばかりを食べていると、たまにヌーベルキュイジンヌのような軽いソースの料理を食べたくなるが、いざ食べてみると、結局は昔からの伝統料理の方が良いなあと感じてしまう。だけど、最近は何処へ行っても創作料理や軽いソースが大流行で、伝統料理は食べられなく成ってしまった。オペラの世界もそうなのかなあ。

歌も演奏も良かったので楽しめたが、こういう創作料理系はどうも苦手だ。
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