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某ヘタレ社会学者のブログです。本と音楽に映画の情報、日々のニュースや日常生活のできごとについてお伝えします。

地域再生の社会学

2017年03月23日 18時00分50秒 | 
三浦典子・横田尚俊・速水聖子編著,2017,『地域再生の社会学』学文社('17.3.23)

 本書は、三浦典子氏の定年退官を記念し編まれた論文集である。
 宇部興産(1章)、ブリヂストン(2章)の地域社会貢献事業、山口市一の坂川の環境保全運動(5章)、宮崎県五ヶ瀬町の「自然活動」事業(14章)等、特定の事例に的を絞った論考は、なかなか読み応えがあった。これらの事例研究は、「地域再生」のモデル事業を記録し広く知らしめる意味でも、たいへん貴重な成果といえる。
 それに対し、「理屈」で「地域再生」を論じたものは、総じて退屈で、とくに、官僚が好みそうな、自己本位の稚拙なコミュニティ理想像を住民に押しつけ、参加者40名前後のくだらないワークショップをして「協働のまちづくり」の一環として位置づけるなど笑止千万である。(7章)まちがって愚論を展開する失敗は誰にもあるが、自らの地位を悪用し、社会学のアクションリサーチを辱める、そして有害無益でしかない地域住民への官僚的な指導など行うべきではない。社会学の論考を読んでアタマにきたのは久しぶりだ。
 「地域再生」は、企業、住民有志、ボランタリーアソシエーション等が担ってきた。ファミリーサポートセンターとふれあいいきいきサロンの事業、本書では取り上げられていないが小規模多機能共生ホームの活動、認知症高齢者の見守りネットワークの構築等、地域住民の高齢化にともなう生活ニーズの充足をはかるべく、「福祉コミュニティ」としての「地域」の「再生」を実践してきた事例は豊富にある。
 「社交」、「経済」、「文化」、「防災・減災」、「福祉」、以上が活性化もしくは機能向上を図るべき地域コミュニティの課題である。本書の多くの論考には、その課題解決をはかるための有益な知見が提示されている。

目次
はじめに:社会学からみた地域再生
第1部 企業家と産業都市の地域再生
1章 企業の社会貢献と地域再生――アートがつなぐ官民の力――
2章 企業における家族経営と地域
3章 過疎地のアートプロジェクトと地域活性化
第2部 地域再生の理論と自治体政策
4章 地域社会における信頼形成の社会理論
5章 地域再生と「場所」の可能性
6章 市民参画と市民活動の時代における地域再生への展望
7章 「協働のまちづくり」の課題と展望
8章 災害復興と地域再生
第3部 まちづくりの実践と地域再生
9章 山村集落の地域再生とむらづくりのための基本認識―山村高齢者の生きがい調査から限界集落論を検討する
10章 類縁関係に基づく移住者のコミュニティ形成
11章 地域福祉活動と地域圏域
12章 生活困窮者への伴走型支援とコミュニティ形成―生活構造論からの整理
13章 子育て支援と地域ボランティア
14章 農山村地域における育児の社会化の可能性―宮崎県五ヶ瀬町の事例から
第4部 中国都市の現在
15章 中国大都市における転居後の高齢者の生活状況―上海市の高齢者調査をてがかりに
16章 中国の都市住民における主観的幸福感

 本書は、三浦先生よりご恵投いただきました。ありがとうございました。
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経済ジェノサイド

2017年03月02日 18時37分28秒 | 
中山智香子,2013,『経済ジェノサイド──フリードマンと世界経済の半世紀』平凡社('17.3.2)

 学生時代、ミゲル・リッティンの映画『戒厳令下チリ潜入記』を見て、またガルシア=マルケスの同名ルポルタージュを読んで衝撃を受けたのが、わたしのニューリベラリズムとの出会いであった。その前後、サッチャリズム、レーガノミックス、そして中曽根政権による三公社民営化等々、これらによって激変する世界を生き、なぜこのような社会経済の大変動が進行したのかが、わたしの最大の社会学的関心となった。
 本書は、どの本よりも明晰に、その変動要因と経緯について説明がなされている。必読本など滅多にお目にかかるものではないが、本書はまさにその一冊だ。

目次
序章 経済学のオフリミッツ
第1章 何のための市場形成か―チリのクーデターと経済政策
第3章 社会的責任か、成長か―市場原理の例外としての企業
間奏 経済学の分岐点で
第3章 誰もそれを止められない―市場原理の例外としての貨幣
第4章 給料だけでは不十分?―所有者社会の夢と年金
終章 危機の時代にたたずむ

