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ヘアスプレイ ライブ!は出演者が豪華で楽しめた

2017-01-19 08:45:11 | ミュージカル
「ヘアスプレイ ライブ!」を観た。去年の12月7日にアメリカのNBCでライブ放送された作品だ。従来こうした作品のライブ中継というのは、ブロードウェイの舞台をそのまま中継する場合が多かったが、NBCが数年前に始めたこのシリーズは、テレビ用に製作されるもので、事前収録ではなくライブで放送するので、全米各地でビューイングなども企画されて盛り上がる。今回も視聴率は高かったようだ。

NBCのライブシリーズは2013年12月の「サウンド・オブ・ミュージック」に始まり、14年の「ピーター・パン」、15年の「ウィズ」と続いて、16年が「ヘアスプレイ」だった。要するに家族そろって楽しめるようなブロードウェイ・ミュージカルの作品を選んでいる印象だ。確かに、こうしたミュージカル作品は映画化すると、舞台のニュアンスが失われてしまうので、大規模なロケーションを避けて、作り物のセットの世界でライブ放送した方が舞台感覚が残り、ミュージカルらしさは感じられる気がする。

アメリカでのこのシリーズの評判は良いようで、FOXテレビが2016年の1月に「グリース:ライブ」を同じように放映して、これも評判になった。こうした作品は、テレビ放映作品なので日本の映画館では公開されていないと思うが、インターネットで有料配信されている。便利な時代になったものだと思う。

さて、「ヘアスプレイ」は2002年のブロードウェイ作品で、2007年にはジョン・トラボルタの母親役で映画化されている。今回は舞台版の曲、映画版で追加された曲などを織り交ぜて、ハーヴェイ・ファイアスタインが新脚色している。ファイアスタインの脚色は「ウィズ」のテレビ版に続き2回目。そして、今回はファイアスタイン自身も、主役トレーシーの母親役を演じている。実は2002年の舞台版の初演でもファイアスタインはこの役を演じているので、今回の配役ではそれが目玉の一つ。主演のトレーシー役は新人の女の子だが、黒人のレコード店主にはジェニファー・ハドソンが出て、素晴らしい歌を聞かせる。映画版の「ドリームガール」では役柄のためか、かなり太っていたが、今回は素晴らしいプロポーションで、これが本来の姿。

トレーシーの敵役となるアムバーの母親でテレビのディレクター役は歌も得意なクリスティン・チェノウェスで、こうした芸達者が出ているので、全体に飽きさせない構成になっている。

舞台となっているのは1962年のバルティモア市で、ちょうどケネディ大統領の時代だ。ファイアスタインの台本では詳しくは描かれていないが、バルティモアは首都ワシントンのすぐ北に位置する中都市で、北部と南部の中間的な場所に位置しており、黒人と白人の人口比率も同じぐらいという微妙な場所にある。劇中で出てくるテレビのダンス番組では週に一度の黒人デー以外は白人だけの出演で、黒人と白人は決して一緒に踊らない時代だった。当時のバルティモアには実際にそうしたテレビ番組があったらしい。

黒人の権利が広く認められて、白人と一緒に舞台やテレビに出るようになったのは1960年代中頃の公民権運動の後であり、その大きなきっかけとなったキング牧師で有名な「ワシントン大行進」は1963年の夏だった。この大行進は南北戦争中に行われた1863年のリンカーンによる奴隷解放宣言の100周年を記念して企画されたものだった。ケネディは63年秋に暗殺されたが、その後黒人の公民権は広く認められるようになる。

「ハミルトン」の出演者達は。舞台を観に来た副大統領候補に直訴したし、昨年の6月のトニー賞の中継では、「ハミルトン」のパフォーマンスの中の『アメリカの独立は俺たち移民が守るんだ』という台詞で、会場が「わーッ」と沸いた。それがブロードウェイのムードなのだろう。そういえばメリル・ストリープも今年1月のゴールデン・グローブの授賞式で、トランプに批判的な挨拶をして、トランプがツイッターで反論をする一幕があったけど、この「ヘアスプレイ」などぜひトランプ氏にも観てほしい。

NBCのライブ!のシリーズは今年の年末には「バイ・バイ・バーディ」を放送するという報道があるが、昨年の今頃の報道では昨年末の作品は「ミュージック・マン」と報道されていたことを考えると、まだどの作品になるかはわからない。

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