短三和音な日々

割と暇なゾイダー、滝上の不定期な日記。リンクフリーです

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インフォメーション

2109-09-10 20:05:08 | Weblog
※イラスト製作:黒燈様

「皆様こんにちは、あるいはお久しぶりです。はじめましての方は、はじめまして。当ブログ『短三和音な日々』管理人代行の、イリアスと申します」

「このブログは、管理人『滝上』によって運営されています。もっとも、当の本人はあまり投稿記事内には出て参りませんので、私イリアスが管理人代行を務めさせて頂いております」

「主に、タカラトミーの玩具並びにコトブキヤのプラスチックモデル『ZOIDS』シリーズをメインに扱うブログとなります。管理人による創作ショートストーリーや、改造ゾイドなどがメインとなりますが、たまに全く関係の無い話題が混じる場合があります。ご了承くださいませ」

「なお、現在のメインカテゴリ『エウロペの片隅から』ですが、私と、同じく管理人のオリジナルキャラクター『ティオ・ルタナ・ニーヴ』による対談……のような何かとなっております」

「コメント・トラックバック等に関しては制限しておりませんが、常識的な範囲でのご利用をお願い申し上げます。記事に関係なかったり、あまりにも長文であったり、あるいは『名無し』『通りすがり』といったお名前でのコメント等は、予告なく削除する場合がございます。同様に、一部のいかがわしいトラックバックについても、発見次第削除します。えっちなのはいけません!」

「当ブログはリンクフリーです。報告は不要ですが、もしよろしければ、本記事コメント欄までご一報頂けると幸いです。また、当ブログ内の文章・画像の無断転載を禁止いたします。こちらも、コメント欄等でご相談頂けると幸いです」

「なお、管理人への連絡はコメント欄あるいはeuphshaker☆gmail.com(☆を@に変えて下さい)までお願いします」

「ここまでお付き合い頂きまして、ありがとうございました。それでは、どうぞごゆっくりご覧くださいませ。お相手は、管理人代行・イリアスでした」
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ストラトス・フォール 登場ゾイド紹介

2016-03-05 00:00:49 | ストラトス・フォール設定類
※それぞれの設定は『完全版』に準拠します。



・ヴァルハライザー(第一話より登場)

 テュルク大陸の遺跡で、トレジャーハンターの少年ティオ・ルタナ・ニーヴによって発見されたワイバーン型ゾイド。
 現行のゾイドとは異なる『古代種』と呼ばれる個体であり、古代ゾイド人文明時代の王朝『トローヤ』の守護竜、その片翼。




・ブラウリッター(第四話より登場)

 ヴァルハライザーと対をなす、トローヤの守護竜の片翼。厳密には、ヴァルハライザーの元となった個体である。
 ティオと行動を共にする少女イリアスには、ブラウリッターのゾイドコアの一部が埋め込まれている。




・ライガーゼロ・アステル(第六話に登場)

 ティオの師匠、アステル・レインの愛機。遠近双方の距離で戦える、独自設計のバランス型CASを搭載している。
 ベースとなっているライガーゼロは中央大陸の研究施設で野良ゾイド化していた個体であり、その出自には謎がある。
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設定類への記事追加について

2016-03-05 00:00:31 | エウロペの片隅から
「というわけで、ものすごく今更なのですが登場ゾイド紹介を追加いたしました」

「……ほんとに今更だなぁ」

「実際の所、旧版の掲載当時にはそこまで余裕がなかったという理由もあったのですが、よく考えてみればその後も全くそういった『設定』系の項目を載せていないという事に気付きまして」

「で、今回は『完全版』の主要ゾイドをまとめたと」

「滅茶苦茶簡単に、ですけどね」

「語り出すとそれだけで本編一回分くらいになりそうだからね」

「……久しぶりに『イリアスのゾイド講座』スタイルでやろうかとも思ったのですが、これも文章量が多くなると思い見送りました」

「あくまで『設定』だから、ゾイド一体に対して長々とやるような事でもないしね」

「で、問題となってくるのが『登場人物紹介』になるわけですが」

「……難しいんだよね、正直。『ストラト』本編内の情報も含めて、どの辺までネタバレして良い物か判断に困る」

「細かい設定は詰めてない所も多いですしね。アステルさんの年齢とか」

「ナツキ姉の身長とかね」

「……その辺も含めて、裏話というのも面白いかも知れません」

「需要があれば、だけどね」
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ストラトス・フォール完全版 最終話

2016-02-20 00:06:04 | ストラトス・フォール完全版
 乾燥した岩場という足場の悪さにも関わらず、黒を身に纏うライオン型ゾイド――ライガーゼロ・アステルは、ある敵を牙で噛み砕き、またある敵を爪で引き裂き、そしてある敵を主砲のビームバスター・キャノンで撃ち抜く。
「……気合入ってるなぁ、師匠……」
 その様子を、ホエールキング『オールド・クロック』の艦上から、ティオ・ルタナ・ニーヴは眺めていた。
 目的の空域に着いた途端に艦橋に呼ばれ、メインモニターの映像を見てみれば。
「びっくりだよ。ナツキ姉だけじゃなくて、師匠まで……」
「戦闘絡みの仕事は久しぶりと言っていたからね。……それに、ティオ絡みの依頼でもある。そりゃあ師匠も、気合が入るだろうさ」
 後方から飛びかかろうとしたコマンドウルフに対し、ライガーゼロ・アステルは片方のビームバスター・キャノンを真後ろに向けて発射。反対側のキャノンは横に展開して拡散照射、目くらましと牽制にする。
「……それにしても、よくピンポイントで『ここ』を襲撃するってわかったね」
 ティオはふと疑問に思い、そう口にした。
 思想集団『リヴィングス』の過激派による遺跡破壊活動は、当局や各国の軍ですら情報の把握が難しいレベルの神出鬼没さで行われている。にも関わらず、ナツキ達『古き風の音』はこのオリンポス山襲撃を事前にキャッチし、網を張る事に成功していた。
「私も詳しくは知らないけど、財団の上層部には軍との繋がりもあるみたいだからね。とはいえ、今回は運が良かった」
「……丁度、師匠がエウロペに居てくれたおかげか」
 ティオとナツキのダウジングの師、アステル・レインはフリーのゾイド乗りであり、その仕事は戦闘から土木工事まで、おおよそゾイドを用いたものなら何でもござれ、というスタンスを取っている。活動拠点も特に定まっていないため、今回彼女が西方大陸に居たのはティオ達にとって幸運だったと言える。
 そうこうしているうちに、モニターの中ではライガーゼロ・アステルが過激派の襲撃部隊を粗方制圧し終えていた。その様子を確認し、『オールド・クロック』からは保安部隊が降下を開始する。
「……さて」
 それに合わせて、ティオもブリッジから格納庫へ向かう。ヴァルハライザーで、地上に降りるのだ。
 果たして、ここでティオが求める情報を入手出来るか否か。


「ひっさしぶりですー、ティオ!」
 黒と金が入り混じった髪の、長身の女性――ティオの師匠であるアステル・レインは、ヴァルハライザーから降り立ったティオの姿を認めた直後、駆け寄って思いっきり抱き寄せた。
「わぷっ!?」
「……ああ、やっぱりティオくらいが抱きやすくって丁度良いです。戻ってきません?」
 女性としては長身なアステルがティオを抱き締める場合、小柄なティオの頭は丁度良い具合に彼女の豊満な胸に押し付けられる事になる。割と本気で、ティオは呼吸困難に陥りかけていた。
「……し、師匠……、その辺で」
「えー、折角の再会なんですから、もう少しスキンシップしましょうよー」
 口ではそう言いながらも、アステルはティオを解放する。若干不満げではあったが。
「……うん、良い顔になってますね」
「師匠?」
「何があったかは聞きませんよ。そして私の『仕事』は今、終わりました。ここからはティオ、貴方のターンです」
 ぽんぽんと、背中を叩かれる。
「……でも、本当に困った事になったのなら、私にでもナツキにでも、いつでも話しなさい。ちゃんと、助けに行きますからね」
「……ありがとうございます、師匠」
 同じような事を、少し前にナツキからも言われていた事を思い出す。
 敵わないな、とティオは感じた。師匠から離れて一人旅を続けて、少しは成長したと思っていたが、どうやらそんなでもなかったらしい。
「で、ティオの欲しがってた情報ですけども」
「あ、はい」
「確定じゃないですが、とりあえず連中から聞き出せました。……北、ですね」