「ショック療法」の主唱者ミルトン・フリードマン―彼の経済理論は「人類のために最大の貢献」をしたとされ、一九七六年にノーベル経済学賞という栄誉が与えられた。だがそれは、最高評価に値する真の「発明」だったのだろうか。政治とメディアとの三つ巴で強引に推進された新自由主義的政策と、その帰結たる半世紀後の絶望的なまでに荒廃した世界状況を思うとき、そもそも経済学的権威とは何かと疑問を抱かずにはいられない。経済学の深い闇に鋭い批判的考察のメスを入れ、経済学者の果たすべき社会的責任と使命を問う。
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エンジェルフライト

2017年03月02日 18時36分08秒 | 
佐々涼子,2014,『エンジェルフライト──国際霊柩送還士』集英社('17.3.2)

 「納棺夫」(送り人)同様、知られることのないなりわいについて、丹念に取材し世に知らしめた意味は大きい。
 わたしたちが、こうしたなりわいをとおして、近親者の死を受容し記憶の引き出しにそっとしまい込む営みが、少し尊いものであるように感じた。

目次
遺体ビジネス
取材の端緒
死を扱う会社
遺族
新入社員
「国際霊柩送還」とはなにか
創業者
ドライバー
取材者
二代目

オヤジ
忘れ去られるべき人

国境を越えて遺体や遺骨を故国へ送り届ける「国際霊柩送還」という仕事に迫り、死とは何か、愛する人を亡くすとはどういうことかを描く。第10回開高健ノンフィクション賞受賞作。(解説/石井光太)
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下流老人

2017年03月02日 18時34分46秒 | 
藤田孝典,2015,『下流老人──一億総老後崩壊の衝撃』朝日新聞出版('17.3.2)

 高齢者の貧困は子どもの貧困と比べると注目されない。それは、高齢者虐待が子ども虐待と比べると注目されないのと相似である。わたしも含めて、無意識的にしろ、いのちの選別、序列化をはかっているからにほかならないが、長生きするのは幸福というよりリスクと捉えざるをえない現実を本書は明らかにしてくれている。

目次
第1章 下流老人とは何か
第2章 下流老人の現実
第3章 誰もがなり得る下流老人―「普通」から「下流」への典型パターン
第4章 「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日
第5章 制度疲労と無策が生む下流老人―個人に依存する政府
第6章 自分でできる自己防衛策―どうすれば安らかな老後を迎えられるのか
第7章 一億総老後崩壊を防ぐために

まもなく、日本の高齢者の9割が下流化する。本書でいう下流老人とは、「生活保護基準相当で暮らす高齢者、およびその恐れがある高齢者」である。そして今、日本に「下流老人」が大量に生まれている。この存在が、日本に与えるインパクトは計り知れない。
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社会学的想像力

2017年03月02日 18時34分09秒 | 
C・ライト・ミルズ,伊奈正人・中村好孝訳,2017,『社会学的想像力』筑摩書房('17.3.2)

 はるか昔、鈴木訳の本書を読んで、そうだそうだとこころの中で相づちをうっていたことを懐かしく思い出す。旧訳もわかりやすかったが、新訳の本書もわかりやすい。どちらがうまく訳されているかは、比較していないのでわからない。しかし、この名著が文庫本で出版された意義は大きい。旧訳同様、約半世紀以上は読み継がれていくのだろう。
 パーソンズとラザースフェルド、およびその後継者たち、とくに後者に対する批判は手厳しいが、 私的問題と公的問題の相互翻訳の重要性を指摘しながらのそれは、現代の社会学にもじゅうぶんにあいつうじるものであり、新訳出版の意義はやはり大きい。
 ただ、ミルズの「知的職人論」は、「けっきょく社会学者による研究成果は個々人の才能、問題意識、努力による」という身も蓋もないことを意味するわけで、それが、本書が世界の社会学に与えた影響力の大きさにすれば少なくとも日本では不思議と振り返られることのない一因なのかもしれない。
(本書をご恵贈いただきありがとうございました。)

目次
第1章 約束
第2章 グランド・セオリー
第3章 抽象化された経験主義
第4章 実用性の諸タイプ
第5章 官僚制のエートス
第6章 科学哲学
第7章 人間の多様性
第8章 歴史の利用
第9章 理性と自由について
第10章 政治について
付録 知的職人論

