| DZ(ディーズィー)
角川文庫
【著者】
小笠原 慧
【あらすじ】
ヴェトナム難民船より救出された妊婦が産んだ二卵性双生児の兄妹。
彼らが辿り付いた先で待ちうけていたものは・・・。
ふたりの哀しい宿命を壮大なスケールで描いたヒューマン・ミステリ。
詳細を見る |
-------------------------------------------
最近読んだ中では面白かった一冊。
本作は、第二十回横溝正史賞正賞を受賞している。
当初、物語はバラバラのエピソードで始まる。
・ヴェトナム
堕胎手術を受けるのが嫌で、産婦人科から逃げ出した妊婦。
彼女は難民船に乗り込み、日本へ到着する。
・アメリカ
夫婦冷凍殺人事件を追う刑事がいる。
死んだ二人の5歳の息子は、行方不明のまま事件は迷宮入りする。
・日本
娘の天才的な知能に気付き、驚く夫婦。
もっと伸ばそうとする夫と、子供らしく育ててあげたいと願う妻の間にはギャップがある。
・日本
研究者の男と、医大生の女のカップル。
男は研究のため、遠く離れたアメリカへと向かう。
舞台となる国も違う上記のエピソードがどう繋がっていくのか、楽しみにしながら読み進んだ。
結論を先に言うと、本作にはあっと驚く結末が最後の数行に待ち構えている。
それを読んだ時に物語を振り返ってみると、伏線が張りまくられていた事に気付き、とても悔しい思いをした。
私が鈍感なだけなのか、著者の張った伏線が巧妙だったのか。
後者である事を願いたい。
本作は、人間の進化を描いた上物のミステリーである。
解説にも書かれていたが、『進化』というテーマで物語を創作する場合、ボトルネックになるのは進化には膨大な時間が必要だという事だ。
しかし本作では、本来諸々の障害の原因として挙げられている染色体の異常を『進化』と捉える事で、この問題を解消している。
何らかの原因により、染色体の数が本来より少なく産まれてしまった人間を、『進化した人類』としているのだ。
進化した人類は、人類と染色体の数が違うため、当然その間に子孫を残す事はできない。
そこで、進化した人類は、人類からすれば残酷な手段で、その問題を解決しようとする。
人類を超越した能力を持つ生物として描かれる進化した人類。
種の存続の為なら手段を選ばない彼らに恐怖を覚えると同時に、『自分は違う』という事を自覚している彼らが持つ悲哀が感じられ、同情も覚えた。
物語の本筋以外でも、生物の進化についての記述はとても勉強になったし、今話題のES細胞が登場した時は、ファン教授を思い浮かべたりしながら読んだ。
著者は医者でもあるので、専門用語だらけの文章に辟易してしまう方も多いだろうとは思う。
しかし、私の場合も意味不明な専門用語はそのまま流して読み進んだので、特に気にせず読まれると良いだろう。
種の保存こそ生物にインプットされた一番大事な本能なのだと再認識できる良書であった。