うつけバーNOBU
1560年
桶狭間の戦いにおいて
織田信長は
今川義元率いる
2万5千もの軍勢に対して
わずか3千にも満たない兵で
奇襲攻撃を仕掛け
見事 戦に勝利したという
言い伝えがある
そこはとある歓楽街にある「うつけバーNOBU」という名の1軒のバー。
髭とマント姿が印象的なオカマ・NOBUママのお店には、日頃のうっぷんを聞いてもらおうと、“会社”という名の戦場に疲れ果てた“サラリーマン”という名の侍たちが、夜な夜な足を運ぶ。
今夜も早速、常連客がやって来てママに愚痴ってるご様子。
谷口「やってらんねぇよ、まったく」
ママ「谷やん、今日はこのくらいにしておいたほうがいいんじゃない？飲み過ぎよ」
谷「ほっといてくれよ！どうせ俺なんかね、どっかその辺で飲み潰れてさ、野垂れ死にでもしちまった方が世の中のためなんだよ。ママだってそう思ってんでしょ？」
マ「そんなこと思ってないわよ」
谷「嘘だね。絶対思ってるよ」
マ「思ってないわよ」
谷「思ってるよ」
マ「思ってないって」
谷「思って…」
鏡越しにものすごい形相のNOBUママを見てしまう谷やん
マ「どうしたの？」
谷「いや…なんか、すいません」
マ「何、急に。変な谷やんね。それより、会社で何か嫌なことでもあったの？」
谷「それがさ、いい加減自分の不甲斐なさに嫌気がさしちゃったっていうか」
マ「今更なに言ってんのよ。こんなオカマの店に来て愚痴ることぐらいしかできない姿見てたら、あんたが不甲斐ないのなんて誰が見ても一目瞭然よ。いっそのこと、あんたもあたしみたいに己のホトトギスちょん切っちゃってうちで働く？」
谷「ここで働くか…。それもいいかもね…」
マ「何があったのよ」
谷「俺がサラリーマンになりたての頃は、もっとこう上を見ていたはずなんだけど。今じゃもう上司の顔色だけ窺ってビクビクしながら仕事してるわけよ」
マ「でも、自分らしさを持ち続けるってすごく大変なことじゃない」
谷「そうだけど…。ママはそうやって好きな服着て、好きなことして自分らしく生きてるじゃない」
マ「あら、これはうつけなだけよ。好きなように生きてるなんて言えば聞こえがいいかもしれないけど、周りの人からしたらただの笑いものよ」
谷「そうかなぁ」
マ「そうだ！じゃあ、そんな不甲斐ないあんたにぴったりの話してあげる」
谷「俺にぴったりの話？」
マ「その昔ね、天下統一なんてくだらない夢を抱いてたあるおバカさんがいたらしいんだけどね…」
再現VTR
自陣で構えている織田信長。
そこに、家臣が報告にやってくる。
家臣「信長さま、今川軍の2万5千もの軍勢がこちらに向かっている模様です」
織田信長「我が軍の軍勢はどれほどじゃ？」
家「多く見積もっても3千といったところかと」
マ“確かにまともに考えればかないっこない。でも、そんな状況でもそのおバカさんはこれっぽっちも諦めてなかった”
信「行くぞ！出陣じゃ！」
マ“さすがに多勢に無勢ということもあって、敵の兵はすっかり勝った気になっていたの。そこでね、近隣の村人たちをつかって祝い酒の差し入れをさせたの”
お酒を飲んでご機嫌な今川軍の兵たち。
今川軍「あれ？雨じゃね？もう嫌だなぁ。戦めんどくせぇ～」
と、馬の走ってくる音が。
今川軍「マジ、このタイミングで？おい、織田軍来ちゃったよ」
今川軍と戦う信長
信「この戦、2万5千対3千ではない！3千対1じゃ！我々の敵は今川義元、ただ1人！」
マ“とんでもない奇襲攻撃を仕掛けたそのおバカさんは、遂に天候すら味方につけて10倍近い数の相手をやっつけちゃったって話よ”
再現終わり
谷「へぇ～。なるほどね」
マ「ま、自分らしさを持ち続けるにはそれなりの覚悟と準備、それに時には運だって必要って話よ。臆病者の目にはね、敵は大軍に見えるんだってさ」
谷「そっか。そうだよね」
マ「少しは元気が出たみたいねぇ」
谷「そういえば、ママはどうしてホトトギスをちょん切っちゃったの？」
マ「…色々あったのよ」
NOBUママの視線の先には、ホトトギスちょん切る前のママと“ミッチー”の写真
そこに、ドアが開いて新しいお客さんが
マ「いらっしゃい」
サル「NOBUさん…」
マ「サルちゃん…！」
谷「サルちゃん？知り合い？」
サ「捜しましたよ。さ、帰りましょう。あなたのいるべき場所へ」
マ「人違いよ。見ての通り、ここにいるのはうつけ者のただのオカマ。あんたが捜してるその人は、あのお寺で死んだの」
谷「お寺で死んだ？」
サ「NOBUさん…」
懐から草履を出して、カウンターに置くサル。
サ「出直します」
店を出ていくサル
谷「え、何この展開？」
草履を手に取り、泣くNOBUママ
谷「ママ、泣いてるの？」
マ「ホトトギスは鳴けなくても、アタシはまだ泣けたみたい」
谷「ママ」
マ「暖かい…」
つづく
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