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オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

文庫クセジュの「イタリア・オペラ」を読む

2017-05-24 12:00:00 | 読書
白水社から出ている文庫クセジュのシリーズは、翻訳特有の硬さがあって敬遠してしまうのだが、やはり、日本人の観点とは違った内容の本もあり、ときどき読んでしまう。読みにくいといっても、新書なのでそれほど長いわけでもなく、読み出せばすぐに読める。

イタリア・オペラに関しては、日本でもいくらでも紹介本が出ているので、クセジュに頼らなくてもよい気がするが、手に取ってみると、なかなか面白い観点で書かれているので、やはり読んでしまった。

イタリア・オペラの話となると、一般的には作品解説、作曲家の説明、音楽の解説、歌手の説明などで構成されることが多い。この本はそうした個別の作品の説明を排していて、前半1/3が(オペラの)制作システムと美学の全般的な状況の説明に割かれている。後半の2/3は、歴史的な流れの説明であり、作品史というよりも、その時代の代表的な作品を一つ取り上げて、その時代の作品の特徴を分析的に説明するという形になっている。

ということで、イタリア・オペラの作品を知りたいなどという人には役に立たない本だが、時代の中でどのようにオペラが変化してきたのかを知るにはうってつけだ。特に前半の1/3の制作システムの話などは、一般のオペラ史の本ではあまり触れられていない内容を一通り説明している。

この本の著者はオペラの歴史は1600年の「エウリディーチェ」で始まり、1926年の「トゥーランドット」で終わるとしているので、概ね17~19世紀の300年の話を扱っている。その間に、オペラを制作する人はどのように変わったのか。当初は王侯貴族がスポンサーの中心だったが、フランス革命や産業革命の影響でブルジョワ商人が支え手になり、イタリア統一で地方貴族の支え手が減少したために滅んだことや、著作権法の確立によってヴェルディの時代からは作曲家も富を得られるようになったことが説明されていて、わかりやすい。

こうした説明があると、オペラを立体的に理解しやすいだろう。欲を言うと後半のヴェルディやプッチーニに対してワーグナーが与えた影響などを、もう少し丁寧に説明してほしかった。

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