社会学を学ぶ意味とは何だろうか?たとえば、社会の変化が私たちの日常にどう影響するか、あるいは、日々遭遇する困難を根本的に解決するにはどうすればよいか。それを適切に考えるためには、日常を社会や歴史と関連づけて捉える知性が欠かせない。社会学的想像力と呼ばれるこの知性こそ、社会学の最大の効用である。だが、当の社会学者も理論や調査に夢中になるあまり、そのことを忘れつつある―こうした現状を鋭く批判し、社会学的想像力を鍛える学としての意義を高らかに謳いあげる重要古典。今日でも全米の大学で最も多く用いられている社会学文献である本書を、みずみずしい新訳で送る。
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近代世界システムと新自由主義グローバリズム

2017年01月29日 21時10分26秒 | 
三宅芳夫・菊池恵介編著,2014,『近代世界システムと新自由主義グローバリズム──資本主義は持続可能か?』作品社('17.1.29)

 ライト・ミルズ、アミン、フランク、ウォーラーステイン、ブローデル、ハーヴェイ等々の思想を基底に、書名のとおり、たいへん大きなテーマに果敢に挑戦した大作。
 新自由主義グローバリズムから保護主義的ナショナリズムへの反動が起きている現在、グローバル経済の歴史と現状をあらためて検証した意義は大きい。
 本書を読んで、ともすれば忘れがちな重要な論点を思い起こすことができた。構成上のバランスもよい。

目次
序論 「新自由主義グローバリズム」による世界再編を、「近代世界システム」の歴史的視座から考察するために―資本主義の危機とポスト資本主義社会への可能性
第1部 共同討議 “資本主義の終焉”は近づいているのか?―近代世界システムと資本主義の長期サイクル
討議報告 「近代世界システム」の展開と現在
共同討議 資本主義の長期サイクルと分岐点
第2部 新自由主義グローバリズムによる世界/地域再編
欧米
東アジア
ジェンダー/セクシャリティ
批判とオルタナティブ
第3部 共同討議 “ポスト資本主義社会”をいかに構想するか?
討議報告 新自由主義グローバリズムによる世界空間の再編
共同討議 “ポスト資本主義社会”に向けて
第4部 「近代世界システム」/「新自由主義グローバリズム」考察のために
近代世界システムの基礎構造
従属の構造―植民地・女性・生態系
北側の「自由・民主主義」の権力構造
新自由主義グローバリズムによる南側の再編
近代世界システムと反システム運動
オルタナティブな世界のために

近代世界システムの展開と資本主義の長期サイクルという歴史的視野と構造分析から、グローバル資本主義の現在と未来を問う。話題の論者と新進気鋭25人による共同研究。
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中流崩壊 日本のサラリーマンが下層化していく

2017年01月29日 21時08分49秒 | 
榊原英資,2015,『中流崩壊 日本のサラリーマンが下層化していく』詩想社('17.1.29)

 日本経済の現状と未来をざっくり把握するには悪くない本なんだが、新興出版社ゆえか、編集が甘い。誤字・脱字だらけ。酷すぎるだろこれ。

目次
はじめに 二極分解し、貧困化していくサラリーマン層
第1章  アベノミクスの展開と終焉
第2章  世界経済停滞の流れを読む
第3章  「近代資本主義の終焉」という大転換
第4章  一億総中流の「奇跡」はいかに実現したか
第5章  2020年東京オリンピックを迎える日
第6章  インターネット社会が変える私たちの生活
第7章  サラリーマンたちが下層化していく
第8章  「ゼロ成長」時代のこれからの日本

2020年、アベノミクス後の日本を襲う衝撃!グローバリゼーションの進展、
そして近代資本主義の限界に世界経済が直面するなか、日本社会もいま、激変しようとしている。
子どもの貧困、若者の失業、非正規社員の急増、「一億総中流」から脱落、貧困化していく人々……
ごく普通に豊かさを享受していた日本の「サラリーマン層」が、二極分解し、その大部分が下層化していく2020年の日本社会の実像を読み解く。
また、格差拡大社会に対する、「政府による所得の再配分」の必要性を訴え、
「ゼロ成長」社会というこれからの日本が進むべき道を指し示す。
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社会保障亡国論

2017年01月07日 16時19分03秒 | 
鈴木亘,2012,『社会保障亡国論』講談社('17.1.7)

