フィールズ国際特許事務所 代表弁理士ブログ

フィールズ国際特許事務所(FIELDS IP Attorneys)の代表弁理士が知財を中心に日々を綴っていきます

寄託微生物の分譲

2017-04-20 19:12:06 | 寄託制度

微生物など、明細書の記載だけでは再現できない発明について特許を受けようとするときは、微生物を所定の寄託機関に寄託した上で特許出願をすることが必要です。一方で、寄託された微生物は一定の条件のもと分譲されることになります。微生物を寄託した出願人にとっては寄託微生物が誰の手に渡り、どのように利用されるかがとても気になるところです。よく質問を受けるところですので、以下、まとめてみました。

<<誰が分譲を受けることができるか>>

特許微生物寄託等事業実施要綱(以下、実施要綱)12条1項によると、寄託された微生物は、寄託者本人、寄託者の承諾を受けた者、そして法令上の有資格者が分譲を受けることができるとされています。

寄託者本人と寄託者の承諾を受けた者は出願人のコントロールが及ぶ者であり、それほど心配はないと思います。出願人のコントロールが及ばない「法令上の有資格者」への分譲が問題となります。

「法令上の有資格者」とは特許法施行規則第27条の3第1項に定められた下記要件のいずれかを満たす者を指します。

(i)その微生物に係る発明について特許権の設定登録があったとき

(ii)補償金請求権(特許法65条)に関する警告を受けたとき

(iii)拒絶理由通知に対する意見書の作成に必要なとき

法令上の有資格者に関しては、特許前は(ii)と(iii)の場合しか分譲が認められませんが、特許後はすべて(i)に該当するので法令上の有資格者になることに特に制限はないといえます。

また、法令上の有資格者という地位は、上記のいずれかの要件を満たす限り、特許庁に申請すれば簡単に証明してもらえます。(証明願に分譲請求書を添付して提出し、分譲請求書に特許庁長官の証明印を押してもらうことで完了します。)また、現行実務では、証明手続きにおいて試験・研究の具体的な内容を示すことは求められていないようです。

すなわち、微生物に係る出願が特許された後は、第三者は法令上の有資格者という地位で比較的簡単に微生物の分譲を受けることができることになります。

但し、実施要綱15条によると、法令上の有資格者に分譲がなされた場合は、寄託者へその旨の通知がなされると規定されています。NITE-IPOD(独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター)によると、分譲先の情報が寄託者に通知されるとのことです。寄託者に知られずに分譲を受けることはできません。

<<どのように利用されるか>>

特許法施行規則第27条の3第1項によると、「試験又は研究のために実施しようとする者」が寄託微生物の分譲を受けることができるとされています。また、同条2項によると、「微生物の試料を第三者に利用させてはならない」と規定されています。

法令上の有資格者について、試験・研究のための実施であることや、第三者に利用させていないことの確認は実務上、どのようになされているのでしょうか?

まず、分譲請求書には「微生物の使用に関する承諾書」の添付が求められています。この承諾書の中には利用目的に関する欄があり、分譲された微生物の利用は「試験又は研究」の範囲内であること、また、第三者に利用させてはならないことが挙げられています。分譲請求人はこの承諾書に捺印し、提出しなければなりません。

次に、実施要綱12条の2によると以下のように規定されています。

「指定機関の長は、前条第一項の規定により寄託された微生物の試料を同項第三号に該当する者に分譲した場合において、その者に対して、その微生物の試料が、法令の規定に従って利用されたことを確認するために必要な情報の提供を求めることができる。」

NITE-IPODによると、法令上の有資格者に対して分譲が行われた場合には、分譲を受けた者に「分譲微生物の使用の終了と廃棄報告書」の提出を求めているとのことです。また、必要に応じて分譲微生物の使用状況の調査を行っているとのことです。

但し、NITE-IPODに確認したところ、報告書が提出されなかった場合には、NITE-IPODから分譲請求人に対して報告書提出のお願いがなされるだけで、特に罰則・制裁措置があるというわけではないとのことでした。また、そもそも目的外利用の罰則については寄託微生物関連条項(前述の実施要綱や施行規則など)に規定がありません。

<<まとめ>>

寄託微生物の分譲をまとめると以下の通りになります。

・微生物に係る出願が特許された後は、第三者は比較的簡単に寄託微生物の分譲を受けることができる

・法令上の有資格者に分譲がなされた場合には、寄託機関から寄託者へ分譲先の情報が通知される

・法令上の有資格者が分譲請求する場合には、利用目的や第三者使用に言及した承諾書を提出しなければならない

・法令上の有資格者に分譲がなされた場合には、分譲を受けた者は「分譲微生物の使用の終了と廃棄報告書」の提出が求められ、必要に応じて分譲微生物の使用状況の調査が行われる

・寄託微生物関連条項に目的外の利用に対する罰則規定はない

微生物に係る出願が特許された後は、第三者は比較的簡単に微生物の分譲を受けることができますが、分譲請求人には、承諾書や報告書の提出が求められています。目的外の利用に対する罰則規定はないものの、特許権侵害の可能性もあります。コンプライアンスが重視されている昨今の状況を鑑みると、当初から目的外利用を狙った分譲請求はそれほど多くはないように思われます。

