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オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

ヴィスコンティ監督の「夏の嵐」

2017-05-02 14:23:01 | 映画
久々にルキノ・ヴィスコンティ監督の「夏の嵐」を観た。前に観たのは、公開後の新宿の名画座だったので、もう40年以上前になるだろう。衛星放送で放映されたのを録画したが、とりあえず画質のチェックをしようと思い、最初だけと思って観たのだが、結局最後まで見る事になった。


その理由は、タイトル・バックにヴェルディのオペラ「イル・トロヴァトーレ」が使われていて、これがあまりにも魅力的だったので、つい最後まで見たわけだ。以前に観たときには、殆んどなんのオペラなのか気にしないというか、知らなかったわけだが、最近はオペラを観るようになったので、音楽を聴いて「トロヴァトーレ」の第3幕の幕切れのアリアだと分かった。

このアリアはテノールが高音の「C」音を使うことで知られる難曲だが、映画の中で歌っている歌手は惚れ惚れするほどの美しい声で歌っている。最近はこんな声があまり聞けない。1950年代にはたくさんいたのかな、誰なのだろうと思いながら見たわけだ。

この曲は、母を救うために剣をとり、復讐を誓う熱い思いの歌で、「夏の嵐」の背景となっている、イタリア統一運動の中で、ヴェネチアだけが、とり残されてオーストリアに支配されており、何とかイタリア独立を勝ち取ろうというイタリア人の気持ちを表すのにふさわしい曲なのかも知れない。

映画のタイトルやクレジットが続く中で、アリアは盛り上がり、合唱が加わるときには、カメラは歌劇場の観客席を舐めるように写していく。平土間にはオーストリアの若い士官連中。2回のボックス席では、オーストリアの将軍と、オーストリアに協力しているヴェネチア貴族が一緒に舞台を観ている。

最上階のいわゆる天井桟敷席には、ヴェネチアの平民たちが沢山いるが、この3幕のアリアが終わって拍手がくると、それを合図に、「イタリア万歳!」と叫んで、赤、緑、白とイタリア国旗にちなんだビラを天井桟敷から撒く。その映像的な美しさ、音楽的な盛り上がりに、つい引き込まれて最後まで見てしまった。

この映画の日本語題名は「夏の嵐」であるが、イタリア語の原題はSensoであって、直訳すれば「官能」というのに近いか。ヴェネチア近郊に領地を持つ伯爵の婦人であるアリダ・ヴァリが、このオペラ劇場で知り合った女たらしのイケメンのオーストリア将校に惚れてしまい、レジスタンス運動を率いる従弟も裏切って、この敵方のダメ男に入れあげてしまうという話なので、話の内容的には「官能の嵐」ぐらいの方がふさわしい気がするが、昔の日本ではそんな題名はつけにくかったのかも知れない。

ヴェネチアが舞台になっているので、前半は有名なフェニーチェ座から始まり、ヴェネチアの古い風景がふんだんに入っていて映画的にも面白い。しかし、戦争が迫って、田舎の屋敷に舞台が移り、最後はヴェローナで終わるが、だんだんとエネルギーがしぼむようにつまらなくなっていく。

それでも、ヴィスコンティ監督の古典的な美学と、アリダ・ヴァリの体当たり的な演技で、結局は最後まで見てしまうから、傑作なのだろう。観終わっても、映画よりもオペラ「トロヴァトーレ」は良い曲が多いなと、別のことが気にかかる映画だ。

ところで、もうずいぶんと前だが、フェニーチェ座が火事になって内部が焼けてしまったため、内部の再建ををすることとなり、寄付が広く求められたので、少額ながら僕も寄付をして、フェニーチェ座のシールを貰ったが、やはりどのようにきれいに再建されたか一度見に行きたくなった。