暴論 雑説 独言 vol.2

疾く破りてむ。
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「はだしのゲン」の稚拙さについて

2016-11-20 08:00:55 | 国家論
ほぼ同時代、同地域を舞台にしている「この世界の片隅に」が映画になった今ならもう大丈夫だろう。
今まで言いたくても言えなかったことを言おう。

「はだしのゲン」は稚拙で下らないマンガである。
あるいは稚拙な作品であるにもかかわらず、「名作」であることにされてしまった不幸なマンガである。

かつて、広島の友人は「あれのせいで広島のイメージがどれだけ悪くなったと思ってるんだ!」と怒っていた。
確かにあれに出てくる広島人の9割はクズであるので、愛郷心のある彼が怒るのも仕方ない。
(「実際の広島人がどうであったか」は本題ではない。念のため)
そして、まさにこの「広島人の9割がクズ」というところが「はだしのゲン」を稚拙で下らない作品にしている。

一割の「クズでない広島人」とは、むろん中岡ゲンに連なる家族や友人の一党である。
しかし、現実に原爆が踏みにじったのは「善良で清らかな中岡ゲンたち」ではない。
そして、作中で「善良で清らかな中岡ゲンたち」を踏みにじるのは原爆だけではない。
ここにこの作品の失敗がある。

中岡ゲンの一党と、あとは朴さんくらいしか「よい人間」がいないなどという幼稚なご都合主義は、「原爆という出来事」を矮小化した。
あの戦争のさなかにも広島では人々の小さな日常が続いていただろうし、一面的な善人も悪人も当然ながらほとんどいなかったはずだ。
反戦的な隣人を虐める意地の悪い中年女が自分の子供に対しては優しい母親であることもあったろう。
理想主義の反戦思想家が家族にとっては悪魔のような家長であることもあったろう。
そういうモザイク状に入り組んだ集合が人間の生活であり、それを一切合切まとめて焼き尽くし、踏みにじったのが原爆であり、悲劇性はその「まとめて焼いた」ところから離れて語ることができない。
「よき人が、よい生き方をしているのも関わらず降りかかる悲劇」は原爆の悲劇ではない。

さらに、「はだしのゲン」を通読した人間の胸に記銘されるのは必ずしも「原爆の惨禍」ではなく、町内会長や林のババアや吉田のガキやヤクザたちの醜悪さである。
これらの人物は、「善良で清らかな中岡ゲンたち」を原爆とともに踏みにじるものとして登場する。
彼らがゲンたちを踏みにじれば踏みにじるほど、「原爆」は「たくさんある忌まわしいものの一つ」になってしまう。
これは物語の失敗だ。

極端に言うとあの話に「反戦と平和を語る、モラリストの、絵画という美しい世界に生きる中岡ゲン」は不要だ。
ゲンは列車内で横暴な振る舞いをする朝鮮人を半殺しにすべきだったし、ムスビの仇を討つために隆太と一緒にヤクザを殺すべきだった。
特に、自分だけ絵画という清らかな世界を見つけ、広島から出ていくなんて結末は稚拙きわまる。
ゲンが悪に手を染めないできれいな場所にいる限り、原爆はいつまでも「よき人の悲劇」のままになってしまう。
「皆の前で突然興奮して稚拙な反戦反国家論を語る、モラリストで絵画という清らかな世界に生きる中岡ゲン」は奇妙にあの「9割がクズ」の広島の社会の中から浮き上がっている。
浮き上がっている限り、原爆は「9割がクズの広島社会の中のマイノリティであった中岡ゲンの一党」の悲劇でしかなくなる。

「はだしのゲン」から「原爆の悲劇」を読み取ろうとするならば、原爆は「広島のふつうの人々」から奇妙に遊離した「善良で清らかな中岡ゲンたち」の悲劇でしかなくなってしまう。
そして「9割がクズの社会の中で躍動する中岡ゲンという少年の冒険譚」として読もうとすると、今度は「原爆」というテーマの残骸が邪魔をする。

確かに、テーマの重大性/批評性ということを言うなら、「はだしのゲン」ほどそれが色濃く表れた作品はない。
中沢啓治が反核というテーマを作品に込めたことは間違いなかろう。
しかし、「はだしのゲン」は描写の稚拙さによって「原爆の非人道性」というテーマを描くことに失敗している。
ゆえに「はだしのゲン」は稚拙であり、下らないマンガである。
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