 消費増税による社会保障強化は虚構であること、相続税率を強化すべきであることなど、同感できる部分もあるが、それ以上に強烈な違和感をもつところが大きい。
 「偽弱者」も含めて社会保障の大判振る舞いを続けると、国と自治体の財政破綻は不可避なので、稼働不能な者のみに選別的な現物給付を行うべきだ。これが、鈴木氏がもっとも言いたいことなのだろう。
 鈴木氏は、自ら本書で引用している、ミルトン・フリードマンのネオリベラリズム思想の枠内からしか問題解決の方途を示さない。「最低賃金の大幅引き上げは、ワーキングプアを失業者にし、就業困難層をさらに就業不能にする」(p.252)とか、稼働能力がある生活保護受給者は「貧困の罠」に陥るから生活保護制度の枠外で就労を条件とした生活支援をすべきとか、国の財政シミュレーションには周到なデータによる裏付けを行っておきながら、あまりに根拠なき暴論を展開するのは、鈴木氏の知的良心の欠如に由来すると言わざるをえない。
 「国土強靱化」を旗印にした公共事業の展開、国家の安全保障に必要なレベルを遙かに超えた防衛費予算、ゼネコンへのキックバックを前提としたODAや円借款、法人税減税と過剰な控除優遇、どんぶり勘定の特別会計制度等々を見直せば、社会保障水準を引き揚げつつ国と自治体の財政健全化をはかることはじゅうぶんに可能である。
 昨日発表された米国雇用統計では、勤労者の賃金上昇が好感された。財政学者であれば、アベ流のデマゴーグを吐くことをやめ、内需依存度が高い成熟社会で社会保障財源を確保し財政悪化を防ぐ方途を誠実に熟考すべきだ。


目次
第一章 財政から語る社会保障
第二章 社会保障の暗黙の債務は一五〇〇兆円
第三章 社会保障と税の一体改革、社会保障制度改革国民会議
第四章 年金支給開始年齢は七〇歳以上に
第五章 高齢化社会の安定財源は消費税ではなく相続税
第六章 公費投入縮減から進める給付効率化
第七章 消費増税不要の待機児童対策
第八章 「貧困の罠」を防ぐ生活保護改革
第九章 改革のインフラ整備と仕組み作り

消費税が増税されると本当に社会保障は充実するのか。
現在わが国の社会保障給付費は、GDPの約4分の1にあたる110兆円を超える規模に達しており、年間3~4兆円というペースで急増している。消費税率の引き上げの効果は3~4年で消失する計算となる。
年金・医療・介護・子育て支援など、「少子高齢化」日本に暮らす人々の不安は拡がる一方だ。社会保障財源の現状を具体的に改善する議論と給付の抑制・効率化策も提言する。
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ヒーローを待っていても世界は変わらない

2017年01月07日 16時17分30秒 | 
湯浅誠,2012,『ヒーローを待っていても世界は変わらない』朝日新聞出版('17.1.7)

 湯浅氏ならではの柔らかな筆致でしたためられた、ポピュリズム(大衆迎合主義)、政治的無関心を含めた衆愚政治批判として読んだが、あながちまちがいではないだろう。
 巻末に再録された内閣府参与辞職の経緯を説明した文書を読み、この国のガンが、蛸壺化した部局の利権争い以外に余念のない官僚たちにあることを再確認した。そして、官僚が自らの利権以外で意を汲むのは民意ではなくアメリカ政府の意向であることも。この構造を叩き潰さないことにはこの国はどうにもならない。

目次
第1章 民主主義とヒーロー待望論
第2章 「橋下現象」の読み方
第3章 私たちができること、やるべきこと

「反貧困」を旗印に、格差社会に異議を申し立てた「年越し派遣村」元村長・湯浅誠の最新刊。2012年3月までの約2年間、内閣府参与として政権に入った著者が、「橋下現象」や「決められない政治」「強いリーダーシップ待望論」について徹底的に考え抜いた民主主義論。議会政治と政党政治をあえて擁護する立場から、「おまかせ民主主義」に警鐘を鳴らし、真の民主主義のあり方を探る画期的論考!
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貧困世代

2017年01月02日 15時01分36秒 | 
藤田孝典,2016,『貧困世代──社会の監獄に閉じ込められた若者たち』講談社('17.1.2)

類書が巷にあふれていてそれらをすべてフォローするのもたいへんだが、とりあえず読んでおくしかない。
 筆者のいう「貧困世代」のはしりは、1990年代に山田昌弘氏が命名した「パラサイトシングル」世代だろう。貧困問題が、高齢者世帯、片親世帯だけのものではなく、広く若年層全体にまで拡大していることは、しっかりと把握しておかねばならないだろう。

