ペーパードリーム

夢見る頃はとうに過ぎ去り、幸せの記憶だけが掌に残る。
見果てぬ夢を追ってどこまで彷徨えるだろう。

1300年後のことば・おどり・うた

2012-02-27 11:12:10 | 美を巡る
120128.sat.

「うた こころ ものがたり―日本の源流と東アジアの風」
       於:品川インターシティホール



古事記編纂1300年を記念して開かれた
このイベントの主催は奈良県、演出・進行役は松岡正剛氏。
ゲストに歌人の岡野弘彦先生。
舞踊家の田中泯氏。
作・編曲家の井上鑑氏。
このなんとも魅力的な(個人的にも大好きな)面々が繰り広げる
万葉以降の日本の言葉と歌謡とアジアの国々との交流についての世界観。
そして奈良県知事の荒井正吾氏の柔軟な思考も、
このイベントになくてはならないものだったと思う。

3.11以降、松岡氏はこれまでにも増して「母国」を意識するようになったという。
大陸より渡ってきた言葉を古代日本語として成立させて
日本書紀、古事紀、風土記、万葉集を作り上げた日本人。
しかしながら、それら「ふること(古事)」を失ってしまった私たちが
古来、日本人が内包する価値観を再確認し、
新世紀へと継承していくためにどうしていけばよいのか。
記紀万葉こそ、歴史も物語も風景も芸術も生も死も含まれた日本哲学である。
未曾有の自然災害に見舞われた現代こそ、それを実感し、
声に出して神と対峙する時代ではないか、と。

87歳の岡野氏が舞台に登場すると、会場全体にがぜん緊張感が増す。
ベージュの長着に青い半襟、茶の羽織で、とってもダンディないでたち。
ふることはどんどん忘れ去られていくが、
古来、言葉とは心であり、魂であると語る歌人は
3.11の災害の後このような歌を詠んでいる。(歌集『美しく愛しき日本』より)

    おもかげの磐余の池の浮寝鳥人恋ふるまま死にてゆかんか
    したたりて青海原につらなれるこの列島を守りたまへな
    白鳥はふたたび空にきたるべし。祈りの心つつましき民
    身に迫る津波つぶさに告ぐる声。乱れざるままをとめ帰らず
    この親に過ぎたる子よとなげく父。水漬く屍は月経てかへる

ふることはどんどん忘れ去られていく。
しかし、母国の思い出は喪失によって得られる、と松岡氏。

田中泯氏の踊りは、ただただ圧巻。
映画「たそがれ清兵衛」で見せてくれた
しなやかで鬼気迫るあの動きが、
より流麗に力強く目の前で繰り広げられる幸せ。

<あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る>(額田王)
<言霊の八十のちまたに夕占(ゆふけ)問ふ占正に告(の)る妹は相依らむ>(柿本人麻呂)
松岡氏の朗詠に、泯氏が踊る。
67歳であの色気。
着流し姿の流れるようなシルエット、手の先、爪先から発せられる緊張感に
メチャクチャしびれました。

<沫雪のほどろほどろにふりしけば平城(なら)の京し念(おも)ほゆるかも>(大伴旅人)
当時、大宰府にいた旅人が詠んだ歌だが、
沫雪(あはゆき)に望郷の念を重ね、都の政争を案じている。
松岡氏が続ける。
「これは奈良の都に雪が降っているのではないのです。
 あはゆきに奈良の都がふっているのです」
うーん。さらりと、なんということを言うのかしら。
すとんと納得してしまうではないの。

激しい踊りの後も息を乱すことのない泯氏。
松岡氏との対談でも、後半の井上鑑氏を交えての話でも、
舞踊に対する揺るぎない言葉の数々に再びぽーっとする私。
「僕は呻きたい」
「言葉を聞いて、体に入れていく。踊りながら編集している」
「体を短冊にして言葉を書くようにして踊る」
「赤ん坊が無意識に手足を動かしているのは、ほんの一瞬の奇跡だ。
 そして、それこそが踊りの原点」
「自分の踊りは音楽に合ってないと言われたが、リズムに合わせるのはスポーツ」
「自意識以前の踊り・・・AKB、 反吐が出る」
「踊りは、まさに身体をうつせみにすること」
「裸に近い形で踊り始めたが(=自分の踊りの衣装に裸体を選んだ)、
 最近は今日来ているような着物を提供してくれるところがあって。
(京都の誉田屋源兵衛さん~私、ここのお召も帯も持ってる!
 ・・・と勝手に嬉しくなってしまいました)
 それで、着物をカタシロとして着始めた」

当然、師でもある故・土方巽に対する愛はいまでも半端ない感じ。
近頃、泯氏の近著『僕はずっとダンサーだった』(工作舎)を読みつつ
そんな彼の言葉を反芻する。


後半、井上鑑氏が客席後方から、鈴音を奏でながら登場。
舞台に上がるとキーボードに向かい、演奏しはじめたのは舒明天皇の「国見歌」。
休憩後のざわついた会場が
幻想的な音色とホーミーと馬頭琴が交じり合う異空間に変わった。

最後に、子供たちが歌う映像とともに流れた「ナラジアの歌」は
作詞が松岡氏、作曲が井上氏の、このイベントのシリーズのテーマソング。

 ならじあ あじあ たまゆら ならあじあ
 ふみきたる ひとまじる
 ならじあ あじあ まほろば ならあじあ
 うみをこえ ひびきわたる うた

心地よい語感とメロディが、いつしか頭の中でぐるぐるぐる・・。
長丁場で、まさか4時間以上パイプ椅子に座っていることになるとは思わなかったが
あっという間といえば、いつの間にか終わっていた感じ。
同行した旧知のデザイナーU氏とお茶を飲んで感想を語り合い、
ほとぼりを冷まして、帰宅。

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2 コメント

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Unknown (アルキメデス)
2012-02-27 18:06:00
田中泯といえば、もうすぐ俳人山頭火に影響を与えた「漂泊俳人井月」の映画がポレポレ座で3月に上映されるので、ツアーを組んで、観て呑もうか!

泯さま~♪ (kikkoro)
2012-02-27 21:58:38
アルキメデスさま

もちろんチェック済みですとも!
3.26~4.06ですよね。
絶対観にいきます!

井月の墓参りのために伊那谷へやってきた山頭火を
看病したのが、いまは亡き母方の祖父ですから、
ますます見ないわけにはいきません~~。

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