先日こんなニュースが飛び込んできた。
竹中平蔵総務相の私的懇談会「通信・放送の在り方に関する懇談会」(座長・松原聡東洋大教授)は6日の会合で、NHKやNTT改革などを盛り込んだ最終報告書をまとめた。
NHK改革では、受信料引き下げや、スポーツ・娯楽部門の本体からの分離、現在8波あるチャンネル数をFMラジオや衛星放送を停波することで、11年までに5波に絞り込むことなどを盛り込んだ。
現在の8チャンネルのうち、衛星放送(BS)2波とFMラジオ1波の計3チャンネルを「公共放送の役割をすでに終えた」として、11年までに廃止し、チャンネル数を五つに削減することを提案した。不祥事が続く娯楽・スポーツ番組の制作部門を本体から分離することや、受信料を大幅に下げた上で、支払いを義務化する受信料不払いへの対応も盛り込んだ。
(毎日新聞より)
このニュースを聞いて非常に残念に感じました。FMラジオで、夕方、深夜放送されている一日の終わりをホッとして過ごせる落ち着いたトーンの音楽番組は、もう聞くことができなくなるということなのでしょうか。また、BS2で放送している夜8時からの映画の時間は、チャンネルが削減されることによって野球放送の関係などで、かなり制約を受けることとなるでしょう。スポーツを主に扱っていたBS1では、大リーグ中継にも影響が出てきそう。その他、ワールドカップ、大リーグ開幕、オリンピック、アカデミー賞授賞式などのイベントにあわせて行われる特別番組があれば、その他の番組は、中断させざるを得ません。どう考えても、BSを一つのチャンネルに統合してしまうには無理があるのでは。
衛星放送(BS)2波とFMラジオ1波の計3チャンネルを「公共放送の役割をすでに終えた」としていますが、何を持って役割を終えたとするのか、そこが全く見えてきません。NHKは、国民みんなのものであるはず。それを私的懇談会という小さな組織によって短期間で大きく動かそうとする行為には疑問を感じてしまいます。NHKの予算を支えているのは国民。まず、国民に意見を広く聞くべきだと思うのは僕だけなのでしょうか。そして、仮に、チャンネルを削減するという方針を出すならば、その理由を詳しく国民に示すべきではないでしょうか。
僕の感覚としては、今やBS1・2、FMラジオは、深く生活の中に浸透していて、あるのが当たり前となっていると思います。そこに価値がないと見ることはどうしても出来ません。特に、BS1・2は、民放の広告料収入で運営され、視聴率第一の放送では実現が難しいであろう番組作りがなされていて文化的な面で大きな役割を果たしていると思います。今は多チャンネル時代、多様な選択肢の中から視聴者が自分に合った番組を自由に選択できることに心の豊かさや余裕を感じることが出来るいい時代になってきたといえるのでは。その時流に逆行するような動きに、一抹の悲しさや寂しさを覚えます。今、視聴者は、それぞれNHKに価値を見出して視聴料を払っています。そのNHKの価値を下げることによって、視聴料を下げるというマイナスな方向の動きは賛成できません。そして、それによって視聴者の理解を得られるとは僕は思いません。それよりも、まず、なぜNHK受信料不払い者が増えたのか、その根本を考えるべきではないでしょうか。
この動きに対してNHKは、反対の立場を取っていると聞きました。是非ともNHKには、その立場を貫いてもらいたいです。
【追記】
通信、放送の在り方に関する懇談会・報告書には、
「BS、FMの3波を2011年までに停波の上、これを速やかに民間への開放等の処置をとり、視聴者が多様な放送を享受出来るようにすべきである。」
とありました。
小泉改革において、何でもかんでも民営化・規制緩和し対象を厳しい競争の世界にさらしていくことにより、効率化を図っていく急進的なやり方、強い者しか生き残っていくことの出来ないやり方には、人情や情緒の入り込む余地が少なくなっていくような気がします。特に、文化を育む土壌を作っていくことを考える場合、そのようなやり方は通用しないと思います。
文化的要素を含む弱い立場に置かれやすい内容の番組作りは、やはり、経済効率第一の民間放送では、難しいのではないでしょうか。報告書に「民間への開放等の処置をとり、視聴者が多様な放送を享受出来るようにすべきである。」とありますが、民間が視聴率を第一に考えた放送をした場合、内容が画一的な方向に向かっていくのでは。少数派のニーズに多様に応えていくには、NHKが一歩も二歩も先を行っているはずです。
例えば、BS2で毎週日曜日深夜に放送されている「ミッドナイトステージ館」。この番組は、演劇を観ることの出来る数少ない番組の一つで、第一週、第二週にはその後放送される演劇に携わった俳優、演出家、脚本家など演劇人の30分に渡るインタビューもあります。僕は、田舎に住んでいて演劇に触れる機会がなく、未知の世界だったのですが、この番組を通して演劇の奥深さ、面白さを知ることが出来ました。
文化は、発展していくには長い年月を必要とし、国民全体がある程度保護し見守っていくことが大切で、そういう観点からもBS1・2、NHK-FMの果たす役割は大きいと考えています。
最後に・・・、懇談会に参加している委員は都会に住んでいるので分からないかも知れませんが、僕の住んでいる田舎の地域は、FM放送が、民放1局とNHK-FMの2局だけです。もし、NHK-FMがなくなれば、選択肢を失うという恐ろしい事態に陥ります。NHK-FM削減は、愚行としか思えません。