mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

モンゴルの旅(3) 南ゴビの「鷲の谷」に分け入る

2016-06-26 06:38:04 | 日記
 
 さて、旅の目的は「探鳥」であった。早朝の便でウランバートルを発った私たちは、南ゴビのダランザドガド空港に7時過ぎに降り立った。1列4席、56座席の双発のプロペラ機に、朝日が差し込みはじめたのは6時を回ってから。高度を下げると下界の草原が青々として起伏をともなっているのがわかる。川筋もみえる。細いが水も流れている。ところどころ、溜池だろうかと思うほどの水たまりもある。樹木がない。沙漠と聞いていたので、意外な思いがした。昨日入国したときのバスの中で、現地ガイドが「昨日までの一週間は雨、異常気象だった」と話していたが、ウランバートルだけでなく、南ゴビでもそうだったのだろうか。
 
 4台の8人乗りのバン。日本人鳥ガイドと現地ガイドを併せて16人総勢が分乗する。先週も一組ガイドしたというのは(たぶん)、このモンゴル探鳥ツアーの定員を上回った分を、一組まとめ上げて案内したのであろう(そういうことが結構あるのだと、あとで聞いた)。2台はヒュンダイ、2台は日産などの日本車。ハンドルが右と左と別れる。モンゴルの車は右側通行。ガイドは「韓国製が安いのでそちらの車が多かったが、耐久性で日本車が優れているので、今は日本車が多い」とそつなく日本人客を持ち上げていたが、「優れている」日本車は空調が使えないほど使い尽くしている。確かに走っていると、車の傷みが早いことは実感できる。沙漠といっても砂礫沙漠。草が生え、その根の部分は小さく盛り上がっている。がたがたと良く響く。それを何十キロと結構な速度で走り抜ける。舗装路を走るのに比べて、数倍傷みは速い。チベット高原を走ったときもトヨタのランドクルーザだったが、メーターが28万キロ。すごい! と驚いたら「一度ゼロになった」と運転手が笑う。たしか30万キロでひとめぐりしてメーターはゼロになるのではなかったか。使い尽くす。これもシンプルライフのひとつだね。
 
 南ゴビの宿泊地「ツーリストキャンプ」のゲルに荷物を置いて、さっそく探鳥に出かける。じつはどこをどう走っているのか私にはわからない。お日様をみて、だいたい西へ向かっていると思った。上空から見たよりも起伏は少なく広大な草原と見えるが、それでも「稜線」を越えるとその向こうにまた同じような広大な草原が広がっている。雨が流れて浸食されたと思われる凹みが(たぶん)長年かけて深くなり広がり、水流をつくり湿原になったところもある。そういうところに少しばかり背の高い草が密生し、馬や牛やヤギが水を飲みに集まり、その糞につく虫が蝟集し、それを餌とする鳥が集まる。鳥ガイドはそれを熟知しているのであろう。
 
 ところが(後で知ったのだが)、日本人鳥ガイドはモンゴル語ができるわけではなかった。4台の運転手のうち英語が話せるのは一人だけ。鳥ガイドは乗った車の運転手と言葉を交わしながら走っているのではなく、鳥を見つけると手で車を止めるように、徐行するように、右へ左へとジェスチャーで示して、移動している。あらかじめ現地ガイドと(同席して)目的地とか今日のルートなどを打ち合わせてから出発しているのであろう。だから臨機に鳥を追いかけたり、鳥ガイドの記憶と違う場所に来てしまうと、それを修正するのに手古摺っている。ただ、4台のお客に公平になるように、鳥を見つけたらまず先頭車両が止まる。そこへ、ほかの車両が頭をそろえる。そうしたところで車を降りて鳥を観るというマナーにしているから、末尾車両に乗る現地ガイドがつかず離れず動いてやりとりをする。つまりわりとうまく意気投合しているガイドチームというわけである。
 
 湿原のようなところでアカツクシガモを見つける。「繁殖地なんです」とガイド。サケイをみせたいと思っているようだ。あっ、あれだとガイドが指さす方を2羽の鳥が飛び去る。彼はそれをじいっと見ていて、そちらへ移動する。草むらを飛び交う小鳥がいる。望遠鏡(スコープ)を据えたガイドがさっとそれをとらえて、「はい、入っています。ハマヒバリです」と望遠鏡から身を離し、覗くように促す。ほかの客たちは銘々の望遠鏡をそちらの方に据えて、覗き込んでいる。双眼鏡だけの客がガイドの望遠鏡に目をあてる。望遠鏡を持ったカミサンも私に、ガイドがそうするから遠慮なくみせてもらったほうがいいとサジェストしていたから覗こうとするが、ほんとうに遠慮のない女性客がぱっと横から体で割り込んでくる。彼女らは鳥を観たい一心で、後ろに並んで待っている人のことなど、気にしていない。ガイドが右によけると左から身を寄せる。後ろに並んでいる私のことなど、見てもいない。そうして、「ほらっ、何々さん、ここにサバクヒタキが入っているわよ」と知り合いの女性客に声をかける。ときどき、長い列ができるとふと気づいたように席を譲ってくれるから、私もみることができるというわけだ。いやはや。結局私は、もっぱらカミサンがとらえたスコープでみることが多かった。というか、自分の双眼鏡でソレをとらえて、動きを観察する。キガシラセキレイは緑の草のあいだに黄色い上半身をヒョコヒョコと動かしながら歩いているのを見つけた。なんとも美しい。スコープにとらえたとカミサンがいうのをのぞき込む。30倍の迫力は、やはり間近で寄り添っていると思える。
 
