フィールズ国際特許事務所 代表弁理士ブログ

弁理士法人フィールズ国際特許事務所の代表弁理士が知財を中心に日々を綴っていきます

特許異議申立率が伸び悩む理由

2016-09-21 23:42:02 | 特許異議・無効審判

先日、特許異議申立の状況をブログ記事として投稿しましたが、異議申立率が低くとどまっている理由について知人と話す機会がありました。意外と多かったのが特許庁の審査内容は以前ほど悪くなく異議申立したくなる案件が少ないのではないか、というものでした。ひょっとすると、と思い特許庁HPの「特許審査の質についてのユーザー評価調査報告書」の平成27年度版(平成286月発行)を見てみると以下のような調査結果が載っていました。

「平成27年度 特許審査の質についてのユーザー評価調査報告書」(平成286月)、要約ii頁、図i-2より、URLhttp://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/h27_shinsa_user/h27_houkoku.pdf 

なんと4年連続で満足度(満足+比較的満足)が上昇しています!2003年ころの統計がないので旧特許異議申立制度のときの満足度との比較はできませんが、おそらくは2003年ころの特許審査の質に対する評価は上回っているのだと思います。

上記調査の質問項目(報告書8頁)をみると条文の適用が評価対象となっているのですが、その他にも拒絶理由通知の記載内容、判断のばらつき、サーチ内容など、特許庁の審査の質そのものが評価対象となっており、判断基準の緩さや特許の取得しやすさが直接満足度と結びついている訳ではないようです。すなわち、報告書の調査結果によると審査に対する信頼度が上昇していることになります。審査内容が妥当でばらつきがなく、自社と公平に扱われた上で他社が妥当な範囲で特許を取得しているのであれば、それを是とする一定の傾向が出てもおかしくないでしょう。

ちなみに他人の出願案件の審査についての満足度についても別途調査がなされており、その結果は、満足度(満足+比較的満足)=8.2%で上記満足度を大きく下回っています(報告書22頁)。しかし質問内容(報告書67頁)を見ると「他者の出願案件の審査についてどのように感じていますか。」となっており、審査結果に対する印象をダイレクトに聞いています。一般的には他者の審査結果には皆さん厳しい意見になりがちなので、不満足=異議申立という構図には必ずしもならないように思います。

以上、まとめますと、特許異議申立率の伸び悩みの理由として情報提供制度への普及と異議申立手順の複雑さを先日のブログ記事で取り上げましたが、特許審査の質に対する満足度上昇も3つ目の理由として挙げられると思います。

ただ、新しい特許異議申立制度が施行されてからまだ1年数か月しか経過していません。上記3つが原因とは即断できません。今後の特許異議申立数の推移や他の要因を注意深く見守っていきたいと思います。


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特許異議の申立ての状況

2016-09-10 22:43:41 | 特許異議・無効審判

8月上旬に特許庁から特許異議申立ての状況について発表がありました。事務所の知財情報(http://fields-ip.jp/ipinfo/2016/08/1001.html)に記載した通り、利用実績を見る限り新特許異議申立制度(2015年4月施行)は旧制度(2003年廃止)ほど利用されていません。

特許庁が毎年発行している特許行政年次報告書とH28‣8/30発行の特許出願等統計速報に基づいて、各年の特許登録件数、異議申立件数(権利単位)、無効審判件数の詳細をまとめると以下の通りです。

 

2002年

2003年

2015年

2016年

特許登録件数

119,968

122,486

189,358

19万件(推定)※1

異議申立件数

3150

3896

389

1200(推定)※2

異議申立割合

2.6%

3.2%

0.6%

無効審判件数

260

254

227

160(推定)※3

120161-6月で96,607件であるため、年間19万件と推測した。※220161-6月で累積627件であるため、年間1200件と推測した。※320161-6月で累積77件であるため、年間160件と推測した。

異議申立件数を特許登録件数で割った異議申立割合(特許案件のうち異議申立を受ける割合)は、2016年は2002年や2003年と比べると顕著に減少していることが分かります。また2016年は無効審判も減少傾向で、一定割合の無効審判は特許異議申立に吸収されたといえそうです。

ところで、新特許異議申立制度は、旧制度と同様にダミーの異議申立が認められ、特許権者が訂正請求したときは異議申立人が意見書を提出できるなど、異議申立人としては利用しやすい制度となっているはずです。にもかかわらず旧制度と比べて件数が大幅に減少しているのはなぜでしょうか?

要因の一つとしては、情報提供を利用するユーザーが増えたことが考えられます。 特許庁によると、情報提供件数は2003年以降増加傾向となり、近年では年間6千件から7千件前後で推移しています。

出典:特許庁「情報提供制度について」(平成271218日更新)

URL: https://www.jpo.go.jp/seido/s_tokkyo/tt1210-037_sanko2.htm

また、特許庁の発表によると情報提供を受けた案件の73%において情報提供された文献等が拒絶理由通知中で引用文献等として利用されているとのことです。このためある程度の目的は情報提供の利用で達成され、異議申立までには至っていない可能性があります。

2003年と比べると近年の情報提供数は年間2千件超増加しています。情報提供は他社特許対策としてかなり定着し、一定数の情報提供は特許異議申立に近い成果を上げ、結果として特許異議申立数を抑制している可能性があります。

別の要因としては、訂正請求に対する意見提出が異議申立人に認められたことで、しっかりした異議申立人を立てる必要があるという意識が異議申立人に生じているように思います。すなわち、旧制度では特許異議申立したら出しっ放しに近い状態であったように思いますが、新制度では訂正請求を監視し、しかも訂正請求書の副本送達から30日以内に対応しなければなりません。

この30日の期間は短く、ダミー異議申立人の郵送物管理が不十分であると、意見書を提出する機会を逸する可能性もあります。しかも、取消決定前に「決定の予告」として2回目の取消理由通知が発せられ、それに対して権利者が訂正請求をすると異議申立人に再度意見を申し立てる機会が与えられる可能性があります。

特許異議申立の状況をJ Plat Patで概略確認したところ、異議申立人が個人(ダミー)であるケースが多く見受けられましたが、住所が特許事務所や会社であったり、弁理士が代理人であったりするケースが比較的多い印象を受けました。これは恐らくは訂正請求対策ではないかと考えられます。

これを監視負担と呼んでよいかはわかりませんが、少なくとも手間とコストは増えますので、旧制度のように気軽に特許異議申立するという感覚が異議申立人側にないのかもしれません。

このように新特許異議申立制度は旧制度ほど利用されておらず、その理由としては情報提供による目的達成や、異議申立の監視負担・コスト増が考えられます。しかし、特許異議申立制度は施行からまた1年数か月経過したばかりです。利用状況や審理結果など、今後の動向に注目したいと思います。



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