 テュルク大陸上空。訪れる者の絶えた地の空は、往く者も遮る者も存在しない。
 ――はずの澄み切った空を、一条の閃光が引き裂いた。
 二回、三回と閃光が迸る度に爆発が生まれる。その炎と煙を切り裂いて、空を往く一団があった。
 過激派の武装勢力である。ドラゴン型飛行ゾイド『レドラー』を中心に、アーケオプテリクス型『シュトルヒ』や翼竜型『プテラス』で構成された混成部隊。
 数日に渡り、テュルクからデルポイにかけて目撃情報のある古代種と思しきゾイドを破壊する事が、彼らの目的であった。
 彼らが目指すのは、はるか彼方から正確無比な砲撃を繰り返す白亜の竜――ブラウリッターだった。既に僚機が墜とされているにも関わらず、彼らの動きに躊躇いは見られない。ひたすらに距離を詰め、有視界の格闘戦に持ち込もうとしているのだ。
 ブラウリッターの装備する胸部荷電粒子砲はかなりの長距離からの精密射撃が可能であり、掃射すれば空を薙ぐ光の剣となるようなシロモノである。しかし当然、一射で撃墜出来るのは射線に入った機体のみで、多くの場合は一機だけ。故に、反古代文明主義者の航空部隊は、犠牲を出しながらも距離を詰める事に専念していた。
 巴戦に持ち込めば、あの大火力は用をなさなくなる。
 そして部隊の半数に及ぶ八機の犠牲を払った時点で、ついに彼らはブラウリッターを捉えた。
 一撃離脱を得意とするレドラーが、尾部のレーザーブレードを閃かせてブラウリッターに突撃する。軸線をずらして回避するブラウリッターに向けて、下方からシュトルヒが必殺の『バードミサイル』を撃ち込んだ。二発。ブラウリッターは急上昇、強烈な羽ばたきを実行する。
 機体を軋ませ、円軌道を描きながらブラウリッターは急降下に移る。急激な軌道変更に、バードミサイルは目標を見失い迷走。その隙を縫ってブラウリッターの空対空ビームバルカンが火を噴き、シュトルヒが二機、墜ちる。
 また一機、別のレドラーがブラウリッターの背後に着いた。固定装備として火器を持たないレドラーだが、反古代文明主義者達に提供されたこの機体には、機首下にバルカンバッグが装備されている。
 背後からの射撃、しかしブラウリッターは冷静に軸線を外し、射線から逃れる。
 レドラーを操縦するゾイド乗りには、血の通った相手と戦っている感覚が無かった。それほどに、ブラウリッターの射撃と機動は正確であり、また機械的だった。
 背後に着いた時、人の乗っている相手ならば、そこから逃れようと何かしらの動きを見せるものだ。旋回する者もいれば、下降して振り切ろうとする者もいるし、一か八かの反撃に出ようとする者もいる。
 なのに、対峙している白亜の竜からは、そういった『乗り手の存在』が一切、感じられなかった。どこまでも冷静に、自身に向けられる攻撃を捌き、僅かな隙をついて攻勢に出る。全く感情を感じさせず、機械のように。
 彼の背を、冷たい汗が伝った。
 このまま戦っていては、間違いなく全機、墜とされるだろう。残存機体は六機、レドラーが二とプテラスが三、シュトルヒが一。
 各機体に指示を飛ばし、勝負に出る。
 レドラーが二機がかりでブラウリッターの上を押さえ、シュトルヒが相撃ち覚悟で真正面からバードミサイルを撃ち放った。正対していたブラウリッターの荷電粒子砲が矢継ぎ早に速射され、バードミサイルごと射線上のシュトルヒを火達磨に変える。
 彼らが狙っていたのは、その瞬間だった。
 残存する三機のプテラスが、斜め後方からシェブロン(三角編隊)を組んでブラウリッターに突撃する。頭をレドラーに押さえられているブラウリッターは降下して振り切ろうとするが、同じく降下して食い下がるプテラスの編隊を引き離せない。
 プテラスが、機首のバルカン砲を放つ。一撃必殺の武装では無いが、それでも三門たばになれば、その威力は跳ね上がる。当たれば、まず助からない。
 旋回し、ブラウリッターが射線から逃れる。しかしプテラスの編隊も負けじと追いすがる。高速での降下に加え、この低空では彼我の運動性能に存在する差は殆ど無くなっていた。
 あと少し。残弾が尽きる前に届く。
 彼らの意識が、ブラウリッターに集中した――その瞬間。
 はるか遠方から放たれた閃光が、プテラスを三機まとめて飲み込み、爆炎と化した。


「――間に合った!」
 ブラウリッターに追いすがる三機のプテラスをギリギリのタイミングで墜としたティオは、すぐに意識を高空のレドラーへと切り替える。
 アステル・レインがオリンポス山で過激派から入手し、ティオ達に伝えられた情報――テュルク大陸でのテロ活動の情報――によれば、航空部隊の戦力は十六機。
(……半分以上をブラウリッターが墜とした、って事か)
 ティオの肌が粟立つ。
 だが今は、その前に。
「……あんた達に恨みは無いけど、押し通させてもらう!」
 上空で警戒体勢を取り続けるレドラーに、集中する。
 二機のレドラーが、ほぼ同時に散開した。左右からヴァルハライザーに攻撃をかける。
「――右!」
 ほんの僅か、距離が近い方に、ティオは迷わずヴァルハライザーを突撃させた。
 突っ込み速度でレドラーに敵うゾイドは、ごく僅かしか存在しない。だからこそ相対する敵も、自信を持ってヴァルハライザーの正面から突撃をかけてくる。
 だが、ヴァルハライザーは他の飛行ゾイドが持ち得ない、特殊極まりない機体制御システムを有している。
 空中での戦闘速度は、極めて速い。双方の距離が一瞬にして詰まり、交錯する、その瞬間。
 半ばから割れたヴァルハライザーの主翼がクローアームに変わり、レドラーの背中に突き刺さる。
「……ぅ、おおぉぉッ!!」
 そのまま機体を振り回し、ほんの僅か到達の遅れたもう一機のレドラーに向けて、放り投げた。
 二機のレドラーが凄まじい速度で激突し、砕け散る。
 漆黒の竜が、白亜の竜に向き直った。
「――イリアス」
 ここからが、本番。
「……ついてこい、ブラウリッター!!」
 漆黒の竜が、咆哮する。
 白亜の竜が、咆哮する。
 二頭の竜は、ほぼ同時に上昇を開始した。


「ヴァルハライザー、並びにブラウリッター、上昇を開始しました」
 その様子を、同じ空域で『オールド・クロック』が観測していた。艦橋ではオペレーターからの報告を、ナツキが複雑な表情で聞いている。
「強度の生体電磁波が、両機から発生しています」
「高度、一万五千メートルを超えました。尚も上昇中……」
 食い入るようにモニターを見つめるナツキの肩が、ぽんと叩かれる。
「――不安ですか?」
 振り返れば、優しげな表情を浮かべてアステルが立っていた。
「いや……、そういうわけでは……」
「……大丈夫ですよ。ティオはちゃんと、戻ってきます」
 全てわかっていると言わんばかりに、アステルはナツキの言葉を先取りして、言う。
「私達が伸ばした手で、ティオを助けました。今度はあの子が手を伸ばして、誰かを助けに向かってます。……そして、いっしょに戻ってくる。私達のところに、ね」
「アステル師匠……」
「どーんと構えなさい、ナツキ・シノミヤ。貴女はティオのお姉さん、でしょ?」
「……そしたら、師匠はお母さんだね。これからは、そう呼んだ方が良いかい?」
「ありゃりゃ、これは一本取られましたね」
 ナツキにもわかる。不安なのは、アステルも同じなのだろう。だからこうして、冗談めかして話して、その『先』の事を考えている。
 ティオが助けようとしている、彼の大切な存在。それは、どんなヒトなのだろうか、と。
「……両機、高度二万五千メートルを突破! 上昇を続けています……!」
 視線をモニターに戻す。漆黒と白亜、二頭の竜は互いに交錯しながら、尚も空を駆け上がる。雲を突き抜け、どこまでも高く。
「……もう間もなく、成層圏に届きますね」
 ぽつりと、アステルが呟いた。
「まるで、成層圏に落ちて行くような……、そんな感じです」
 上下を百八十度入れ替えてみれば、違和感無く、そう見えるほどに。
 ヴァルハライザーとブラウリッターは、迷い無く空を駆け上がる。


「――もっとだ、ヴァルハライザー……! もっと高く!!」
 ヴァルハライザーの機体が軋む。強烈な加速に、息が詰まりそうになる。それでもティオは、ヴァルハライザーは、上昇を止めない。
 遮る物の無い、もっと高くの空へ。
「っ、ぐ……!!」
 高度が上がる度に、空気が薄くなる度に、互いに発する生体電磁波によって形成される記憶共有の強度が強くなる。
 今なおイリアスを苛む、滅びの記憶がティオの脳裏によぎる。
 燃え盛る炎。崩れ落ちる建造物。誰かの名前を叫ぶ、銀髪の少女。
「――もう、いいだろッ!!」
 叫んだ。
「もう充分、苦しんだだろう!? これ以上、独りで抱え込むな!!」
 苦しんで、苛まれて、悲しんで、嘆いて。
 ずっと押し殺して、イリアスは生きてきた。
「イリアス!!」
 ブラウリッターの加速が、僅かに鈍った。
 ティオの声に、反応したかのように。
「――今!」
 躊躇無く、ヴァルハライザーを突っ込ませる。
 両翼をクローアームに変形させ、ブラウリッターの機体ごと抱き抱えるように、接触する。
「……ヴァルハライザー!!」
 記憶領域の、完全リンク。
 強烈な炎のイメージと共に、ティオの意識が一瞬、飛ぶ。


