フィールズ国際特許事務所 代表弁理士ブログ

フィールズ国際特許事務所(FIELDS IP Attorneys)の代表弁理士が知財を中心に日々を綴っていきます

延長された特許権の効力に関する大合議判決(その1)

2017-01-30 17:37:26 | 特許延長制度

2017年1月20日に知財高裁で大合議判決(オキサリプラチン事件)が言い渡されました(知財高裁特別部・平成28年(ネ)第10046号事件)。事案は延長された特許権の効力に関するものです。

延長された特許権の効力が争点となった裁判所事案は他に2件あり(いずれも同じ特許権者が原告となった医薬品製造販売等差止請求訴訟)、いずれも本大合議判決の直前(昨年12月)に地裁判決が言い渡されています。本事案の地裁判決を含めると、延長された特許権の効力が争点となった地裁判決はこれまで3件になります。また、特許権の存続期間の延長登録の要件が争われた別の2件の知財高裁判決(パシーフ事件判決:平成20年(行ケ)第10460号、アバスチン大合議事件判決:平成25年(行ケ)第10195-8号)では、延長された特許権の効力範囲について言及されていますが、延長された特許権の効力を正面から判断した事案ではなく、判断基準としては参考にとどまるものでした。知財高裁は、延長された特許権の効力について判断を統一する必要性があると判断し、本件を大合議事件に指定したものと思われます。

すでにいくつかの事務所HP(弊所記事はこちら)やブログで本大合議判決についての速報・解説・コメントがなされていますが、今回の大合議判決の内容についてみていきたいと思います。

本判決は特許法第68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)の解釈に関するものです。

『特許法第六十八条の二:特許権の存続期間が延長された場合(第六十七条の二第五項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となつた第六十七条第二項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない。』

上記の条文から明らかなように、特許権の存続期間が延長された場合、特許権の効力は特許発明の技術的範囲の全範囲について延長される訳ではなく、処分の対象となった物(処分が医薬品の製造販売承認である場合には承認された医薬品)についての実施行為に限って及ぶことになります。

本件では、延長された特許権の効力は「処分の対象となった物」、すなわち、製造販売承認された医薬品と同一の物の実施行為にのみ及ぶのか、あるいは、実質同一物まで及ぶのか、実質同一物まで及ぶのであれば実質同一の範囲はどのような範囲なのか、が争点となっていました。

延長された特許権の効力について知財高裁は以下のように判示しました。

『このような観点からすれば,存続期間が延長された特許権に係る特許発明の効力は,政令処分で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず,これと医薬品として実質同一なものにも及ぶというべきであり,第三者はこれを予期すべきである・・・(中略)・・・したがって,政令処分で定められた上記構成中に対象製品と異なる部分が存する場合であっても,当該部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないときは,対象製品は,医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれ,存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属するものと解するのが相当である。』(下線付加)

知財高裁はまず、延長された特許権の効力は、処分の対象となった物だけでなく、それと実質同一のものにも及ぶとしました。処分の対象となった医薬品と同一のものだけに及ぶとすると、僅かな差や形式的な差があった場合に効力が及ばなくなり、延長された特許権が有名無実化するため、この判断は延長制度の趣旨から評価できると思います。

知財高裁は、処分の対象となった物と対象製品との相違点が「僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異」である場合には、両者は実質同一と判断するとしたわけですが、この「僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異」をどのように判断するかについて以下のように判示しました。

『そして,医薬品の成分を対象とする物の特許発明において,政令処分で定められた「成分」に関する差異,「分量」の数量的差異又は「用法,用量」の数量的差異のいずれか一つないし複数があり,他の差異が存在しない場合に限定してみれば,僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異かどうかは,特許発明の内容(・・・中略・・・)に基づき,その内容との関連で,政令処分において定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して,当業者の技術常識を踏まえて判断すべきである。』(下線付加)

知財高裁は、処分の対象となった物(製造販売承認を受けた医薬品)と対象製品(被疑侵害品)を比較するときに、特許発明の内容に基づき、その内容との関連で検討するとしています。両者を比較するときにどこに技術的な特徴があるとするかで、僅かな差異・形式的な差異の判断が変わってくるのですが、特徴点を(処分の内容ではなく)特許発明の内容に基づいて決めるとしています。処分の対象となった物と対象製品を特許発明で串刺しにして判断するというイメージでしょうか。特許発明の特徴に応じて実質同一性を判断する手法は本事案の地裁判決でも表れており、本大合議判決はこの点で地裁判決を踏襲しているといえます。

ただ、この判断基準は、『医薬品の成分を対象とする物の特許発明において,政令処分で定められた「成分」に関する差異,「分量」の数量的差異又は「用法,用量」の数量的差異のいずれか一つないし複数があり,他の差異が存在しない場合』に限定されています。このため、剤型等が異なるために数量的差異以外の差異が生じる場合や、「成分、分量、用法、用量」以外の「効能、効果」(対象疾患)に差異が生じる場合には、上記判断基準は適用されないことになります。

知財高裁は、数量的差異以外の差異が生じる例としてスプレー剤と注射剤を挙げています。この例の場合には、両者は投与経路や投与間隔などが異なるため、「用法、用量」に数量的差異が生じないと判断され、上記判断基準の枠外になるものと考えられます。

以上が実質同一の判断基準です。知財高裁が判決文で挙げた実質同一の類型については日を改めてご紹介したいと思います。

ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« EPOの進歩性検討プロセスのtips | トップ | 日ブラジルPPH試行プログラム... »
最近の画像もっと見る

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL