『マイ・ビュ－ティフル・ランドレット』
（My Beautiful Lanudrette スティ－ヴン・フリアーズ監督 1985 イギリス）
2006ドイツW杯開催中は、サッカー関連の映画がテレビでたくさん放送されていましたよね。
ある夜、『ベッカムに恋して』を観ていて、ふと思ったんです、「おや、これは『マイ・ビューティフル・ランドレット』ではないか」と・・・。
<あらすじ>
パキスタン移民２世の若者オマール（ゴードン・ウォ－ネック）は、大学を休学し、元新聞記者の父親とふたり、南ロンドンで貧しい暮らしをしている。企業家の叔父のもとでアルバイトを始めた彼は、叔父が所有するコインランドリーの立て直しをまかされることに。ある晩、白人不良グループにからまれたオマールは、その中に幼なじみのジョニー（ダニエル・デイ・ルイス）を見つける・・・
1980年代に作られたメジャーなゲイ・ムービーの中で、特に評価の高いいくつかの作品がありました。『アナザー・カントリー』（1983）、『モーリス』（1987）、『トーチソング・トリロジー』（1988）、そしてこの『マイ・ビューティフル・ランドレット』です。
で、15、6年ぶりに、観直してみました。『ベッカムに恋して』との近似性については、のちほど書くとして。
キャストがとっても魅力的です。
イギリス人女性を愛人にもち、世故にたけたビジネスマンであるオマールの叔父。対照的に、カネよりも教育が大事だと信じ、おちぶれるオマールの父。そして、移民と白人とが対立する閉息的な空気のなかにあって、ひときわ輝くふたりの青年の恋。
それらが、独特の浮遊感をもって・・・そう、ちょうどランドリーの泡のように、ふわふわした不思議なリズムで語られていきます。
５歳の頃から同じ地区で幼なじみとして育ったオマールとジョニーは、おそらく少年時代にすでに同性愛の関係にあったのでしょう。心だけでなく肉体的にも深くむすばれていた。しかし、ジョニーのある「裏切り」によって、ふたりは離ればなれになってしまった。数年ぶりに再会して、彼らが何の葛藤も違和感もなく愛情をとりもどすことができたのは、そんな背景があった。
でも、そういう諸々の事情が、会話の中でなんとなくにおわせる程度に抑制されているのが、非常にいいです。脚本が多くの賞を受賞した（アカデミー脚本賞候補にも）のも、よくわかる。
で、『ベッカムに恋して』とどこがどう似ているかというとね。
『ベッカムに恋して』では、主役のインド系イギリス人の女の子（パーミンダ・ナーグラ）が、チームメイトの白人の少女（キーラ・ナイトレイ）とのレズビアン関係をうたがわれる、という話が出てきます。このあたり、『ランドレット』の影響を受けているとしか思えません。ひょっとしたら監督は、本当はそれを描きたかったんじゃないかしらん？
さらに、どちらの作品も、アジア移民とイギリス人との関係がテーマであること。もちろん、『ランドレット』はパキスタン系、『ベッカムに恋して』はインド系なので、いっしょくたにすると怒られるかもしれませんが、同じアジア系の有色人種と白人、という枠組みでとらえると、同じ構造と言っていいと思うんです。
いま、このふたつの作品をならべてみると、イギリス社会の移民への偏見が、20年たっても根本的にはほとんど変わっていないということに、驚かずにはいられません。
映画を政治的なコンテクストで論じるべきではないとわたしは思いますが、いま『マイ・ビュ－ティフル・ランドレット』を観直してみると、公開当時には見えなかったいろいろな要素が見えてきます。
それは、サッチャー政権下の格差社会の問題であったり、白人をも含めた失業者問題であったり、移民が英国にいだく複雑な愛憎であったり・・・それは、オマールとジョニーの関係にも、微妙な影をおとさずにはいないのです。
人と人が、偏見という強固な壁をあいだにして向き合う時、「愛があれば壁はのりこえられるさ」と楽観的に言うのは、いつも差別してきた側の人間です。差別を受けてきた側の人間にとっては、コトはそんなに簡単ではない。
それでも、決してそこから逃げないこと。カラダをはって、愛を証明すること。きっと、できることは、それしかない。『マイ・ビュ－ティフル・ランドレット』が教えてくれるのは、そういうことじゃないかなあ、と、思います。
映画の出来としては、やや不満なところもあるのですが、調べてみると、もともとテレビ映画として作られたものだそう。それなら、場面転換の不自然さも納得がいくってもの。
ダニエル・デイ・ルイスのチャーミングな笑顔、すばらしすぎます。ジョニーがこっそりオマールのうなじをペロッと舐めるショット、すごくキュートでセクシー。これを観て真似したゲイカップルも多いのでは！？（わたしならやるぞ）
