中国から Facebook や Twitter、YouTube へはアクセスできない。これは、中国政府による金盾(Great Firewall)と呼ばれるネット検閲によって、特に意識せずインターネットに接続している場合には正しい実態です。しかし、実際には中国国内からこれらのサイトにアクセスしているユーザーは多く存在しています(一つの確認方法として、Facebook の「友達の検索」で、居住地に中国の住所を入れて試してみてください)。
ユーザーが中国のどのようにネット検閲を乗り越えて海外にアクセスをしているのか。その実態は何か。様々な手法が知られており、また中国法の解釈によっては認められていない、もしくは今後規制が強化される可能性がありますが、中国のインターネットの利用実態を知る上ではとても重要な要素です。今回の稿に記載する内容について、実際に利用された結果などに一切責任を持つことはできませんが(そして、特に会社のパソコンなどでこの方法を試されることはおすすめしません)、あえてこのテーマに踏み込んでみることにします。
まずは、答えを申し上げましょう。一部のユーザーはどのように中国から Facebook にアクセスしているのか。答えは VPN を利用しているからです。つまり、「Facebook にアクセスしている」ことを中国のネット検閲を見つけられないように、自分のパソコンと海外との間を暗号化して通信しています(VPN トンネル)。技術的には難しいことではありません。
VPN といっても大きく二つに分けられ、主に企業が国際間の社内ネットワークを構築するために利用する IP-VPN と、主に個人ベースで利用する Internet VPN サービスとがあります。さらに個人が主に利用する Internet VPN サービスも、有料サービスと、ソフトウェアをインストールして無料で使えるサービスとの2つに分かれます。
企業のオフィスなどで国際間の IP-VPN 網を利用して社内ネットワークを構築している場合、中国国内のパソコンが日本など外国のネットワークの一部として運用されているケースがあります。中国では本来、ネット検閲の回避や格安 I
ナイキid 電話事業者の存在を防ぐため、公専公となる構成は認められていません。そのため、外国と中国の社内システムを繋げる目的で契約されていることが一般的です。たとえば日本企業の中国子会社で働く従業員の人が中国のオフィスでパソコンを使うとき、日本経由でインターネットにアクセスできる環境を持っていることがあり、結果として中国のネット検閲を経由していないことになっています。
次に、個人ベースで利用する Internet VPN サービスについてです。実は中国のネット検閲対策に限らず、たとえば自分のアクセス元を隠すための手段として Internet VPN サービスを利用するユーザーは多く存在し、有料サービスとして大小様々な規模の Internet VPN サービスを提供する事業者が数多く存在しています。具体的な事業者を紹介することはここではできませんが、百度など中国の検索サイトで「翻墻」の簡体字で検索すれば、山ほど検索に引っかかります。有料のサービスは、どの国からアクセスしているように見せかけるかを選ぶことが出来ることが多く、転送量によって違いはありますが、1ヶ月あたり1,000円から数千円ぐらいが相場です。
最後に、無料のソフトウェアを利用した VPN です。これはもう危険な領域なので、具体的なソフトウェアの名前を示唆するような表現も出来ませんが、中国の人はよく使っていることを見かけます(有名なソフトウェアは3つあり、日本語のブログなどでも紹介されていることがありますので、興味がある方はお調べください)。Windows のパソコンにインストールして Web ブラウザで設定を ON にするだけで、簡単に中国のネット検閲を回避したアクセスができます。ただ、なぜ危険かといえば、このソフトウェアによって中国のネット検閲を回避することは出来るかもしれませんが、その代わりこのソフトウェアを提供している人(もしくは組織)には、暗号化されていない通信内容はすべて見られているわけです。そして、一部のセキュリティ調査やセキュリティソフトではこれらはマルウェア等として認識されています。また一部のソースコードの解析の報告によれば、ソフトウェアの解析を妨げるいくつかの工夫が施されているようです。
なお、私たちが確認している限り、有料の Internet VPN サービスを提供している事業者についても、半分以上は個人レベルでサービスを提供している模様で、これらのほぼすべてが提供元の会社名や住所などの情報を明かしていません。このようなケースの場合、有料サービスといっても安心出来るものではないため、業務用の通信には用いるべきではありません。
そしてもう一つ重要なことがあります。中国は、すべての暗号化技術について、商用暗号管理条例という法令で規制をしています。そして、この法令を主管する国家暗号管理局は、VPN など通信の暗号化を行う機器についても輸入や持ち込みを制限しています。中国の大手メーカーで生産されている機器については初めからこの許可をとっているケースが多いものの、輸入管理目録に掲載されている製品を国外持ち込む場合には「暗号輸入許可証」が必要で、これが無いと税関を通過しないことになっています。ただ、条文には概念的な記載しかないため、当局の解釈によってどのようにも対応が変わる可能性があります。ですから、そもそも有料、無料を問わず、中国国内で明確にこの許可をとっていることを謳っているサービス以外は、当局の規制の対象になる可能性があるということについて留意してください。
一般に、中国のこうした規制を理解する上で使われる言葉には、「上に政策あれば、下に対策あり」という表現があります。筆者の理解を加えると、「出来ないと言われていることには、高い確率で、それを実現する方法が存在する」ということです。筆者はリスクを考慮して、中国国内からは Facebook は使わないことにしています。また、携帯電話のローミングでは Facebook にも Twitter にもアクセスできますが、これも中国の通信事業者を介した通信となるので避けるようにしています。しかし、冒頭で触れたように中国から Facebook や Twitter にアクセスしている人が数多くいることは事実で、繰り返し指摘しているリスクよりも、中国のユーザーはその利便性などをとっている利用実態がある、という点には目を向けておく必要があるでしょう。
(執筆:株式会社クララオンライン 家本賢太郎)