目次
はじめに
第1章 社会から傷つけられている若者=弱者(じゃくしゃ)
第2章 大人が貧困をわからない悲劇
第3章 学べない悲劇――ブラックバイトと奨学金問題
第4章 住めない悲劇――貧困世代の抱える住宅問題
第5章 社会構造を変えなければ、貧困世代は決して救われない
おわりに

学生はブラックバイトでこき使われて学ぶ時間がない。社会人は非正規雇用や奨学金返還に苦しみ、実家を出られない。栄養失調、脱法ハウス、生活保護…彼らは追いつめられている。
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廃用身

2017年01月02日 15時00分03秒 | 
久坂部羊,2003,『廃用身』幻冬舎('17.1.2)

 読み進めるうち、長らく本棚の片隅に眠らせておいたのを後悔した。
 読者が本作をノンフィクションと錯覚してもらうための仕掛けが周到だが、そうでなくとも現実に起こったこと、これから起こりうることをレポートした作品であるかのように感じるだろう。過酷な高齢者介護の現実と高齢者虐待の深刻化。今後、この介護地獄は、さらに深化していくことはまちがいないからだ。
 該博な医学的知識に裏打ちされた医療描写だけでなく、主人公をはじめとした登場人物の心理描写が巧みで、一気に読ませる快作だ。


「廃用身」とは、脳梗塞などの麻痺で動かなくなり、しかも回復の見込みのない手足のことをいう医学用語である。医師・漆原糾は、神戸で老人医療にあたっていた。心身ともに不自由な生活を送る老人たちと日々、接する彼は、“より良い介護とは何か”をいつも思い悩みながら、やがて画期的な療法「Aケア」を思いつく。漆原が医学的な効果を信じて老人患者に勧めるそれは、動かなくなった廃用身を切断(Amputation)するものだった。患者たちの同意を得て、つぎつぎに実践する漆原。が、やがてそれをマスコミがかぎつけ、当然、残酷でスキャンダラスな「老人虐待の大事件」と報道する。はたして漆原は悪魔なのか?それとも医療と老人と介護者に福音をもたらす奇跡の使者なのか?人間の誠実と残酷、理性と醜悪、情熱と逸脱を、迫真のリアリティで描き切った超問題作。
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反福祉論

2016年12月29日 13時19分59秒 | 
金菱清・大澤史伸,2014,『反福祉論──新時代のセーフティーネットを求めて』筑摩書房('16.12.29)

 紹介されている事例はとても興味深いのだが、それらを「反福祉」なる論理のなかに乱暴に位置づける神経がわからない。
 人々の生き生きとした自助、共助の数少ない実践が、普遍的なセーフティネットになるわけでもなく、こうした(自分の社会学界でのステイタスがあがればいいという)野心的試みは、有害無益でしかない。
 著者のひとりの金菱清という男、当初は注目して作品を読んでいたのだが、本書を読んで、あらためて、震災に便乗して私益を貪る、卑しい学界ごろつきでしかないことを疑っている。


目次
はじめに―いまなぜ「反福祉論」か
1 現代の「忘れられた日本人」―制度外の人びと自身による生活保障
「飛行場」に住まう在日コリアン―不法占拠者による実践
福祉版「シンドラーのリスト」―生活困窮者の最後の拠り所
大津波における「ノアの箱舟」―災害被災者の伝統的行動規範
ドヤ街のスピリチュアル・ケア―ホームレスはなぜ教会へ?
2 福祉制度に替わるセーフティーネット
ホームレスとしてのイエス・キリスト―制度からの解放宣言
福祉に挑むドン・キホーテ―ある研究者の知的遍歴
生きられた法―法外世界の豊饒な議論へ

福祉は財政的に限界に達している。一方、さらなる拡充を望む声も根強い。ではどうすればよいのだろうか。不法占拠者や生活困窮者、災害被災者、ホームレスなど、福祉の制度から漏れてきた人びとが、公助に頼らず自助・共助によって展開する生き生きとした暮らしを検証。制度に代わるセーフティーネットの仕掛けを発達させてきた彼らの生き方に学び、「反福祉」の考え方を提唱する。制度にがんじがらめになっている福祉の現状に警鐘を鳴らし、誰もが生きやすい社会を構想する。
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誕生日を知らない女の子 虐待

2016年12月26日 22時56分43秒 | 
黒川祥子,2015,『誕生日を知らない女の子 虐待──その後の子どもたち』集英社('16.12.26)