しかし、(意図的、偶発的は問わず)寄託微生物の遺伝情報や発現産物が解析され、それが他の研究開発で利用される恐れはあります。そのため、特許出願に当たって門外不出の微生物を寄託しなければならないときは、微生物やその研究成果をノウハウとして秘匿することも対応としては考えられるところです。

<<参考情報>>

JPO微生物寄託の案内:https://www.jpo.go.jp/seido/tokkyo/tetuzuki/shutugan/biseibutu/index.html 

NITE申請書類:http://www.nite.go.jp/nbrc/patent/form/description_f.html 

NITE分譲手続き:http://www.nite.go.jp/nbrc/patent/furnishing/index.html 

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日ブラジルPPH試行プログラム開始

2017-04-10 19:55:01 | 外国実務(その他)

特許庁及び経済産業省によると、日本特許庁とブラジル特許庁は、日ブラジル特許審査ハイウェイ(PPH)試行プログラムを2年間実施することに合意し、本年4/1からプログラムを開始したとのことです。ブラジル特許出願の審査遅延は世界的にみてもかなりひどく、この知らせを聞いたときはさっそく利用せねば、と思いました。

しかし、詳細を調べてみると、PPHの対象となる技術分野はIT分野及び自動車関連技術を中心とした機械分野に限られており、当所案件は残念ながら範囲外でした。しかもこのPPHは、2年間で200件という上限付きなので早い者勝ちです。(ちなみに、1出願人当たりのPPH件数は4ヶ月間で6件に制限されています。)

IT分野や機械分野のブラジル出願を抱えていらっしゃる方はPPH申請を是非ご検討下さい!

特許庁プレスリリース:http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/japan_brazil_highway.htm 

経済産業省プレスリリース:http://www.meti.go.jp/press/2016/03/20170317003/20170317003.html 

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延長された特許権の効力に関する大合議判決(その1)

2017-01-30 17:37:26 | 特許延長制度

2017年1月20日に知財高裁で大合議判決(オキサリプラチン事件)が言い渡されました(知財高裁特別部・平成28年(ネ)第10046号事件)。事案は延長された特許権の効力に関するものです。

延長された特許権の効力が争点となった裁判所事案は他に2件あり(いずれも同じ特許権者が原告となった医薬品製造販売等差止請求訴訟)、いずれも本大合議判決の直前(昨年12月)に地裁判決が言い渡されています。本事案の地裁判決を含めると、延長された特許権の効力が争点となった地裁判決はこれまで3件になります。また、特許権の存続期間の延長登録の要件が争われた別の2件の知財高裁判決(パシーフ事件判決:平成20年(行ケ)第10460号、アバスチン大合議事件判決:平成25年(行ケ)第10195-8号)では、延長された特許権の効力範囲について言及されていますが、延長された特許権の効力を正面から判断した事案ではなく、判断基準としては参考にとどまるものでした。知財高裁は、延長された特許権の効力について判断を統一する必要性があると判断し、本件を大合議事件に指定したものと思われます。

すでにいくつかの事務所HP(弊所記事はこちら)やブログで本大合議判決についての速報・解説・コメントがなされていますが、今回の大合議判決の内容についてみていきたいと思います。

本判決は特許法第68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)の解釈に関するものです。

『特許法第六十八条の二:特許権の存続期間が延長された場合(第六十七条の二第五項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となつた第六十七条第二項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない。』

上記の条文から明らかなように、特許権の存続期間が延長された場合、特許権の効力は特許発明の技術的範囲の全範囲について延長される訳ではなく、処分の対象となった物(処分が医薬品の製造販売承認である場合には承認された医薬品)についての実施行為に限って及ぶことになります。

本件では、延長された特許権の効力は「処分の対象となった物」、すなわち、製造販売承認された医薬品と同一の物の実施行為にのみ及ぶのか、あるいは、実質同一物まで及ぶのか、実質同一物まで及ぶのであれば実質同一の範囲はどのような範囲なのか、が争点となっていました。

延長された特許権の効力について知財高裁は以下のように判示しました。

『このような観点からすれば,存続期間が延長された特許権に係る特許発明の効力は,政令処分で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず,これと医薬品として実質同一なものにも及ぶというべきであり,第三者はこれを予期すべきである・・・(中略)・・・したがって,政令処分で定められた上記構成中に対象製品と異なる部分が存する場合であっても,当該部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないときは,対象製品は,医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれ,存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属するものと解するのが相当である。』(下線付加)

知財高裁はまず、延長された特許権の効力は、処分の対象となった物だけでなく、それと実質同一のものにも及ぶとしました。処分の対象となった医薬品と同一のものだけに及ぶとすると、僅かな差や形式的な差があった場合に効力が及ばなくなり、延長された特許権が有名無実化するため、この判断は延長制度の趣旨から評価できると思います。

知財高裁は、処分の対象となった物と対象製品との相違点が「僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異」である場合には、両者は実質同一と判断するとしたわけですが、この「僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異」をどのように判断するかについて以下のように判示しました。