 こうして場所を変え、まさに「探鳥」する。草原の中にぽつんと半ば崩れた石組み囲いが残っている。そこに近づいてガイドは、イワスズメの巣があると示す。出入りしているのが親鳥、岩の隙間に何かを咥えて入り込む。その岩の隙間を覗ける方向に立ち位置を変えて待っていると、雛の姿がときおりみえる。モウコアカモズ、イナバヒタキ、コヒバリ、マミジロタヒバリなど見ている人たちはどこがどう違うと評定しながら、「同定」している。私などは、ははあ、あれがヨーロッパアマツバメか、そう言われてみれば、腰が白くないねとか、そうかこれがサケイといって、先ほど飛んでい行ったやつなのか、という調子。アカマシコも、北海道でみたのとは違ってみるほど鮮烈な色合いで大きかった、という印象派に終始した。どの鳥も今が子育て。おおむねペアリングも抱卵も進行中。子育ての親鳥たちはときどき天敵を追い払うのに声を立てて騒いでいる。
 
 草原を走っているときに、ときどき車を止める。オオノスリが悠然と地面に降りて周りを見渡している。アネハヅルがいる! と誰かが、前の車の窓からガイドの指さす方向をみて声を立てる。2羽のツルが何かを啄ばみながら動いている。すると1羽が羽根を広げて飛び上がる。もう1羽がそちらを見て、素っ気ない。「求愛ダンスだ」とガイド。望遠鏡に入れてもらうと、草原の緑とマッチして、ツルの白がなかなか美しい。車を寄せる。と、ツルが背を向けて離れていく。「近づくのはここまでだね」とガイド。でも、カメラを抱えた客は、もっと向こうへ行こうとする。ツルはついに飛び立つ。間合いをはかるってこういうことだねと、私は思う。この後何度かアネハヅルの番を見かけたが、これから抱卵し、子育てを済ませて親子でヒマラヤを越えるのかと思うと、彼らも大変な事業を営んでいるんだなあと感心する。
 
 見上げると空に猛禽類が飛んでいる。トビもいたが、シロエリハゲワシにお目にかかった。チゴハヤブサやヤツガシラも目に留めた。
 
 あとで手に入れた南ゴビの地図を見ると、ダランザドガドは南ゴビの中央に峰を連ねる巨大な山脈の北部に位置する。つまり、その山脈の南部にまた広いゴビが広がっているのだ。私たちの宿営地(ツーリストキャンプ)は標高が1500mほどであったが、南ゴビの第二日は、その南西部標高2300mほどのヨリンアムに向かった。1時間半も車で走ると山岳地帯に入り込む。谷間を分け入るように走る道は、草原の道とちがってどこでも走れるわけではない。しっかりと林道の様子だ(といっても林があるわけではないが)。左右に立ちあがる山のほとんどは重畳たる岩ばかりだが、草もついてはいる。とこどこころに木立が生えている。灌木もある。谷間には水が流れ、目の粗い砂地になる。寒い。一日の寒暖の差が大きいというので、防寒の用意はしていたが、それを着こんでさらに雨着をつけて、やっと寒さをしのぐような冷え込み方だ。山の奥地へ入る途中で、岩山の断崖に巣をつくるチョウゲンボウをみつけた。車を止め望遠鏡で覗き込む。3羽の雛が餌をもらっている。帰りには別の場所でオオノスリの巣を見つけた。そこにも3羽の雛がいて、親鳥がとってきたウサギを腑分けして食べているのが見えた。ここも子育ての季節なのだ。
 
 午前9時。国立公園ヨリンアムの奥地へ、歩いて入る。別名「鷲の谷」と呼ばれている通り、さほど広くない谷の上空に、山の尾根を超えた猛禽類が舞う。昨日見たシロエリハゲワシ、ヒマラヤハゲワシ、イヌワシ、ワキスジハヤブサとみて、「おおっ、あれはヒゲワシです!」というガイドの声に見上げると、尾羽がたしかに楔形になった大きなワシが悠然と舞う。何度も、尾根を越えて消え、尾根を越えて姿を見せる。さらに奥へ詰めると、川の端に融けない雪渓が残っている。その向こうには谷を塞ぐように氷塊が川を覆っている。氷塊は薄くなり、いくつかに割れ、その下が空洞になったところもある。融け始めている氷河だという。公園入口の看板には大きな氷河の絵が描いてあった。私たちの入ってきた方向が来た、上流に当たるってわけだ。南へ流れ下る方に氷河がある。ヘンな感じはしたが、南ゴビの砂漠はさらに南部に広がっていると分かると腑に落ちる。
 
 観たのは猛禽類ばかりではない。昨日見た小鳥たちに加えて、キョンキョンと鳴くベニハシガラス、チャイロツバメ、コシジロイソヒヨドリ、シロビタイジョウビタキ、セグロサバクヒタキ、ユキスズメ、ウスヤマヒバリ、キバシヒワ、腰の周りがピンクをしたコウザンマシコ、モウコナキマシコなどを確認し、さらにカヤクグリに仲間だと思うが、あとで調べてお知らせしますというガイドもわからない一種を観た。ただ鳥を観るというのではない。子育てをしている鳥の生態を観察している。それを熟知してこそ、鳥影をわが目にとらえることが出来る、とひたすらなガイドを見ていてそう思った。そうそう、カッコウの声も聞いた。日本で聞くのと同じ鳴き声であった。(つづく)

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