劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

ブルー・バックスの「音律と音階の科学」

2017-09-01 17:35:59 | 読書
平均律が誕生した背景などを知ろうと思い、音楽を数学的に解析した解説書を読んだ。こうした科学物の解説が得意な講談社のブルー・バックスの一冊で、「音律と音階の科学」。著者の小方厚は、原子力や高エネルギー加速器が本職らしいが、本書の「まえがき」によると、プラズマ波のフーリエ解析で学位を取った、とあるので、楽器の音のスペクトルを数学的に解析するのは、得意なのだろう。

このシリーズの特徴からして、専門的な知識のない人にも判りやすくということで、図や表を多く入れて、難しい数式は省いてあるが、ある程度数学的な知識と音楽の知識がないと、途中で挫折するような内容かも知れない。それでも、一応音のスペクトルの説明のために倍音概念を説明したり、楽器によって音のスペクトルが異なることがわかりやすく示してある。

音の科学とは関係ないが、途中で和声学の基礎というか、コード進行のパターンが説明してあり、ああそうだなあと、音楽に弱い人でも読めるようになっている。

一番のメインは、古代ギリシャでピタゴラスがいかにして現在のドレミファの基礎となる12音階を作ったかが、数学的に説明してある点だ。煎じ詰めると、素数の2と3を使っていろいろと計算すると、12音の音階を得ることができるという話だ。そうした、音階は基本の音との周波数比率が単純であり、耳に心地よい和音として聞こえるので、数学的にも裏付けあるとのこと。

しかし、問題は12音の等比級数的な関係が一律でないため、複数の楽器や、ピアノのような楽器で転調を行おうとすると、12音の関係が崩れて困るので、すべて同じ等比級数になるように、平均律を作ったとの説明。ちなみにバッハの「平均律」としている教本は翻訳の誤りであり、厳密には平均律ではないということで、それは初めて知った。

なぜ周波数比が単純な方が心地よい和音かということは、1960年代に行われた心理テストの結果をもとにいろいろと計算をして、どのような和音を聴いた時に人は心地よいと感じるかが論じられている。二音ならば二次元のグラフ、三音ならば三次元のグラフで示されているが、4音以上は計算は出来るがグラフ化は出来ない。それは空間が三次元で構成されているためだ。

それをさらに進めて、12音でなく一般的なn音の平均律の可能性と、そのn音平均律に用いる協和和音やそれを実現するための楽器の選択などにも触れられていて面白い。

民族音楽の旋律を形成する音階でテトラコルドの話が出てくるのは良いが、それを比喩的に棚のような物を積み重ねて説明しているのは、ちょっとわかりにくかった。もっとストレートに説明しても良いかと思う。

専門書をたくさん広げなくても、最新の研究結果をサラッと読むには良い本だと思った。2007年の刊行。