 ファミリーホームで暮らす被虐待経験児の言動をつぶさに観察し、やわらかくしかし鋭い筆致で描き出したルポルタージュの快作。
 筆者は、被虐待経験児に過剰に同情しないし、虐待の加害者の親にもどこか押し殺した怒りしか向けない。このバランスのとり方が絶妙だ。


目次
第1章 美由―壁になっていた女の子
第2章 雅人―カーテンのお部屋
第3章 拓海―「大人になるって、つらいことだろう」
第4章 明日香―「奴隷でもいいから、帰りたい」
第5章 沙織―「無条件に愛せますか」

ファミリーホーム―虐待を受け保護された子どもたちを、里子として家庭に引き取り、生活を生にする場所。子どもたちは、身体や心に残る虐待の後遺症に苦しみながらも、24時間寄り添ってくれる里親や同じ境遇の子どもと暮らし、笑顔を取り戻していく「育ち直し」の時を生きていた。文庫化に際し、三年後の子どもたちの「今」を追加取材し、大幅加筆。第11回開高健ノンフィクション賞受賞作。
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生活保護

2016年12月25日 13時25分13秒 | 
今野晴貴,2013,『生活保護──知られざる恐怖の現場』筑摩書房('16.12.25)

 生活保護が、社会権として正しく認識されず、稼得能力に欠ける貧困者へのパターナリスティックな温情、施しとしていまだ捉えられているこの国で、高齢者以外の、一見して病人とわからぬ生活困窮者には、そうした温情はかけてはならぬといった恣意的な判断がはたらく。違法な、行政による生活困窮者の生活保護からの排除は、漏給問題は取り上げず、大衆迎合的な不正受給バッシングに走るマスメディア、そしてそのプロパガンダにまんまとのっかり、弱者叩きにカタルシスを得る社畜およびワーキングプア、この構図のなかで進行している事態であることを、再認識しなければいけない。


目次
第1章 生活保護の現場で何が起きているか
第2章 命を奪う生活保護行政
第3章 保護開始後の違法行政のパターン
第4章 違法行政が生保費を増大させる
第5章 生活保護問題の構造と対策
終章 法改正でどうなるのか

不正受給問題を巡り、生活保護への「バッシング」が高まっている。バッシングは政治問題にまで発展し、いまや取り締まりの強化や支給額の削減へと議論は進んでいる。しかし、私たちは生活保護の実態を知っているのだろうか?自殺・餓死・孤立死―。そこには追いつめられ、専厳を踏みにじられ、果ては命さえも奪われる現実がある。本書は、受給者をとりまく現実が、日本社会になにをもたらすのかを解き明かす。「最後のセーフティネット」の抱える本当の問題をあぶりだす、生活保護問題の決定版!
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資本主義から市民主義へ

2016年12月21日 21時31分30秒 | 
岩井克人・三浦雅士,2014,『資本主義から市民主義へ』筑摩書房('16.12.21)

 岩井克人の「資本論」に接したのは学生時代以来かもしれないが、あのときに受けた知的衝撃を思い起こしてしまった。廣松渉の「物象化論」ともども、あれは実に刺激的だった。
 本書は、三浦雅士が岩井克人に問いかけるかたちでとりまとめられた対談本だが、岩井の言語・法・貨幣、そして、法人、信任、市民社会についての思索が自在に展開されている。
 本書を読んで、信任なき資本主義は自壊するほかないこと、市民社会なき資本主義は存続しえず、市民社会の倫理を資本の論理に組み込みながらしか資本主義は永続できないことを確信した。カントの「定言命法」を再評価し、市民社会論に組み込んでいくことが、けっして時代遅れのものでないことにも思い至った。
 言語・法・貨幣が人を人としてあらしめた起源であり、これらのどれか一つの暴走が、精神の崩壊、全体主義、そして恐慌の要因となる。このことを理解できるだけでも、本書を読む価値がある。

目次
第1章 貨幣論
第2章 資本主義論
第3章 法人論
第4章 信任論
第5章 市民社会論
第6章 人間論
補章 倫理論

貨幣は貨幣だから貨幣なのだ。貨幣を根拠づけるものはただ貨幣だけ。言語・法・貨幣の、社会と人間を貫く自己循環論法こそが、恐慌も生めば、自由をももたらす。それを踏まえて、われわれはどのような市民社会を構想すべきか。資本主義を超えて、来たるべき市民主義とはいかなるものか。貨幣論に始まり、資本主義論、法人論、信任論、市民社会論、人間論、そして倫理論まで、経済学や社会哲学を縦横に論じつつわかりやすく解説。次代の社会像を示す!
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