「……ここは……?」
 気がつくと、そこに居た。
 燃え盛る炎。崩れ落ちる建造物。その先に屹立する、黒い巨大な影。
 絶望的なまでの、破壊の光景。
「テュルク大陸、トローヤ王都。その、最期の光景です」
 背後から声が聞こえた。ずっと聞きたかった声。振り返る。
 炎に照らされて輝く銀色の髪。赤く紅い世界の中ではっきりと見える、澄んだ青い瞳。
 イリアスが、そこに居た。
「……駄目。来ては駄目です、ティオ」
 駆け寄ろうとしたティオは、制止の声に踏みとどまる。
「どうして」
「ここは、私の記憶です。……ずっと目を背け続けてきた、私の記憶」
 目を伏せて、イリアスは語る。その声は驚くほど平淡で、冷たかった。
「守れなかったのです。ここ、トローヤ王都だけではなく、この惑星の、この世界、全てが、今日この日、滅び去りました」
 イリアスの指が、屹立する黒い巨大な影に向けられる。
「……後年、ゼネバス帝国がその姿と名前を模した戦闘機械獣を開発しました。あれは、その原型となった存在。真祖(オリジナル)デスザウラー」
 黒い影が咆哮し、巨大な口腔から光の渦が吐き出された。飲み込まれた建造物が、一瞬で原子レベルに分解され、蒸発する。
「守らなければ、ならなかったのです。トローヤの竜王として、守護竜の依代として。……けれど、守れなかった」
 黒い影が、歩を進める。後に残るのは、炎と、黒煙と、瓦礫と、そして死に行く者達の声無き声。
「……守れなかったのです、私は。何もかも……!」
 風に巻かれて、炎がティオとイリアスの間を遮る。
「私はこの身体に、古代種のゾイドコアを埋め込まれています。だから、死ぬ事も出来なかった。……ずっと、この滅びを見続ける事しか出来なかった」
 炎の勢いは増す一方で、イリアスの姿が少しずつ、霞んでゆく。
「……そしていつしか、目を背けるようになりました。心の奥に、この記憶を封じ込めて」
 それは、ティオも同じだった。
 なのに。
「だからこれは、罰なのです。トローヤを守れなかった私への、目を背け続けてきた私への、罰……!」
 そんな事を言うから。
「……違うよ、イリアス」
 はっきりと、否定してやる。
「ティオ……!?」
 炎の中を、イリアスの所へ向かって進む。
 熱い。記憶領域に再現された仮想空間であるはずだが、炎は現実の熱さをもってティオに襲い掛かる。
 それでも。
「罰じゃない。これは、イリアスが乗り越えなきゃいけない記憶だ」
 振り払って、進む。
「駄目、ティオ……! 来ないで!」
「嫌だ!!」
 イリアスの場所まで。
「もう充分だろう!? こうなる前にだって、君はずっと苦しんでいた! 悲しんでいた!! だから、あの時に俺を励ましてくれたんじゃないか!!」
 思い出すのは、ニクス辺境の街で夜を共にした時。悪夢に――両親を失った時の記憶に魘されていたティオを励ましてくれたのは、イリアスだった。
「……そう、そうよ。だって、そうしなきゃ! 私が、この滅びを止められなかったのだもの!! 忘れる事なんて、出来るわけ無いじゃない……!!」
「それが普通なんだよ、イリアス! 誰だって、つらい記憶からは逃げ出したくなる。俺だってそうだよ! イリアスが居てくれたから、ようやく向き合えたんだ!!」
 ヴァルハライザーとの精神感応によって暴走したティオを救ったのは、他でもないイリアスだ。
「それじゃ駄目なの!! 私のせいで、たくさんのヒトが死んで、なのに私は死ねなくて……!! だから、これが罰なの! 私は許されちゃいけないから! ずっと逃げて来た私への罰、ここで、この滅びを見続ける事が……!!」
「……じゃあなんで、イリアスは俺を助けてくれたの!?」
「そうしなきゃいけないと思ったから!! あなたの血を残してほしいと……ッ!!」
 激情のままに叫んでいたイリアスが、口をつぐんだ。
「……やっぱり、そうだったんだね」
 記憶を共有したティオは知っている。否、知ってしまった。自分がヴァルハライザーを動かせる、厳密には使役出来る理由。
 ティオが、かつてヴァルハライザーを使役していた『竜使いの民』の末裔であるから。
 そして古代に、イリアスが唯一心を許していた人物――シーヴァの血を引く者だから。
「……最初は、そうじゃなかったの。でも、いっしょに過ごすうちに、あなたのの中にあの人の面影を見てしまった。一度気付いたら、抑えきれなくなって……!」
「イリアス……」
「嬉しかったの……! 彼が、シーヴァが血を残してくれた事が! けど、あなたはティオ・ルタナ・ニーヴで、シーヴァじゃないって、わかってたのに……!!」
 風が凪いだ。炎が僅かに、勢いを失う。ティオは一気に、イリアスとの距離を詰めた。
「……もういいんだよ、イリアス」
 そして、抱き締める。今にも壊れてしまいそうな小さな身体を、両腕で大切に抱えた。
「もういいんだ。全部、知ってるから。イリアスのせいじゃない、って事も。俺を通して、イリアスが誰を見ていたのかも。俺は全部、わかってるから」
 小さな背中を撫でながら、繰り返す。
「……だから、もういいよ、イリアス。ひとりで苦しまなくていい。許すから。みんな、許してくれるから」
 強張っていたイリアスの身体から、少しずつ、力が抜けていく。
「つらい記憶なら、俺がいっしょに背負う。怖いなら、手を引いてあげる。だから……、いっしょに戻ろう?」
「……無理、です。だって、こんなの、重すぎる……! ティオには、わからない……!!」
「わかるよ。……イリアスも言ったじゃないか。つらさそのものはわからなくても、つらい記憶を思い出した時に、どういう気持ちになるかは、わかるって」
「……!」
 ティオとイリアスの、共通する記憶。
(――「私のつらさと、ティオのつらさが同じかどうかは、わかりません。でも、そういう夢を見た時に、どんな気持ちになるかは、わかりますから」――)
 一字一句、間違えずに思い出せる。あの時ティオは、その言葉にどれだけ救われたか。
 イリアスの抵抗が弱くなる。そっと、ティオは手を緩めた。
「……それに、俺だけじゃない。ほら」
 ティオとイリアス、二人だけが存在する仮想空間に、もう一人。
 黒衣に身を包み、長い黒髪を二つに括った、海のように深い青色の瞳の少女。
「……ヴァルハライザー……?」
 ヴァルハライザーの、対人コンタクト用仮想人格。
『わたしはずっと、後悔していました。あの時、戦友シーヴァの願いに逆らってでも、あなたをあの場から逃がしてはならなかったのかも知れない、と』
 黒衣の少女は目を伏せたまま、僅かに声を震わせる。
『……それでも、わたしはあなたを守りたかった。シーヴァがそう望んでいたから』
 少女が顔を上げる。彼女の海のように深い青色の瞳が、イリアスの空のように澄んだ青い瞳に向けられる。
『シーヴァは、あなたに生きていて欲しいと願っていました。遠い未来でもいい、いつかあなたが、笑っていられるように、と……』
 静寂が、仮想空間を支配する。
「……――!」
 聞こえないほどの、小さな声で。イリアスはその男の名を、呟いた。
「……俺も同じ気持ちだから。イリアスには、笑って欲しい。いつか、ちゃんと心から、笑えるようになって欲しい」
「……いい、の? 私は、許されて、いいの?」
「誰が何と言おうと、イリアスが自分を許せなくても、俺は許すよ」
「笑えるようになって、いいの?」
「……うん」
 どん、と衝撃。イリアスが、ティオの胸に顔をうずめた。
「ごめんなさい……! 私、今どうしていいか、わからないの……!」
「……これからゆっくり決めればいいよ。だからさ」
 そっと、ティオはイリアスの肩を抱き、向き合う。
「いっしょに、戻ろうか」
 ……泣き笑いの表情で、それでもハッキリと。イリアスは頷いた。


 それから、色々な事があった。ナツキやアステルにイリアスを紹介し、クリスハイトに可能な限りの情報提供(流石にイリアスの素性は伏せたが)をして、他にも諸々なあれそれを片付けて、数日後。
「……ここが、トローヤ王都」
「の、跡地です。……地下神殿郡はまだありますけれど、地上はもう、ただの荒地ですね」
 ティオとイリアスの二人は、トローヤ王都跡を訪れていた。二人を見守るかのように、漆黒の竜と白亜の竜が背後に聳えている。
 乾燥した大地が広がる、極寒の土地。
 かつてはここに、栄華を極めた古代文明が存在していた。
 そこで、イリアスは生きていた。
「……今まで私は、ずっと囚われていたのですね」
 イリアスが、握っていた手を広げる。そこには三枚の、不明瞭な紋様が刻まれた青いメダルがあった。
 エレミア砂漠の遺跡と、そしてもう一枚は奇しくもオリンポス山の遺跡。それぞれに残っていた、古代の記録が収められたメダル。あの後、ティオはイリアスとの約束通り、このメダルを探し出した。
 訝しげにその様子を眺めるティオを他所に、イリアスは再びメダルを握り締めると――その手を大きく振りかぶって、三枚のメダルを投げ捨てた。
「ちょ、イリアス!?」
「縋りたくなってしまいますから。持っていたら、きっと」
 冷たい風が、イリアスの銀髪を揺らす。
「……『過去』にしなくては、あなたに失礼だもの」
 そして、イリアスがティオに向き直った。
「ティオ。非礼を承知で……、前言を撤回させて頂きます」
 真っ直ぐに、空のように澄み切った青い瞳がティオを見つめる。
「これからも……、あなたとといっしょに居させて下さい」
 その言葉が、かつてヴァルハライザーの機上で聞いた質問への答えであるとティオが気付くまでに、少しばかりの時間を要した。
「……そっか。ごめん、俺、これからどうするかなんて、何も考えてないや」
「これからゆっくり、決めればいいです。……二人で、ね」
 仮想空間で言った台詞をそのまま返され、ティオは苦笑した。
「うん。……それじゃイリアス、行こうか?」
「――はい!」
 満面の笑みで、イリアスが答える。その表情からは、かつてティオが感じた小さな違和感は、微塵も感じられない。何より、
「……ティオ? 何だか顔が赤いですよ?」
 向けられたティオが思わず赤面してしまうほどに、綺麗だった。


 おわり。
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完全版 最終話あとがき

2016-02-20 00:05:52 | エウロペの片隅から
「……これにて、『ストラト完全版』の掲載は終了となります」

「何だろう、最終話……思ったよりも変わってない?」

「はい。当初は第五話などと同様に、ある程度を残して書き直す予定だったようなのですが……出来なかった、と」

「……確かに、ある意味『ストラト』って話の全てだもんね、この最終話は。無理に書き直すよりは、この方が良いか」

「なので、これまでの展開から来る細かい矛盾点だけ解消した形となります。あまり多くは語りませんので、是非とも本編をお読み頂ければ」

「で、結局イリアスが何者なのかという部分までは到達しなかったね」

「……はい、恥ずかしながら。なので、もう一本エピローグ兼種明かし的なお話を予定しています」

「本編中で、イリアスが言った『守護竜の依代』ってのがキーワードだね」

「掲載はまた少し先になるかと思いますが、こちらもお付き合い頂ければと思います」

「その話が、次回作に繋がる……予定。今のところは」

「……ご主人様が『フレームアームズ・ガール』のマテリアを買ってきていましたね、そういえば」

「あれ、パッと見の外見がちょっとイリアスに似てるんだよね。変な方向に行かなければいいけど」

「相も変わらず、予定は未定ですけれども。それでは、今回はこのあたりで」

「お読み頂き、ありがとうございました」
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ストラトス・フォール完全版 第五話

2016-02-05 00:16:00 | ストラトス・フォール完全版
 感じたのは、悲しみと後悔だった。
(――「……もし、もう一度やり直せるのなら、今度は……」――)
 屹立する、黒い巨大な影。その頭頂部、コクピットに座す翡翠色の髪の男は、身体の大部分を異形に飲み込まれていた。
(――「今度、なんて……! まだ間に合います、シーヴァ! 早くこっちに!!」――)
 対峙するのは、漆黒と紺碧の竜――ヴァルハライザー。
 コクピットを開き、向き合って手を伸ばす銀髪の少女。しかし男は、その手を握ることなく、振り払った。
(――「もはや手遅れです、イリアス様。……あなたは、ここに居てはいけない」――)
 男の意思に従うかのように、ヴァルハライザーがコクピットを閉じる。
(――「駄目! やめなさい、シーヴァ……やめて!!」――)
(――「私は、あなたに会えて……良かっ」――)
 最後の言葉を言い終える前に、男はコクピットを埋め尽くす異形に飲み込まれる。
(――「……シーヴァ!!」――)
 少女の悲痛な叫びが、空に響く。
 黒い巨大な影が、咆哮する。口腔から吐き出された光の渦が、眼下のすべてを飲み込んでゆく。
 燃え盛る炎の中、ヴァルハライザーが飛ぶ。
(――「戻りなさい、ヴァルハライザー! あなたの主は私です……!!」――)
 主の叫びを受け止めながら、それでもヴァルハライザーは飛ぶ。
 戦友の願いを、今まさに、黒い巨大な影に飲み込まれた男の願いを、守るために。
(――「戻りなさい! 戻って!!」――)
 主たる少女を、この場から逃がすために。
(――「私を、ひとりにしないで!!」――)