（My Beautiful Lanudrette スティ－ヴン・フリアーズ監督 1985 イギリス）
2006ドイツW杯開催中は、サッカー関連の映画がテレビでたくさん放送されていましたよね。
ある夜、『ベッカムに恋して』を観ていて、ふと思ったんです、「おや、これは『マイ・ビューティフル・ランドレット』ではないか」と・・・。
<あらすじ>
パキスタン移民２世の若者オマール（ゴードン・ウォ－ネック）は、大学を休学し、元新聞記者の父親とふたり、南ロンドンで貧しい暮らしをしている。企業家の叔父のもとでアルバイトを始めた彼は、叔父が所有するコインランドリーの立て直しをまかされることに。ある晩、白人不良グループにからまれたオマールは、その中に幼なじみのジョニー（ダニエル・デイ・ルイス）を見つける・・・
1980年代に作られたメジャーなゲイ・ムービーの中で、特に評価の高いいくつかの作品がありました。『アナザー・カントリー』（1983）、『モーリス』（1987）、『トーチソング・トリロジー』（1988）、そしてこの『マイ・ビューティフル・ランドレット』です。
で、15、6年ぶりに、観直してみました。『ベッカムに恋して』との近似性については、のちほど書くとして。
キャストがとっても魅力的です。
イギリス人女性を愛人にもち、世故にたけたビジネスマンであるオマールの叔父。対照的に、カネよりも教育が大事だと信じ、おちぶれるオマールの父。そして、移民と白人とが対立する閉息的な空気のなかにあって、ひときわ輝くふたりの青年の恋。
それらが、独特の浮遊感をもって・・・そう、ちょうどランドリーの泡のように、ふわふわした不思議なリズムで語られていきます。
５歳の頃から同じ地区で幼なじみとして育ったオマールとジョニーは、おそらく少年時代にすでに同性愛の関係にあったのでしょう。心だけでなく肉体的にも深くむすばれていた。しかし、ジョニーのある「裏切り」によって、ふたりは離ればなれになってしまった。数年ぶりに再会して、彼らが何の葛藤も違和感もなく愛情をとりもどすことができたのは、そんな背景があった。
でも、そういう諸々の事情が、会話の中でなんとなくにおわせる程度に抑制されているのが、非常にいいです。脚本が多くの賞を受賞した（アカデミー脚本賞候補にも）のも、よくわかる。
で、『ベッカムに恋して』とどこがどう似ているかというとね。
『ベッカムに恋して』では、主役のインド系イギリス人の女の子（パーミンダ・ナーグラ）が、チームメイトの白人の少女（キーラ・ナイトレイ）とのレズビアン関係をうたがわれる、という話が出てきます。このあたり、『ランドレット』の影響を受けているとしか思えません。ひょっとしたら監督は、本当はそれを描きたかったんじゃないかしらん？
さらに、どちらの作品も、アジア移民とイギリス人との関係がテーマであること。もちろん、『ランドレット』はパキスタン系、『ベッカムに恋して』はインド系なので、いっしょくたにすると怒られるかもしれませんが、同じアジア系の有色人種と白人、という枠組みでとらえると、同じ構造と言っていいと思うんです。
いま、このふたつの作品をならべてみると、イギリス社会の移民への偏見が、20年たっても根本的にはほとんど変わっていないということに、驚かずにはいられません。
映画を政治的なコンテクストで論じるべきではないとわたしは思いますが、いま『マイ・ビュ－ティフル・ランドレット』を観直してみると、公開当時には見えなかったいろいろな要素が見えてきます。
それは、サッチャー政権下の格差社会の問題であったり、白人をも含めた失業者問題であったり、移民が英国にいだく複雑な愛憎であったり・・・それは、オマールとジョニーの関係にも、微妙な影をおとさずにはいないのです。
人と人が、偏見という強固な壁をあいだにして向き合う時、「愛があれば壁はのりこえられるさ」と楽観的に言うのは、いつも差別してきた側の人間です。差別を受けてきた側の人間にとっては、コトはそんなに簡単ではない。
それでも、決してそこから逃げないこと。カラダをはって、愛を証明すること。きっと、できることは、それしかない。『マイ・ビュ－ティフル・ランドレット』が教えてくれるのは、そういうことじゃないかなあ、と、思います。
映画の出来としては、やや不満なところもあるのですが、調べてみると、もともとテレビ映画として作られたものだそう。それなら、場面転換の不自然さも納得がいくってもの。
ダニエル・デイ・ルイスのチャーミングな笑顔、すばらしすぎます。ジョニーがこっそりオマールのうなじをペロッと舐めるショット、すごくキュートでセクシー。これを観て真似したゲイカップルも多いのでは！？（わたしならやるぞ）