『そして,医薬品の成分を対象とする物の特許発明において,政令処分で定められた「成分」に関する差異,「分量」の数量的差異又は「用法,用量」の数量的差異のいずれか一つないし複数があり,他の差異が存在しない場合に限定してみれば,僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異かどうかは,特許発明の内容(・・・中略・・・)に基づき,その内容との関連で,政令処分において定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して,当業者の技術常識を踏まえて判断すべきである。』(下線付加)

知財高裁は、処分の対象となった物(製造販売承認を受けた医薬品)と対象製品(被疑侵害品)を比較するときに、特許発明の内容に基づき、その内容との関連で検討するとしています。両者を比較するときにどこに技術的な特徴があるとするかで、僅かな差異・形式的な差異の判断が変わってくるのですが、特徴点を(処分の内容ではなく)特許発明の内容に基づいて決めるとしています。処分の対象となった物と対象製品を特許発明で串刺しにして判断するというイメージでしょうか。特許発明の特徴に応じて実質同一性を判断する手法は本事案の地裁判決でも表れており、本大合議判決はこの点で地裁判決を踏襲しているといえます。

ただ、この判断基準は、『医薬品の成分を対象とする物の特許発明において,政令処分で定められた「成分」に関する差異,「分量」の数量的差異又は「用法,用量」の数量的差異のいずれか一つないし複数があり,他の差異が存在しない場合』に限定されています。このため、剤型等が異なるために数量的差異以外の差異が生じる場合や、「成分、分量、用法、用量」以外の「効能、効果」(対象疾患)に差異が生じる場合には、上記判断基準は適用されないことになります。

知財高裁は、数量的差異以外の差異が生じる例としてスプレー剤と注射剤を挙げています。この例の場合には、両者は投与経路や投与間隔などが異なるため、「用法、用量」に数量的差異が生じないと判断され、上記判断基準の枠外になるものと考えられます。

以上が実質同一の判断基準です。知財高裁が判決文で挙げた実質同一の類型については日を改めてご紹介したいと思います。

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EPOの進歩性検討プロセスのtips

2017-01-12 17:07:56 | 欧州実務

昨晩、弁理士会派主催の研修会「欧州における進歩性検討プロセスとドイツ特許制度の概要」があり、出席してきました。講師は日本弁理士で欧州弁理士でもある長谷川寛先生です。

欧州進歩性実務の再確認を目的にして参加したのですが、日本実務を意識したポイントをついた説明は大変参考になりました。以下、参考になった点を2つほど記載します。

技術的効果が実施例で示されていない態様がクレームに含まれていると日本ではサポート要件違反や実施可能要件違反が通知されることがあります。一方、欧州では、(発明にもよりますが)サポート要件違反や実施可能要件違反ではなく、進歩性検討プロセスで技術的課題が構築できないとして、進歩性なしの拒絶理由が通知されます。この拒絶理由は追加実験データを提出することで解消することがあるのですが、データ後出しを認めるのはフェアではないのでは、と思っていました。この点、長谷川先生は、技術的課題は主引例との関係で客観的に定められ、審査官により認定された課題自体後出しなので、データの後出しを認めないとフェアとはいえない、という説明でした。

ちなみに、欧州における進歩性の検討プロセスは「課題解決アプローチ」により行われ、その中には「技術的課題」の確定というステップがあります。そこではClosest Prior Artとの相違点に基づいて本発明の技術的特徴(効果)が認定され、それに基づいて客観的な技術的課題が認定されます。技術的課題は、明細書に明示されていなくても課題として認定されることがあります。欧州における進歩性検討プロセスの枠内では上記のような後だしの問題点は意識されていないということでしょうか。

もう1点、日本では新規な課題を設定したこと(課題設定の困難性)が進歩性主張に効果的と考えられています。日本特許庁審査基準にも「請求項に係る発明の解決すべき課題が新規であり、当業者が通常は着想しないようなものである場合は、請求項に係る発明と主引用発明とは、解決すべき課題が大きく異なることが通常である。したがって、請求項に係る発明の課題が新規であり、当業者が通常は着想しないようなものであることは、進歩性が肯定される方向に働く一事情になり得る。」(第III 部 第2 章 第2 節進歩性、3.3 進歩性の判断における留意事項、(2))と記載されています。この点、長谷川先生によると、EPOでは課題設定の困難性に関する記載がガイドラインから削除されたことなどから、欧州では近年はこの手の主張はうまくいかないとのことでした。客観的な技術的課題の認定という検討プロセスから考えても、欧州では本発明独自の課題を主張する余地はそれほど大きくはないという印象を受けました。

ここ10年ほどで欧米の現地事務所で活躍される日本弁理士が増えました。それに従って、日本語の現地実務情報も格段に増え、日本語で意見交換できる機会も増えました。有難いことです!

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本日、仕事初めです

2017-01-04 13:25:25 | 日記

新年明けましておめでとうございます!

みなさま、正月三が日はいかがお過ごしだったでしょうか?

本年も事務所の近況、知財情報、街ネタなど、綴ってまいります。

本年もどうぞよろしくお願い致します!

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