 ぼんやりと、ティオの意識が覚醒していく。これは夢だが、ティオの夢ではない。
(イリアスの、記憶――)
 断片的に流入する、記憶にない記憶。それは、ヴァルハライザーとブラウリッターの間で行われた記憶領域の共有によってティオに流れ込んだ、イリアスの記憶。
「――っ、ここは……」
 そこまで理解したところで、ティオの意識は現実に戻った。
「気がついたかい? 全く、まさか君があんな所に居るなんて思わなかったよ」
 聞こえてきたのは、どこか呆れた調子の、しかし懐かしい少女の声。
「……え、あれ? ナツキ姉……?」
 声のした方を振り返ると、くすんだ灰色の髪を肩まで伸ばした十代半ばほどの少女が、特徴的な暗い赤の瞳で、ベッドに横たわるティオの顔を覗きこんでいた。
「そうだよ。君の姉弟子、ナツキ・シノミヤだ。……そろそろしゃきっとしてくれないか、ティオ・ルタナ・ニーヴくん?」
 孤児院『ホワイトロータス』にて、ティオと良く行動を共にしていた――というよりは、塞ぎこみがちなティオの世話を焼いていたのが彼女、ナツキ・シノミヤだった。ティオの師である女性にダウジングを教わっていたのも元々はナツキの方であり、ティオはそれを真似て同じようにダウジングを習い、いつの間にか師匠の旅路に巻き込まれ、現在に至るのだった。
 一方で、ナツキは考古学者を志し、現在は師匠の伝手もあってか民間財団『古き風の音』で働いている。
「……とりあえずナツキ姉、ここ何処?」
「財団所有のホエールキング、艦名は『オールド・クロック』の医務室だよ」
 起き上がって、周囲を見回してみる。白を基調とした内装に、医療器具。ナツキの言う通り、医務室で間違いなさそうだ。
「何で、そんな所に……」
 居るのだろうか、疑問を口にしたティオを遮るように、医務室の扉が開く。
「目が覚めたようだね」
 入ってきたのは、白衣を身にまとった長身痩躯の男性だった。細いフレームの眼鏡の奥、一見すると柔和そうな眼の奥には、どこか底の知れない深さも見える。
 この感じを、ティオは何となくだが知っていた。
(……師匠に、似てる?)
 訝しげな視線を向けるティオの事を気にしていないのか、男はティオに名刺を差し出す。そこには『古き風の音 古代遺物研究課主任 クリスハイト・ロー』と記載されていた。
「師匠の知り合いで、今の私の……上司? だよ、ティオ」
「……何故そこで疑問符が入るのかな、ナツキ君」
 名刺を受け取ったティオは、目の前で繰り広げられるやり取りにどう反応していいものか混乱する。それを感じてか、クリスハイトという白衣の男性は咳払いの後、切り出した。
「F-G遺跡……エレミア砂漠のあの遺跡だが、発掘調査隊からSOS信号が発信されていた。丁度、僕たちはこの艦と共にガイガロスに居てね。保安部隊と共に駆け付けたんだ」
 民間財団『古き風の音』は、元々は古代遺跡並びに遺物の保護・調査を目的として設立された組織であり、当然非武装だった。しかし近年では思想団体『リヴィングス』の過激派による破壊活動が活発化している事もあり、自衛目的での武装を各国から承認されていた。特に設立に関わったガイロス帝国の資産家――ムルジム・セイリオスが帝国軍とのパイプを持っていた事から、大型輸送艦『ホエールキング』を含む装備の払い下げを受けている。
「……残念ながら、調査隊の生存者は発見できなかった。代わりに、遺跡の付近で発見したのが、君と……」
 話しながら、クリスハイトがベッドサイドのモニターを操作する。
「このゾイドだ」
 映し出されたのは、格納庫――恐らくこのホエールキングのメインハンガー――に、その身を横たえる漆黒と紺碧の竜。
 ヴァルハライザーだった。
「数日前、このゾイドと思しき目撃情報がニクスで報告されている。また、SOS信号が発信された後の事だが、このゾイドがF-G遺跡に向かって飛行する姿が観測されている」
 モニターが切り替わり、観測機が撮影したヴァルハライザーの飛行映像が映る。
「……さて、ここからが本題だ」
 続いてモニターに映し出された映像に、ティオの心臓が大きく跳ねる。
「僕たちが現場に到着する直前に、この空域から北に飛び去る機影が確認された」
 遠方からの撮影を拡大したもので、画像はかなり荒い。しかしはっきりと、機首を北に向ける白亜の竜――ブラウリッターの姿が映っていた。
「君が乗っていたゾイドと、このゾイド。どちらも各国のデータベースに存在しない機体だ。そして、それを狙っている連中が居る」
 クリスハイトの言葉を、どこか他人事のようにティオは聞いていた。ヴァルハライザーと、そしてブラウリッターを狙っているという存在。聞かされても、実感が湧かない。
「……リヴィングスの過激派だ。奴らはこの二機を『古代種』であると断定し、捜索しているという情報が入った」
 しかし具体的な名前が出たことで、少しずつティオの思考が回転し始める。
「この二機が古代種であろうとなかろうと、過激派の破壊活動に巻き込むわけにはいかない。……そのために、君には知っている事を話してほしい」
 そう言って、クリスハイトはモニターの電源を落とす。
「……だが、今はまず身体を休める事だ。後でナツキ君に、食事を持ってこさせよう。足りない物があれば、遠慮なく言ってくれ」


 ベッドに仰向けで寝転がったまま、ティオは天井を見つめていた。
(……俺がいっしょに行こうなんて言わなければ、こんな事にはならなかったんだろうか)
 ずっと、そんな事を考えている。
 身体の方は、極度の疲労。それ以外に異常はなかった。時間が経つにつれて、思考も明確になってきた。
(だとしたら、俺は……)
 底なし沼にでも沈んでいくような思考を遮って、扉が開く。
「入るよ、ティオ」
 食事の載ったトレーを持って、ナツキが医務室に入ってきた。手際よくベッドのサイドテーブルを組み立てて、トレーをそこに置く。
「食べられそうかい?」
「……ん」
 ティオは上半身を起き上がらせて、頷いた。正直な所、食欲はこれっぽっちもなかったが。
「……正直、驚いたよ。君があんな所に居て、あんなゾイドに乗っているなんてね」
「ごめん、ナツキ姉。心配かけて……」
「そう思うなら、姉としては何があったのか……話してほしい所かな?」
 おどけたような口調のナツキだが、ティオを見つめる目は笑っていない。要らぬ心配をかけた、というより現在進行形でかけているという自覚もあって、ティオはゆっくりと口を開く。
「……助けたい人が居るんだ」
 ここに至る経緯を説明しようとして、しかしティオの口をついて出てきたのは、まったく違う内容だった。
「その人は、出会ったばかりの俺の事を助けてくれた。そのせいで、自分が苦しむって事も、多分……わかってた」
 確証があるわけではない。だが、あの時。仮想世界で聞いた、イリアスの言葉。
 あれはきっと、本当は。
「……その人は、今も苦しんでる」
 恐らくは、その時からずっと。
 ティオとの記憶共有は、きっかけでしかない。
「だから……、助けてあげたいんだ。その人の事」
「……なるほど」
 ティオの言葉を聞き終えて、ナツキが椅子から立ち上がる。そして、ティオが寝かされていたベッドに腰かけた。
「ナツキ姉……わぷっ」
「……師匠ほど気持ちよくないかもしれないが、そこは容赦してくれたまえ」
 そして、困惑するティオの頭を胸に抱き寄せる。
「助けてあげたい。けど、そんな資格が自分にあるのか。迷ってる……そんな所かな?」
 口に出さなかった心中を見事に言い当てられ、ティオは少なからず驚いた。
「……すごいね、ナツキ姉」
「何年、君の姉をやっていると思う? ……らしくないよ、私の弟」
 ティオを抱き寄せたまま、ナツキは穏やかな口調で続ける。幼子をあやすようなその口調に、ティオは自身の幼少期を想起していた。
「失くすのが嫌だから、二人して師匠に教わっただろう、ダウジングを。失くしても、探し出せるように」
 優しく背中を撫でられる。
「手を伸ばせばいい。君が助けたいと思うなら、助けてあげるんだ。私達も、ちゃんと手伝うから」
 ナツキの言葉を聞きながら、少しずつ、ティオの意思が固まってゆく。
 それと同時に、強烈な空腹感がティオを襲った。胃が収縮する音が、医務室に響く。
「……さ、私の話はおしまいだ。さっさと食べて、もうひと眠りすると良い」


