職業、鍛冶手伝い。

現代の迷工、未来の虚匠

鉉鍛冶の系譜

2013-04-14 20:02:53 | 鉄瓶の鉉について
 日頃から大変お世話になっている職人さんのお持ちの書籍の中に先々代(私の親方の親方の親方)の柴田長助氏の記事が掲載されているということで、現在お借りしています。
 湯釜や鉄瓶は多くが作者の銘が入れられ、いつ、どなたがつくられたものかだいたいわかり、また世襲制であることからわりあいきちんとした系譜が残っています。鉉鍛冶の場合はほとんど記録が残っておらず、今回お借りした書籍のこの記事についても大変貴重なものだと思います。
 現在記録に残っている鉉鍛冶の系譜(「南部鉄器 美と技」より)は、先々代の柴田長助氏の時代からとなっています。その頃は盛岡の鉉鍛冶の軒数は柴田氏の他に3軒、盛岡近郊に全部で4軒の鉉鍛冶の工房があったとされます。今回の記事でも記述されていますが柴田長助氏の晩年の頃には柴田氏以外の鉉鍛冶は残念ながらなくなってしまい、最後の1軒となってしまいました。その後、息子の柴田長一郎氏(先代)に引き継がれ、現在の私の親方に継承されています。




以下、記事本文より

「鉄瓶の鉉を造って半世紀」

「真赤に焼けた鉄板にひとたびハンマーを当てると、その質が分かる」という柴田さん。産地きってのわざ師である。
 大正十一年、十五才のときにこの道に入ったというから半世紀以上、鉄瓶の鉉づくりに徹してきた人だ。
 南部鉄器の要である焼型づくり、鋳型の組立て、溶解などのように表面に出る仕事ではなく、常に陰になっている仕事である。それだけに人はよくいう。「縁の下の力持ち」、だが本人はそうは思っていない。「鉄瓶の型、肌合も大事なことだが、それを吊るす鉉がなければ鉄瓶は鉄瓶にならない。そして使う人の肌にふれるのは、この鉉である。物が鉄だけに冷たい感じを持たせてはならず、ふっくらと丸みを帯びた暖かさが必要だ。真赤に焼けた鉄板にハンマーを当てる時、そのまろやかさは、すでに作られるものだ。」と話すように、何の変哲もない鉄板がみるみる袋鉉に変わっていく。炭火の中から取り出した鉄板は二、三分後には冷えて堅くなる。ふたたびそれを炭火の中へ入れて焼く、この繰り返しを十二、三回するこの作業を見ていると丁度動画のひとコマひとコマを見ているようでその動き方が実に妙だ。
 この袋鉉の作り方は高度な技術を要し、工芸的なセンスも要求される。まったくの手仕事であるこの作業、鉉の湾曲度を計るにも、これと言った道具はない。すべてが勘にたよるものだ。柴田さんが作った十四、五本の袋鉉を型に合わせて積み上げてみた。三十センチ位の高さに積み上げられた、その鉉の曲線は見事に重なって一分の狂いもない。これが半世紀にわたって、みがかれた勘であり、技である。
 戦前から戦後にかけて盛岡には多くの鍛冶屋があった、それは農機具を作る鍛冶屋であり、一方では鉄瓶の鉉も作られてきた。それが最近では全くなくなり柴田さんが盛岡で唯一の鉉つくりである。
 この産地では、焼型、鋳型組立て、溶解などの工程はすべて同じ場所で流れ作業的に行われているが、鉉づくりだけは、別個の存在である。柴田さんの作業場も離れた場所にあるが、ここがこの人の城であり、後継者の息子さん(昭和九年生まれ)を育てる道場でもある。そのような孤立した仕事場であるせいか、マスコミや見学する人の出入りを極端にきらうといわれて、おそるおそる会ってみると、どうしてどうして、なかなか話が面白い人である。「私はこの仕事をはじめていて本当に良かったと思っている。世の中の好、不況にはまったく左右されず、そのうえ定年がない。こんな年とってもこうやって働けるのだから、こんな有難いことはない」と話しているように、この人まったく自分のペースで仕事を進めている。朝七時には工場に入って仕事をはじめる。そして三時になると仕事をやめる。家に帰ってからひと風呂あび、それから好きな酒をチビリチビリやりながらテレビの映画をたのしむ。そして陽が落ちる頃になると友人宅を訪問、将棋のお手合わせとなるのだが、この腕前は三段という、なかなかの達人である。
 労働大臣賞を受賞
 柴田さんが五十余年の間、ひとつの仕事にうち込み、南部鉄器産地に大きな貢献をしたということで、四十八年に盛岡市の商工勤続者として表彰されたのをはじめ、昭和五十年には、永年の功績をたたえられて労働大臣賞を受けている。
(ジャパンローカルプレス「伝統工芸 八月号」昭和54年9月15日発行)



 ある意味職人にとって過ごしやすい、仕事ときちんと向き合えたおおらかな時代のお話ですが、長い時間をかけて確かな技を手にする、ということは手仕事にとって今も昔も変わらないことです、これからも変わらないで欲しいところでもあります。
 この仕事に入りようやく私も7年目となります。初心を忘れずと言う意味で少し立ち止まる瞬間をこの記事からいただいたような気がします。


 

鉄瓶の鉉

2012-03-17 21:34:31 | 鉄瓶の鉉について
これまで「仕事」や「古作に学ぶ」などでご紹介しました様々な鉉をまとめてみました。これら以外にもまだまだ見たことのない鉉やとんでもない鉉もあると思いますので、発見次第、私の勉強の意味も込めて随時掲載していきたいと思います。


座付鉉

立鉉・立鉉透かし①

捻り鉉①

竹鉉①

馬蹄鉉①

銚子の鉉

結び鉉

木瓜の鉉①

袋鉉

立張鉉①

大角豆袋鉉①

袋鉉 桜紋様

手桶鉉