 眠りについたティオが次に目を覚ましたのは、真っ白な空間だった。
 その中に立つ、ひとりの少女。長い黒髪を後ろで二つに括り、漆黒のマントに身を包んだ彼女の瞳は、海のように深い青色。
 不思議と、ティオはその少女が何者なのか、すぐに理解出来た。
「……ヴァルハライザー?」
『そう。……正確には、対人コンタクト用のインターフェイス、仮想人格だ』
 この空間は、ヴァルハライザーの空きメモリに形成された仮想空間。そして目の前の少女は、ヴァルハライザーがティオとコンタクトを取るための仮想人格だった。
「やっぱり。イメージ通り、かな?」
『……む』
「生真面目そうっていうか、堅物っていうか」
 ティオの評価に、ヴァルハライザーの化身たる少女は少しばかり、不満げだ。
「……だから、怒っていたんだろう?」
 しかし、続いたティオの言葉に思わず、目を丸くする。
『どうして……、そう思う?』
「不思議だったんだ。おまえといっしょに戦っていると、覚えのない怒りが湧いてきて。……あれは、おまえの怒りだったんだ。イリアスを救えなかった、おまえの」
 ゾイドは、金属生命体。ただの機械ではなく、意思を持つ存在だ。
 その怒りが、ティオの心にも作用したのだ。
「イリアスの心を救えなかった、おまえの怒り」
 少女がうつむく。そして、絞り出すようにして口を開いた。
『……あなたの言う通りだ。わたしはあの時、彼女の心を救えなかった。彼女が守ろうとしていたものを、何ひとつ……守れなかった』
 小柄な身体を震わせて、少女は言葉を続ける。
『そして、今も……。彼女はあなたを助けたかった、それだけだったのに!』
「……うん」
『何故だかわかるか、ティオ・ルタナ・ニーヴ!? どうして、彼女があなたを助けようとしたのか……!!』
 涙混じりの声で、少女はティオを詰問する。
 その問いの答えを、ティオは知っていた。イリアスとの記憶共有によって流れ込んだ、彼女の記憶。その中に、答えがあった。
「……俺は、かつておまえと共に戦っていた『シーヴァ』って人の、末裔なんだろう?」
 気を失っていた間に垣間見た、夢という名のイリアスの記憶。その中で、黒い巨大な影に飲み込まれていった、翡翠の髪の青年。
 イリアスが『シーヴァ』と呼んでいた、ヴァルハライザーを駆っていた『竜使いの民』。
 ティオ・ルタナ・ニーヴは、その男の血を引いていた。
『……そうだ。戦友シーヴァの血を引くあなたを、彼女は今度こそ助けようとした。そうすれば、また自分が傷つくと知っていながら……』
 あの時、イリアスがティオを助けるためには、ヴァルハライザーとブラウリッターを介して両者の記憶を共有させる必要があった。そうすれば、イリアスはティオの記憶――両親を失ったトラウマを、直接的に追体験させられる事になる。
 その結果、イリアス自身のトラウマを――守りたかったものを守れなかった記憶を、強く想起してしまった。
 それが、ティオに流れ込んだイリアスの記憶。
「……だったら、今度は」
 その悪夢から、イリアスを連れ戻す。
「今度は俺が、イリアスを助ける」
 そのために。
「……力を貸してくれ、ヴァルハライザー」
『どうして……』
 ティオの眼前で、黒衣の少女が顔を伏せる。
『どうして、あなたはそうまでして、彼女を救おうとする?』
「……俺と、同じだから」
 そしてティオは、少しだけ言葉を選び、答えた。
「ずっと気になってたんだ。イリアスの、笑い方っていうか……、笑ってる時の彼女が、誰かに似てるって」
 黒衣に身を包んだ少女は、ティオに深い青色の瞳を向けて、続きを促す。
「やっと思い出した。ていうか、わかった。あれは俺や、ホワイトロータスに居た子供達と同じで、無理して笑ってる顔だった」
 人は、無理にでも笑う事が出来る。そうして、心の奥底に、不安や悲しみを押し込んで生きていく事が出来る。そんな生き物だ。
 だけど。
 ずっと、そんな風に生きていたら。
 心は、壊れてしまうから。
「……俺は、師匠やナツキ姉、ホワイトロータスの人達に会って、普通に笑えるようになった。俺の心が壊れる前に。だから今度は、俺がイリアスの心を救う。彼女の心が壊れてしまう前に……!」
『もう、遅いかも知れない。あなたもわかっているはず、彼女の積み重ねてきた年月は、とても永い』
「かも知れない。でも、俺はイリアスに、笑えるようになって欲しい」
 心が壊れてしまったなら、なおしてやればいい。
 砕けてしまったのなら、ひとつずつ、拾い集めてやる。
「……誰かが、イリアスを許してあげなきゃいけないんだ。もう、いいよ……って」
 封じていた記憶に飲み込まれたティオを助けようと、イリアスが掛けてくれた言葉。
「あれは……、本当は、イリアスが言われたかった言葉のはずだから」
 あなたのせいではない、と。
「だから、今度は俺が言わなきゃ」
 それが今の、ティオがするべき事。
『あなたに、彼女を許す資格がある、と?』
「……資格とか、そんな大それた物かはわからないけど。でも、俺が言わなきゃいけないと思う」
 他の誰にも、言えないだろうから。
『……そうか』
 黒衣の少女が、目を閉じて息をついた。
『ありがとう、ティオ・ルタナ・ニーヴ。あなたになら、任せられる』
 真っ直ぐに、深い青色の瞳を向けられる。
「違うよ、俺だけがやるんじゃない。ヴァルハライザーも、いっしょにやるんだ」
『……わたし、も?』
 少女の表情が動いた。僅かに目を見開いて、驚きの表情を見せる。
「おまえが居なければ、イリアスに届かない。……あの時イリアスがやった事、おまえにも出来るよね?」
『……記憶領域の接続は、可能だ。わたしは、ブラウリッターと同じゾイドコアから生まれたから。ただ、そのためには』
「物理的接触が必要……なんだね?」
 あの時、イリアスがやったように。
「だから、ヴァルハライザー。俺をそこまで連れて行って欲しい」
『……わかった。わたしがあなたを、彼女のもとまで連れて行く。だから、頼む……』
 どん、と衝撃。黒衣の少女が、ティオの胸に飛び込んでいた。
『彼女を、助けてあげて』
「……助ける。絶対に」
 ヴァルハライザーの『心』を抱きしめて、ティオは答えた。


 財団『古き風の音』所属のホエールキング『オールド・クロック』は、艦首を北エウロペに向けていた。
 ティオ・ルタナ・ニーヴからの情報提供を見返りとした、彼個人への協力。これにはクリスハイトの思惑も絡んでいたが、何よりナツキ・シノミヤの強い要請があった。
「……本当は、こういう事に私情を持ち込んではいけないのだろうけどね」
「そんな事は無いと、僕は思うよ? 少なくとも、今のナツキ君は良い表情をしている」
「よしてくれ、褒めても何も出ないし……。大体、あなたは既婚者だろうに。若い女の子を口説いて、奥さんに嫌われないのかい?」
 オールド・クロックの艦橋では、クリスハイトとナツキがそんな会話を繰り広げていた。
「ひどいな、ナツキ君は。口説いているわけではなく、純粋にそう思うだけなのだが」
「あなたの場合は、何をどう言っても額面どおりには受け取ってもらえないと思うよ。……それはともかく」
 言いながら、ナツキは手元のコンソールパネルを操作して、ある場所との通信回線を開く。
「もうそろそろ、通じても良い頃だ」


 北エウロペ大陸のほぼ中央に位置するメルクリウス湖、その中に存在する、通称『エウロペの屋根』ことオリンポス山。
 ある筋からの情報リークを受けた過激派の一団が、ゾイドで武装してオリンポス山を進行していた。
 現在時刻は、夜明け前の四時。
 彼らの目的地は、山頂の古代遺跡。かつてガイロス帝国軍の『デスザウラー復活実験』に使用され、ゾイドコアの内部崩壊現象によって廃墟と化した場所である。
 山岳踏破に向いた、狼型ゾイド『コマンドウルフ』や豹型ゾイド『ヘルキャット』を中心とした、一個小隊(ゾイド約10機)規模の部隊。その進行を、山頂から見下ろす影があった。
「……ふむ、ナツキのくれた情報通りですねぇ」
 夜の暗闇にその身を溶かす、黒い装甲に身を包んだライオン型ゾイド。橙色の双眸が、音を殺して走り来るゾイドの集団をじっと見据える。
「クリスハイト君から連絡があったかと思えば……、こーんな楽しそうな事になっていたなんて」
 その足元で双眼鏡を覗き込む、一人の女性が居た。すらりとした長身、黒と金の入り混じった髪を短く切った、特徴的な外見だった。
「では、お仕事と参りましょう」
 双眼鏡をしまい、黒いライオン型ゾイド――ライガーゼロの脚を、器用にひらりとよじ登る。コクピットに収まると、ひとつ息をつく。
「そちら様に恨みはありませんが、何より可愛い弟子達のため。そして私はゾイド乗り、信条はそう、土木工事から戦闘まで――!」
 通信回線を開いているわけではないので、別に誰も聞いていない。聞いていないのを良い事に、彼女は高らかに、名乗る。
「アステル・レイン! ――推して参る!!」
 黒を身に纏う獅子――ライガーゼロ・アステルが、夜明け前のオリンポス山を駆けた。


 つづく。
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完全版 第五話あとがき

2016-02-05 00:15:37 | エウロペの片隅から
「お待たせいたしました、『完全版』の第五話をお送りいたします」

「よくよく読んでみると、前半は展開ほぼ同じだけど粗方書き直してるね、これ」

「描写上の細かい祖語だったりなんだりと、色々ありまして」

「で、一番最初は『イリアスの悪夢』なんだけど」

「ええ。まさか三年越しで『彼』に名前が付くとは思いませんでした」

「俺……ティオ・ルタナ・ニーヴの祖先にあたる人物で、トローヤ王朝時代にヴァルハライザーに乗っていた『竜使いの民』だね」

「……という事は、もしかして私の過去編も本気でやるのでしょうか」

「そのあたりはまだ未定だけど、元々今回の再編というか改稿は、次にやる『終焉の遺伝子』に繋げるためって意味もあるからね。もしかしたら、やるかも」

「というのも、ご主人様がようやく私が生み出された背景を設定しまして。……あ、この場合の生み出されたというのは、キャラとしてではなく作中の私自身が生み出された背景ですね」

「……イリアスの過去を明確に描写しなかった最大の理由が、コレなんだよね。今だから言うけどさ」

「何故、私がブラウリッターの半身として生み出されたのか。明確な設定が存在しなかったのです」

「それについては、今後作中で描写されていくと思う。……で、本編に話を戻して」

「今回、見せ場を追加されたのはナツキ姉さまですね。ちょっと短いですけれど」

「それに伴って、ヴァルとの仮想空間での対話も俺が行くんじゃなくて、ヴァルの方から殴りこんでくる形に」

「……物騒な表現をしない」

「ともあれ、次回が『完全版』最終話……の、予定だったんだけど」

「まだ改稿作業中なので何とも言えませんが、もしかしたら二分割になる可能性があります」

「あと、先月ほどのハイペースはやっぱり無理っぽい」

「最後までどうにも締まりませんが、どうかお付き合い頂ければ幸いです」
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ストラトス・フォール完全版 第四話

2016-01-25 00:00:32 | ストラトス・フォール完全版
 古代の記録媒体メダルを求め、ティオとイリアスはエレミア砂漠の遺跡に向かう。しかしそこは、過激派のゾイド部隊による襲撃を受けていた。
 ヴァルハライザーで敵を撃退したティオ。しかし増援のレドラーとの空中戦で、ティオは『ある記憶』を思い出してしまう……。


 西方大陸エウロペ。かつてガイロス帝国とヘリック共和国が交戦した『西方大陸戦争』以降、この大陸は両国と現地の市民が共存する、多民族国家のような様相を呈していた。
 特に戦争において主戦場とならなかった南エウロペはその傾向が強く、ヘリック派民族の拠点都市『ニューヘリックシティ』と、同じくガイロス派民族の拠点都市『ガイガロス』は、距離的には意外なほど近くに存在している。
 そのガイガロスに、古代遺跡・遺物の保護を目的として設立された民間財団『古き風の音』のエウロペ支部があった。
「F-G遺跡の発掘調査隊からSOS信号があったというのは、本当か?」
『間違いありません、クリスハイト主任』
 一角に設けられた通信スペースで、白衣を着た痩身の男が端末に向き合っている。
 エレミア砂漠に存在する遺跡を発掘していた調査隊から、緊急の信号が発せられたという報せを受けての事だ。
『過激派の攻撃を受けた、と。既に信号は途絶していますが……』
「わかった。保安部隊を動員して、僕が『オールド・クロック』で現地に飛ぼう」
 クリスハイトと呼ばれた白衣の男は、通信相手に対して答えながら別の回線を呼び出し、財団所有の大型輸送艦ゾイド『ホエールキング』の発進準備を開始する。
『ああ、主任。それからもう一つ』
「何かな?」
『無人観測機が捉えた映像です』
 端末の画像が切り替わり、砂漠の上空を飛行するゾイドの映像が映し出される。見た事の無い機体。漆黒と紺碧の、四枚羽根が特徴的なワイバーン型と思われるゾイドだ。
『昨日、ニクス大陸上空で目撃されている機体です。未確認情報ですが、古代種の可能性がある、と……』
「それが、F-G遺跡に向かっているというわけだね」
『はい、恐らくは』
「……情報ありがとう。引き続き観測を続けてくれ」
 言い置いて、クリスハイトは通信を切る。
「クリスハイト主任!」
 代わって通信スペースに姿を見せたのは、くすんだ灰色の髪を肩まで伸ばした少女。先だってクリスハイトと付き合いのある、とあるゾイド乗りから預けられた考古学者の卵――ナツキ・シノミヤだった。
「ああ、急がせてすまないね。これから『オールド・クロック』でエレミア砂漠に飛ぶ。一緒に来てほしい」
「エレミア砂漠……、やっぱり、例の遺跡が?」
「そうだ。……少しハードな仕事になるかも知れないが、これも経験だ。いいね?」
 部屋を出るクリスハイトの後を追って、ナツキも『オールド・クロック』に向かう。
 彼女らが向かう先、エレミア砂漠で思わぬ再会が待っている事を、ナツキは知らない。


 南エウロペ、エレミア砂漠上空。赤道付近の抜けるような青空を、二機の竜型ゾイドが舞っていた。
 漆黒の竜、ヴァルハライザー。
 白亜の竜、ブラウリッター。
「――ティオ! 聞こえますか、ティオ!?」
 ブラウリッターに乗るイリアスは、ヴァルハライザーとの幾度かの交錯を繰り返しながら、呼びかけ続けていた。
 地上にはヴァルハライザーが撃破したのであろうレドラーの残骸が、炎と黒煙にまみれて散らばっている。
(――「……――!! ……、――!!」――)
「うっ……!!」
 その光景に重なるように、イリアスの脳裏には、燃え盛る炎に巻かれ、何かを叫ぶ誰かの姿が映る。
(これは……、何……!?)
 記憶の奥底を揺さぶられる、奇妙な感覚がイリアスを襲う。
「――ティオ!!」
 振り払って、呼びかけた。
 返答は、無い。
 代わりに、ブラウリッターの後ろに付いたヴァルハライザーが、胸部ビーム砲『レギンレイヴ』を発射する。
「っく!」
 咄嗟に機体をひねり、下降して回避。追いすがるように、遅れてヴァルハライザーも下降を開始する。
 背後に迫るヴァルハライザーの気配を感じながら、なおもイリアスは、ブラウリッターを飛ばし続ける。
(そう、さっきからティオの意識が感じられない)
 イリアスが、ブラウリッターを通じて感じている気配。それは全てヴァルハライザーのもので、ティオ・ルタナ・ニーヴという個人の意識が、感じられなくなっている。
(――嫌だ!)
 その事実に、胸が強く締め付けられるような感覚を覚えた。
(あんな思いは、もう――!!)
 自分ひとりだけ、置いていかれるような思いはしたくない。
「お願い、応えてティオ!」
 だから、呼びかける。
(――「……――!!」――)
 あの時のような思いは、したくないから。
「ティオ――!!」


(――誰か、呼んでる――?)
 混濁する意識の中で、そう感じた。その瞬間だった。
(――「……お父さん!! お父さん、お母さん――!!」――)
 ティオの脳裏で、幼い少年が叫ぶ。
「――っぐ、あ……!!」
 燃え盛る炎に巻かれて叫ぶ、幼い少年の姿。よく知っている。何故ならそれは、幼い頃のティオ・ルタナ・ニーヴ自身の姿だから。
 それは、思い出してはいけない記憶。
 ティオ・ルタナ・ニーヴが心の奥底に封じ込めていた、両親を失った時の記憶だった。


「……ティオ!?」
 ほんの少し、ほんの僅かだけ、ティオの意識が感じられた。
 イリアスはブラウリッターを上に飛ばし、遅れてヴァルハライザーもそれに続く。
(――「……お父さん!! お父さん、お母さん――!!」――)
「これは……、ティオの記憶……!」
 ブラウリッターとヴァルハライザーが発する強烈な生体電磁波が互いに干渉し、両者、ひいては互いの搭乗者であるイリアスとティオの間で、記憶領域の共有が行われつつあった。
 燃え盛る炎に巻かれ、父と母の名を叫ぶ幼い少年。それは間違いなく、幼少期のティオ・ルタナ・ニーヴそのものだと、イリアスには理解出来た。
 精神感応によって生じた莫大な情報の流入が、封じ込めていた記憶を呼び覚ましてしまった事も。
(――そう、そういう事――! それなら……!!)
 もっとダイレクトに、ティオと記憶を『つなげて』やれば。
 押し寄せる莫大な情報の流入を、肩代わり出来るかもしれない。
「――やるわよ、ブラウリッター!!」
 ヴァルハライザーは、未だにブラウリッターの後ろ。イリアスは降下に移りながら、ほんの少しだけ、ブラウリッターの加速を緩める。
(この子達なら、物理的接触さえ出来れば――!!)
 速度差が発生し、二機の距離が急速に縮まる。
「……今!!」
 そして接触する寸前に、ブラウリッターが機体を上下反転させる。四本の足で、ヴァルハライザーの胴体を抱え込むように。
「――届いて!!」


(――「ねえ、今度のお休みはここに連れて行って!」――)
 ティオ・ルタナ・ニーヴは、ごく一般的な家庭に産まれた一般的な子供だった。特筆すべき点があるとすれば、興味の対象が『古代文明』という、幼い子供が対象とするには些か違和感のあるものだった事くらいだろう。
 両親が休みの日には、博物館や資料館に連れて行ってもらうよう、よくせがんだ。その時も多分、そんな感覚だったのだろう。
 ティオが行きたいと言ったのは、丁度その時一般公開されていた古代遺跡だった。
「……何度も頼んで、それでようやく、連れて行ってもらえる事になったんだ」
 ティオの眼前には、その時の記憶と寸分違わぬ光景が広がっていた。
「そして……、あの事件が起こった」
 両親と古代遺跡を訪れた、その時。
 轟音と共に遺跡は崩壊し、周囲は炎に包まれた。人々は我先にと逃げ惑い、叫び、そしてある者は炎に焼かれ、ある者は瓦礫に押し潰され、死んでいった。
 今ならわかる。これは『リヴィングス』の過激派によって行われた破壊活動であり、自分達はそれに巻き込まれたのだと。
「……これが、ティオの悪夢……なのです、ね」
「うん。俺はその後、師匠に助けられて、ホワイトロータスっていう孤児院に預けられた」
 自分自身の記憶を垣間見る、という行為に、しかしティオは不思議と違和感を覚えなかった。隣にイリアスが居ることも、ごく自然に受け入れられる。
 ここはヴァルハライザーの記憶領域、その空きメモリに形成された一種の仮想空間であり、目の前の光景は現実では無い。
 けれど、その炎は現実と同じような熱さを伴って、ティオを焼いた。
「……そうだよ。俺が、遺跡を見たいなんて言い出さなければ……! 父さんも母さんも、死なずにすんだのに……!」
 俯いて、吐き捨てた。
 燃え盛る炎に巻かれ、父と母の名を叫ぶ無力な少年。
 目の前の光景では、その少年に降り注ごうとしていた瓦礫を、一体の黒いライオン型ゾイドが身を盾にして防いでいた。
 その後の光景も知っている。黒いゾイド――ライガーゼロ・アステルから降りてきた、黒と金の入り混じった髪の長身の女性、後にティオの師となる人物に助けられ、少年期を過ごした孤児院に向かう事も。
「あなたのせいではないわ、ティオ」
 隣から聞こえるイリアスの声に、ティオは俯いていた顔を上げる。
「……あなたのせいなんかじゃない」
 噛み締めるように、自分に言い聞かせるように、イリアスは言う。
「今まで、よく我慢しましたね。ティオ。でも、もう良いの」
「……イリアス……?」
「あなたは、そう言って欲しかったんでしょう――?」
 す、とイリアスの手が伸びる。柔らかい感触が、ティオの頬を包んだ。
「今、私はあなたと記憶を共有している。だから、わかるの。――ごめんなさい、あなたをヴァルハライザーから救うには、こうするしかなかったから」
 記憶の共有、イリアスはそう言った。イリアスも、ティオと同じ光景を見ている。彼女には本来存在しえない、この記憶を。
 混濁する意識の中、微かに聞こえた呼び声。それは、もしかして。
「……イリアスが、ずっと俺を呼んでくれていたの?」
「はい。ティオに、戻ってきて欲しかったから」
「……っ」
 泣き笑いの表情で返されて、ティオは言葉に詰まる。
「……つらい記憶なのは、わかります。でも、今は私が隣に居ます。乗り越えてください。……いえ、乗り越えましょう」
 私には出来なかったから。
「……え、イリアス?」
 小さく呟かれたその言葉に、思わずティオは聞き返してしまった。
「……いえ、独り言です。何でもありませんよ?」
 誤魔化されて、そのまま。
「大丈夫、ティオは強い子ですから。きっと、大丈夫」
 大丈夫、大丈夫、と。祈るように、イリアスは繰り返す。
「……ありがとう、イリアス」
 だからティオも、応える。
「もう、大丈夫だから――」
 最後に発した言葉は、どちらのものだったのか――。


 急速に、ティオの意識が覚醒する。
「――っ!」
 コクピットの中。ヴァルハライザーとブラウリッターは、互いに抱き合うような状態で飛行を続けていた。
 ゆっくりと、ヴァルハライザーをブラウリッターから離す。相手の飛行が安定しているのを確認して、ティオはヴァルハライザーを着陸させた。
「……ありがとう、イリアス。こっちはもう大丈夫――」
 上空で旋回を続けるブラウリッター、その中に居るであろうイリアスに通信を送る。
「……イリアス?」
 だが、返答がない。代わりにティオの耳に届くのは、荒い呼吸音。
「イリアス、どうしたの?」
 その瞬間だった。
(――「……――!!」――)
 ティオの脳裏に、再び燃え盛る炎の光景が映る。
(さっきの……、じゃ、ない――!?)
 しかし、その光景は先ほどまで見ていた、ティオの記憶ではない。燃え盛る炎に向かって叫ぶのは、一人の少女。
 銀色の髪をした、一人の少女。
(――これは、イリアスの記憶――!?)
 人も物も、何もかもが燃え、崩れ行く世界で。
 一人、叫び続ける姿。
(――「戻りなさい! ヴァルハライザー、戻りなさい……戻って!!」――)
「く……!!」
 イリアスはさっき、ティオと記憶の共有をしたと言っていた。もし、それが一方的なものではなく、イリアスの記憶もティオと共有されているとすれば。
 今、ティオの脳裏に映し出されている光景は、イリアスの記憶という事になる。
(――「私を、ひとりにしないで!!」――)
 不意に、ティオは思い出す。ニクスの辺境の村で宿に泊まった時。悪夢に魘されていたティオに対して、イリアスが何を言っていたか。
 自分も時折、悪夢を見る、と。
 つらくてつらくて、どうしようもなくなる夢を見る事がある、と。
 それが、この記憶。
 イリアスの悪夢。
 記憶の共有がきっかけとなり、呼び覚まされたのだとすれば。
「――イリアス!!」
 通信機越しに叫ぶ。
 声は、返ってこない。
(……なら、さっきみたいに……!!)
 先ほどイリアスがやったように、もう一度。今度は自分が、イリアスを助ける。
 決意して、ティオはヴァルハライザーを飛ばそうとした。
 だが。
「っう……!!」
 急激に、全身の力が抜ける感覚に襲われる。
 ティオの不調と同期するかのように、ヴァルハライザーもまた、飛び立つどころか立ち上がる事すら出来ず、砂の上に倒れ伏す。
 ヴァルハライザーとの精神感応による、膨大な情報の流入――ティオは知らないが、大部分をイリアスが受け流していたとはいえ――により、ティオは精神的のみならず、肉体的にも大きく疲弊していた。少しでも気を緩めれば、意識を手放してしまいそうになるほどに。
 そしてそれは、ヴァルハライザーも同じだった。長距離飛行からの対地攻撃と空戦で、一時的なエネルギー切れに陥っている。
(……今、行かなくてどうするんだよ、ティオ・ルタナ・ニーヴ!!)
 今、苦しんでいるのはイリアスなのに。
 今の彼女は、あの夜の自分と同じだ。望まぬ悪夢を見せられ、苛まれている。
 そうさせたのは、誰だ?
(――俺を助けようとして、イリアスは――!!)
 私には出来なかったから。
 ティオの脳裏に、イリアスが呟いた言葉が蘇る。
 彼女が乗り越えられなかった記憶。
 心の奥底に、封じ込めていた記憶。
「――っ!!」
 見上げる。ブラウリッターは、なおも旋回を続けていた。
「……イリアス……!」
 せめて、声だけでも届けたかった。
 けれど、それは届く事無く。
「……イリアス――!!」
 見上げるティオ、その先で、白亜の竜――ブラウリッターが、機首を北へと向けた。
(――イリアス――!)
 薄れ行く意識の中でティオが見た光景は、白亜の竜が飛び去る姿。


 つづく。
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完全版 第四話あとがき

2016-01-25 00:00:21 | エウロペの片隅から
「佳境となる、第四話をお送りいたしました」

「今回もそこまで大きな改稿は無い、のかな?」

「そうですね。まず最初の部分に、旧版では次回第五話からすごく唐突に出てきた『古き風の音』の描写を挿入しています」

「この辺は、元々『完全版』とするにあたっては必ず入れようと考えていた部分だね」

「後の流れは旧版と殆ど変わりません。……が、それなりにどうでもいいであろう変更点がひとつ」

「イリアスの搭乗機だね。文中では『ブラウリッター』のままだけど、あれ実際には『ブラウリッター・シュテルン』になってるんだっけ」



「はい。旧版完結後に作成した、ご主人様の改造ゾイドですね」

「ちなみに、無印ブラウリッターはこっち」



「今回の完全版掲載に伴い、今まではこの無印ブラウリッターのアップデート機がシュテルンという設定だったのですが、変わりました」

「無印ブラウリッターが、旧トローヤ王朝時代から運用されていた『オリジナル』。そしてシュテルンが、レドラーの素体を利用して再建造された『現代版』……となるよ」

「このあたりに関しては、『完全版』最終話まで掲載後に『設定類』の方で詳しくまとめますので、それまでお待ちいただければと思います」

「それから、イリアスの方の悪夢描写にセリフが入ったね」

「これも一種の『やり残し』ですからね。……完全版では、私の過去に具体的に何があったのか……まで、描写する予定のようです」

「さて、果たしてそれであと二話で終わるのか」

「……『終焉の遺伝子』に繋ぐための番外編というか、アフターエピソードもあるようですので……」

「あと、流石に一気にやり過ぎたので次回の更新は30日にはならない……と、思われるよ」

「実はまだ第五話の改稿作業が最後まで終わっていないようです」
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ストラトス・フォール完全版 第三話

2016-01-20 00:04:25 | ストラトス・フォール完全版
 トレジャーハンターの少年ティオ・ルタナ・ニーヴは、テュルク大陸の古代遺跡で出会った銀髪の少女イリアス、そしてワイバーン型ゾイドヴァルハライザーと共に、イリアスの『探し物』である古代の記録メダルを探す事となった。
 ニクスの辺境の街で一夜を明かした二人は、メダルが眠っているであろう場所へと飛び立つ。


「エレミア砂漠、か。ここから飛ぶには結構な距離だけど……」
 イリアスから伝えられた、メダルが残っている遺跡の場所。それは昨晩ティオ達が泊まったニクス辺境の街から遥か南、西方大陸エウロペの南部に存在する砂漠の真っただ中だった。現在は民間の調査隊により、発掘が行われているらしい。
「ええ。でも、ヴァルハライザーなら無補給で充分飛べますよ」
 どうやらイリアスがヴァルハライザーを探していた理由の一つが、この航続距離のようだった。飛行ゾイドの航続距離は、無限ではない。
 しかしヴァルハライザーはいかなる技術を使っているのか、暗黒大陸の都市チェピンから中央大陸のヘリックシティまで、無補給で往復できるというのだから驚きだ。
 これならば、目的地までの移動手段は問題にならない。
「……イリアス、狭くない?」
 そんなわけで現在、ティオとイリアスはヴァルハライザーに同乗して、エレミア砂漠を目指す空路の上に居る。
「いえ、大丈夫ですよ。ティオこそ、私は重くありません?」
「いやいや全然」
 コクピットには一人用のシートしかないので、相変わらずティオはイリアスを膝の上に座らせたままである。昨日は状況が状況だったために気にならなかったが、落ち着いた今となっては、間近に感じられるイリアスの体温や身体の柔らかさなどを妙に意識させられてしまう。
(……添い寝までしといて今更、かも知れないけどさ)
 気になってしまうものは仕方ない。
 そんなわけでなるべく意識しまいと、ティオは何くれと無くイリアスに話しかける。
「そういえばさ、イリアスって何歳なの?」
 不意に浮かんだ疑問を、ティオは率直に口にした。外見的には、自分と同じか少し下くらいに見えるが……。
「もう、女性に年齢を聞くのは失礼ですよ?」
「……ごめん」
「多分、貴方よりは年上だと思いますけれどね」
 意外な言葉を聞いた。実際ティオは童顔なのも相まって、実年齢より幼く見られる事も多々あるのだが。
「そう? 一応これでも、もう16なんだけど」
「じゃあ、私の方が年上です。教えませんけどね」
 くすくすと笑いながら、イリアスは答えをはぐらかす。そんな彼女の様子を見て、ティオはふと、あることに気付いた。
(……あれ、何だろ。彼女の笑い方……、何処かで)
 ヴァルハライザーを見付け、イリアスと出会ってからこっち、数種類の妙な既視感がティオを襲っていた。今回もそうだ。ティオの反応が面白いのか、笑みを零すイリアスの姿に、何かが記憶に引っかかる。
(まあ、でも……、それは置いとくとして、も)
 ……綺麗だな、この子。
 ティオの思考の片隅に、そんな言葉がよぎった。
「……どうかしましたか、ティオ?」
 そこでようやく、自分がイリアスをまじまじと見つめていた事に気付く。
「あ、いや、別に。ごめん」
「……? なら、良いのですけれど」
 きょとん、と首を傾げるイリアスと、気恥ずかしくなって視線を逸らすティオ。
「……と、ところでイリアス、あのメダルを探してどうするの?」
 気まずい空気をごまかすように、ティオはふと疑問に思った事をそのまま口にした。成り行きと勢いでイリアスの探し物を手伝っているわけだが、深い理由まで突っ込んでは聞いていなかったのだ。
「学術的興味、とか?」
 姉代わりに考古学者の卵が居る事もあって、まずティオが思いついたのがそれだった。
 聞かれたイリアスは、僅かに視線を泳がせる。
「あ、言いたくないなら別に良いんだけど……」
「いえ……、そういうわけでは、ないです」
 歯切れの悪いイリアスの返答に、ティオは興味半分疑問半分といった所だ。とはいえ、話したくない内容を無理に聞き出そうとも思わない。
「ちゃんと、話します。全部終わったら。……それまでは」
 目を伏せて、イリアスが言う。心中にいかなる感情が渦巻いているのか、ティオに察する事は出来なかったが、あまり良い感情ではない事くらいは理解できた。
「……うん。わかった、それまでは聞かない」
 これで終わり、と言わんばかりに、ティオの方から会話を切る。
「……ありがとう、ティオ」
「いや、聞いた俺が悪かったんだから……」
「そっちではないです。……私といっしょに来てくれて、ありがとうございます」
 イリアスに真正面から見つめられ、ティオはしばし言葉を失った。
「久しぶりなのです。誰かと、こうして一緒に過ごす事。こんなにも、暖かかったのですね」
 ぽつりぽつりと、零れるように話されるイリアスの言葉。ティオも思い出す。2年前までは、自分にも隣にいてくれる人が居た。独り立ちをして最初の頃は、時折どうしようもない寂しさに襲われていた事もある。
 そんな風に過ごすうちに、いつかは慣れてしまう。それが人なのだ。慣れる、という行為は、一種の防衛行動なのだとティオは思う。
「……うん、そうだと思う。誰かが隣に居るだけで、暖かいんだよ。きっと」
 けれど、慣れるという事は忘れる事と同義ではないから。
「そう、ですね……」
 気がつくと、イリアスに手を握られていた。青く澄んだ瞳に、じっ、と見つめられる。
「……」
「え?」
 聞こえないほどに、小さく。イリアスが、何かを呟いた。
「……いえ、独り言です。何でもありませんよ?」
 悪戯っぽく、イリアスが微笑む。その表情に、ティオの胸が高鳴り、同時に――締め付けられる。先ほども感じた、小さな違和感に。
(……でも、やっぱり)
 綺麗だと、ティオは思った。もっと見たいと。見ていたい、と。
「ねえ、イリアス」
 だからティオは、そのまま言葉にした。
「……この宝探しが終わった後も、俺と一緒に来ない?」
 イリアスの表情が変わる。驚き、困惑、そして……少し、泣きそうになっていた。
「……ごめんなさい。多分、それは出来ません」
 半ば予想していた答えだった。そもそもさっきの誘い自体、殆ど勢いで言ってしまったようなものだから。
 少しだけ、残念ではあるけれど。
「そっか……」
「でも、その気持ちは嬉しいです。だからティオ、これから……よろしくお願いしますね」
 せめてそう言ってもらえるだけでも、ティオは嬉しかった。


 そうして二人がたどり着いたエレミア砂漠の古代遺跡は、燃えていた。
 より正確に言うならば、襲撃を受けていた。襲撃者は、戦闘用ゾイド部隊。それもサソリ型奇襲戦用機『ガイサック』や、イグアナ型特殊工作ゾイド『ヘルディガンナー』の砂漠使用といった砂漠戦に特化した部隊だ。
 彼らが襲撃しているのは、古代遺跡そのものだけではない。この遺跡を発掘している調査隊に対しても、その牙を向けていた。
「……また、こいつらか!!」
 襲撃者が用いるゾイドに施された、歯車をかたどったマーク……『リヴィングス』のマークを確認したティオは、怒りの声を上げる。
 遺跡破壊を目的とした、過激派のゾイド部隊だ。
「イリアス、しっかり捕まってて!!」
 返事を待たず、ティオはヴァルハライザーを降下させた。遺跡に砲門を向けているヘルディガンナーの鼻先に、胸部のビーム砲を叩きこんだ。
「今のは警告だ!! 攻撃を止めて、ここから立ち去れ!」
 オープンチャンネルで、ティオは過激派のゾイドに告げる。
 砲火が止んだ。しかし次の瞬間には、彼らはヴァルハライザーに狙いを付けている。
「聞く耳持たずか!!」
 上昇、旋回。ヴァルハライザーが滞空していた空間を、ガイサックとヘルディガンナーの砲撃が通過する。
「なら、こっちも容赦しない……!!」
 先ほどは鼻先を掠めさせた胸部ビーム砲を、今度は直接ヘルディガンナーに向ける。
 ロックオンされたことに気付いたのか、ヘルディガンナーは砂に潜る。しかし構わず、ティオはトリガーを引いた。
 閃光が走る。砂を焼きながら、膨大な熱量がヘルディガンナーを襲った。一瞬遅れて、爆発。
 ティオはビームを放ったまま、ヴァルハライザーを旋回させる。射線上に並んでいた過激派のゾイド達が、次々と巻き込まれて大破炎上していった。
 それを見て形勢不利を悟ったか、残ったガイサックとヘルディガンナーが撤退行動を開始した。おおよそ半分ほどだろう。
「……ティオ、降りましょう。調査隊の生存者を探さないと」
 イリアスの声に、ティオは我に返った。そして無意識に、撤退してゆくゾイド達に照準を合わせていた事に気付く。
「そう……だね」
 トリガーから指を離し、ティオは大きく息をついた。
 ヴァルハライザーを降下させ、遺跡――今は遺跡『だった』場所に降りる。未だあちこちで炎が上がっており、乾燥した空気と熱波が、二人に襲い掛かった。
「……駄目だ、これじゃ……。多分、誰も生きてない」
 直に見てみると、絶望的な状況だった。恐らく警告も無しに砲撃を受けたのだろう。遺跡の建造物に押し潰された者、炎に焼かれた者……。
「イリアス、あまり見ない方が」
「……いえ、慣れていますから」
 ティオにしても直視に堪えない光景だったが、イリアスは平淡な表情のまま、その様子を見据えていた。それを見て、ティオも若干の落ち着きを取り戻す。
「何で、こんな事……!」
 とはいえ、いつまでもこの場で立ち尽くしているわけにもいかない。当局に連絡しようと、ティオが端末を取り出した直後だった。
「――!?」
 ティオは弾かれたように、顔を上げる。まるで脳内に直接、警戒アラームが響いたような感覚だった。
「何か、来る……!」
 ヴァルハライザーのコクピットに戻る。レーダーが、高速でこちらに接近する機影を捉えていた。陸上機が出せる速度ではない。飛行ゾイド――それも、空対空戦闘が可能な超音速機だ。
「イリアス、隠れてて! やばいのが来る!!」
 言い捨てて、ティオはヴァルハライザーのコクピットを閉じた。イリアスが戸惑っている様子が見えたが、四の五の言っていられない。
 飛び立つ。
(相手が空戦ゾイドじゃあ、逃げようにも逃げられない……!!)
 飛行速度から、厄介な相手である事は予想が付いた。旧ゼネバス帝国製ドラゴン型ゾイド『レドラー』が4機。空対空戦闘に特化した、純粋な戦闘機型のゾイドだ。
 長きに渡る戦争により、飛行ゾイドは多くが数を減らしていた。最強の戦闘機型ゾイドと呼ばれた『ストームソーダー』は言うに及ばず、『サラマンダー』、『レイノス』といったヘリック共和国製の高性能飛行ゾイドが殆ど見られなくなった現在、マッハ3の最高速と高い格闘性能を持つレドラーは、非常に強力な戦力と言える。
(そんなゾイド、奴らは一体何処から手に入れている――?)
 この襲撃者が本当に『リヴィングス』の過激派だと言うのなら、そのバックには軍でも付いているのかも知れない。ティオはそんな思考を強引に切り替え、目の前の敵に集中する。
「――っ!!」
 胸部のビーム砲を掃射する。めいめいに旋回して避けるレドラーだが、逃げ切れなかった一機が光の奔流に飲み込まれ、炎と煙に変わる。
(――「……――!!」――)
「……っ、また……!!」
 その瞬間に、ティオの脳裏にあの悪夢が浮かぶ。
 炎に巻かれ叫ぶ、無力な誰か。振り払えない。
「――ッ!!」
 衝動のままに、ティオはヴァルハライザーを突撃させる。編隊を組みなおそうと集結していた三機のレドラー、その隊列のど真ん中に。
「――堕ちろ!!」
 ヴァルハライザーの左主翼が半ばから割れ(・・・・・・)、翼下に存在した副翼を先端にしてクローアームに変形する。勢いのまま、巨大な爪がレドラーの首に食い込み、次の瞬間には本体と頭部を捻じ切っていた。
(――「……――!! ……、――!!」――)
 その度に、ティオの脳裏で、誰かが叫ぶ。
 怒りが、ティオの心を支配する。
「……やめろ……!!」
 炎。燃え盛る。叫び。声が聞こえる度に、ティオの心が軋む。
 一機のレドラーが、尾部に装備されたレーザーブレードを閃かせて襲い掛かる。
「――来るなぁっ!!」
 右主翼を変形させ、クローアームを叩きつける。カウンター気味に刺突されたレドラーは胴体左側を大きく抉られ、そのまま砂漠に落下して爆散する。
(――「……!! ……――、――!!」――)
 その時、不明瞭だった誰かの叫びが、僅かにティオの耳に意味を持って届いた。
(――「……お父さん!! お父さん、お母さん――!!」――)
 そう感じた瞬間に、叫びがはっきりと聞こえた。それを叫んでいるのが、誰なのかも。
 思い出した。
「――ぅうあああぁぁぁ!!」
 思い出しては、いけない記憶だった。
 最後に残ったレドラーが、形勢不利を察してか反転し、離脱しようとする。本能的に追おうとするヴァルハライザー、それを遮るように、一条の閃光が空を薙いだ。
「……!!」
 閃光に遅れて、白亜の竜が上空から舞い降りる。レドラーと酷似したシルエットを持ち、しかしその姿は違う。
 そしてティオは、否、ヴァルハライザーはその名を知っていた。悠久の時を経て、ついに対峙した仇敵にして、唯一の同胞とも言うべき存在。
「――ブラウリッター――!!」


 少し前、地上。
 上昇するヴァルハライザーの姿を、イリアスは呆然と見送る他なかった。
「……ティオ、あなたはやっぱり、『竜使いの民』の末裔だというの?」
 遥か古代に滅びたはずの民族。竜種ゾイドと精神感応し、使役する能力を持った者たち。
 ティオ・ルタナ・ニーヴという少年は、彼らの血を引いている。
 でなければ、ヴァルハライザーを操縦出来るはずがない。
「でも、それは……!」
 もし彼が、本当に竜使いの民の末裔ならば。
 ヴァルハライザーとの精神感応が、ティオに悪影響を及ぼしかねない。本来、彼らと竜種ゾイドとの精神感応は、厳しい訓練の上で行われるものだ。ヒトとゾイドでは、認識も、処理できる情報量も違う。
 与えられる情報の膨大さに、常人の脳が耐えられるとは思えない。もし耐えきれなければ、絶え間ない情報圧力が理性を押し流し、本能のみで暴走する存在になり果てる。
 先ほどのティオの様子には、その兆候が見え隠れしていた。
「――止めなきゃ」
 隠れていた遺跡の、外へ向かう。
 テュルクの遺跡でヴァルハライザーを再起動させた時点で、万が一に備えてずっと超高空で待機させていた半身――『ブラウリッター』を呼び寄せる。
「ティオを、助けなきゃ」
 ただ、その一心で。


 つづく。
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